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8. 湿し水とpH値
「湿し水(使用する水質がポイント)を制する者はオフセットを制する」
▼pH値について
水溶液がアルカリ性(例:カセイソーダ)、酸性(例:塩酸、リン酸)を示す値。
湿し水の性質はpH値とその成分によって決まり、pH値が小さくなるほど酸性の性質が強く、大きくなるほどアルカリ性となります。
※pH試験紙があり、これを水中に浸けると変色し、この色によってpHが簡単に分かります。
▼湿し水の役割
・非画線部に着いてインキが非画線部に乗らないようにします。
・非画線部の親水被膜が弱くならないように常に親水被膜を強化します(添加薬品、エッチ液)。
・インキローラー上でインキの中に取り込まれ、エマルジョン(油中水型、乳化)を形成し、これによってインキの転移性をよくさせます。
・非画線部を薄い水膜で均一に覆い、不感脂化を維持してインキが着かないようにします。
※感脂化−画線部−親油性−インキを呼ぶ
※不感脂化−非画線部−親水性−水を呼ぶ
▼エッチ液の役割
水道水をオフセット印刷に適した水に生まれ変わらせるための化学薬品で、このエッチ液の原液を加えた水を湿し水と言います(IPAの入ったものも湿し水と呼びます)。
エッチ液の主成分:
樹脂(アラビアゴム)、溶剤、酸(有機・無機)活性剤(リン酸・塩酸)、防腐剤、酸化防止剤
▼IPAの役割
IPA(イソプロピルアルコール)には湿し水のpH値に対し、ほとんど影響を与えないで湿し水の表面張力を下げる役割があります。
表面張力が下がることにより、湿し水(エッチ液のみ)の被膜がさらに薄く均一となり、湿し水を減少させることができます。
IPAを添加することにより、水の粘度が上げられるため、少ない水の量で版面上により薄い膜厚で濡らすことができるのです。
※IPAの使用は、湿し水量の5%を限度とし、5%を超えると労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則に触れます。
▼「pH」って何?
pHは、「ペーハー」または「ピーエイチ」と読みます。
水に含まれる水素イオンの濃度を表す記号で、基本的には1Lの水の中に何グラムの量の水素イオンが入っているかを表す記号です。
pHは1〜14の数字で表示し、7が中性です。1〜7までの値はその数字が小さいほど強い酸となり、7〜14までの値は数字が大きいほど強いアルカリとなります。
水(H2O)は水素原子と酸素原子が化学結合した分子だけでなく、水中の自由水素イオン(H+)と水酸基イオン(OH-)に電離して存在しています。この自由水素イオンの量を測定することでpH1〜14のどの付近の液体かが分かります。
水素イオンの量と水酸基イオンの量がちょうど釣り合うところがpH7で中性となり、そのバランスが水素イオンに傾けば酸性で、水酸基イオンに傾けばアルカリ性となります。
その測定は、具体的には1Lの水の中に水素イオンが
0.1gある場合をpH1
0.01gある場合をpH2
0.001gある場合をpH3
というように0.1単位で水素イオンが減るごとにpH値が大きくなります。
※一般的には、オフセット印刷における湿し水のpH値は5〜6がよいと言われています。
▼pH値と印刷の関係
@ pH値が小さすぎる(酸性が強すぎる)場合
湿し水は酸性の場合の方が汚れを除く力は強いです。しかし、あまり酸性にすると(たとえば、pH3以下)非画線部の金属が溶かされて逆に汚れの原因となります。また、インキ乾燥が遅くなったり、刷版の耐刷力がなくなったりして版持ちが悪くなります。
A pH値が高すぎる(アルカリ性が強すぎる)場合
非画線部の親水被膜が壊れやすくなり、汚れが出やすくなります。インキと水が混じりやすくなり、汚れやその他のトラブルを引き起こす原因となります。
▼どうして水だけじゃダメなのか?
水。普通にいう水道水だけでも印刷はできるだろうかと問われれば、答えは「YES」です。しかし、残念なことに水道水だけでは非画線部が何らかの要因で感脂化の方向にある場合、「不感脂化への修復」ができません。
また、版面の微妙な「キズの修復」もできません。したがって、画線部周辺での吹き溜まりのような微量なインキ絡みが「画線部(画像)」の太りとなってしまいます。
さらに起こりやすいトラブルとして、水道水だけで長時間印刷を行った場合や水の量が多すぎた場合によく見られる現象として、ローラーストリップ現象が起こりやすくなります。これは、インキの抱え込める水の量には限界があるため、それ以上の量の水分はインキの表面に押し出され、この押し出された水分が今度は印刷機をさかのぼって極端な場合はすべてのローラーに付着し、親水性の吸着層を形成してインキを受け付けなくなってしまいます。
※水だけで印刷できればこんなによいことはないのですが、トラブルの未然防止や発生の損失を考えますと、現時点では非常に難しいと考えます。
※現在では、連続給水装置が主流となり、版面への湿し水をさらに薄い膜にしなければ印刷インキと水のバランスができませんので、エッチ液、IPAを使用しないと管理が難しくなってしまうという状況も生まれています。
▼水とインキのバランスとは何?
オフセット印刷方式を一言で言えば、水と油の相反発する力を利用した方式です。
PS版上の感脂化された部分と不感脂化された部分を湿し水によって分けて印刷しています。そのため、水の量が必要以上に多くなると、インキは乳化という現象を起こしやすくなり、浮き汚れや乾燥性の低下などのトラブルを引き起こし、汚れたり光沢のない印刷物になってしまいます。
また、反対に水の量が少ないと地汚れなどのトラブルを引き起こし、結局、使いものにならない印刷物を作ってしまうことになります。もちろん、トラブルが発生するにはさまざまな要因が潜んでいて、本当の原因を見つけ出すためには苦労するものです。
水とインキそれぞれの表面張力の問題、原水のpHの問題、紙の問題、温湿度の問題など諸要素は山積みですが、それにしてもPS版の版面に形成されるミクロン単位の薄膜により水はインキをはじき、インキは水をはじきながら印刷されるオフセット印刷方式という絶妙なバランスを保つことで成り立つ方式だということが分かると思います。
▼湿し水の管理
湿し水の管理としては、「エッチ液」の選択、濃度管理のほかに、湿し水循環装置の保守管理がとくに大切です。
※版面温度を適正に保つ(25〜27℃)ためには湿し水の温度を正しく管理することが必要です。
[湿し水温度]
循環タンク:10〜12℃
水舟:15〜17℃
※湿し水の交換/循環装置の水槽、フィルターの掃除は最低1回/月は実行しましょう。
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