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4.5.5 内部監査

 組織は、次の事項を行うために、あらかじめ定められた間隔で環境マネジメントシステムの内部監査を確実に実施すること。

a) 組織の環境マネジメントシステムについて次の事項を決定する。

 1) この規格の要求事項を含めて、組織の環境マネジメントのために計画された取決め事項に適合しているかどうか。
 2) 適切に実施されており、維持されているかどうか。

b) 監査の結果に関する情報を経営層に提供する。

 監査プログラムは、当該運用の環境上の重要性及び前回までの監査の結果を考慮に入れて、組織によって計画され、策定され、実施され、維持されること。

 次の事項に対処する監査手順を確立し、実施し、維持すること。

− 監査の計画及び実施、結果の報告、並びにこれに伴う記録の保持に関する責任及び要求事項
− 監査基準、適用範囲、頻度及び方法の決定

 監査員の選定及び監査の実施においては、監査プロセスの客観性及び公平性を確保すること。

1. 内部監査の目的

内部監査およびそのプログラム、手順を確立する目的として次の3つが掲げられています。

1) 組織の環境マネジメントシステムがこの規格要求事項を含めて、環境マネジメントのために計画された取決め事項(環境マニュアル、各種規定類、実施計画など)に適合しているかどうかを決定する。
2) 環境マネジメントシステムが適切に実施され、維持されているかどうかを決定する。
3) 監査の結果に関する情報を経営層(社長などにマネジメントレビューのための情報として)に提供する。

1)は、システム監査と呼ばれるもので、環境マネジメントシステムがJIS Q 14001などの要求事項をすべて満たしているかということについて、主に文書や記録類をチェックすることで確認する作業です。簡単に言えば「JIS Q 14001と環境マネジメントシステム文書・記録との比較による監査」ということになります。

2)は、実行監査と呼ばれるもので、システム監査で一応合格した環境マネジメントシステムで決められているとおりに実行されているかどうかを確認する作業です。いくらすばらしい環境マネジメントシステムであってもそれがそのとおりに実行されていなければ何の意味もありませんので、この確認が極めて重要となります。

これら1)〜3)を行うための監査プログラム、手順を作り上げて実行します。

システム監査と実行監査

2. 内部監査員の選任

内部監査員は組織が自ら選任すればよいわけですが、誰にでもできるということではなく、能力・適性を考慮しなければなりません。内部監査員に求められる資質には、

・ 勤勉である
・ 機密保持ができる
・ 誠実である
・ 社交的である
・ 自制心に富む
・ 忍耐強い
・ 分析力がある

などが挙げられます。しかし、これらの資質を備えているからと言ってそいほれと簡単に勤続年数の浅い人を内部監査員にすると、相手がお偉いさんの場合には太刀打ちできなくなってしまいますので、少なくとも監査チームリーダーには名実ともに実力のある人を充てるべきでしょう。

選任の基準も組織が決めればよいのですが、専門研修機関による外部講習(2日間程度)を修了することを前提条件にしているのが一般的なようです。内部監査員として要求される力量には次のようなものが挙げられます。

・ JIS Q 14001の理解
・ 自分たちの環境マネジメントシステム(環境マニュアル、規定類など)についての理解
・ 施設運用の知識
・ 環境科学の知識
・ 関連する法規制の知識

もちろん、内部監査員自身による地道な努力が必要不可欠であることは言うまでもありません。

また、監査チームリーダーは、

・ 監査の指揮統括
・ 対象の環境マネジメントシステムの評価判定
・ 報告書の作成

といった役割・責任を負いますので、さらにチームのマネジメント力も要求されます。

3. 監査の頻度

内部監査はあらかじめ定められた間隔で実施することが要求されています。“あらかじめ定められた間隔で”は、原文では“at planned intervals”となっており、定期的な実施というよりは計画した間を置いての実施という意味合いになっています。つまり、状況を見ながら次回の内部監査をいつ実施するか決めてもよいのです。いずれにしても、内部監査をいつ実施するかは組織自らが決めることになります。

4. 監査の範囲

監査の範囲は、“適用範囲”で定めた活動、製品およびサービスをすべて網羅しなければなりませんが、1回の内部監査でこれらすべてを範囲に含める必要はないでしょう(ただし、認証取得前に行う内部監査はすべて網羅していなければなりません)。

内部監査は、部署ごと(縦割り)に実施するのが通例だと思いますが、いくつかの部署にまたがるようなプロセスがある場合は関連部署をそのプロセスに沿って横断的に監査する方法も推奨されています。

範囲として、社長や環境管理責任者・推進事務局も含めるかどうかという問題もありますが、内部監査の独立性と環境マネジメントシステム自体の継続的改善を考慮すると含めるべきと言えるでしょう。とくに環境管理責任者・推進事務局は環境マネジメントシステムの構築・運用の担い手という点からもシステム監査を中心として実施すべきでしょう。経営者は通常の場合、監査依頼者という立場ですが、経営者としての責任を果たしているかという観点から監査対象としても構わないと考えます。

5. 監査プログラム

内部監査を実施するためにあらかじめプログラムを立てます。プログラムとしては年間の大雑把なものと個別監査の詳細なものの2本立ての場合が多く(とくに要求はされていませんが)、とくに個別監査のプログラムには次のような項目を含めるとよいでしょう。

・ 監査の区分(定期監査/臨時監査など)
・ 監査の目的・範囲(サイト、監査対象部署など)
・ 監査基準(JIS Q 14001、環境マニュアルなど)
・ 監査手順
・ 監査チーム編成(監査チームリーダー、メンバー)
・ 実施場所
・ 日程・時間割
・ 特記事項(環境上の重要性を考慮した重点監査項目など)

内部監査はこのプログラムに基づいて行います。

6. 内部監査の実施と報告

監査プログラムに基づいて内部監査を実施するに当たっては、監査漏れの防止および監査の効率化という目的でチェックシートを準備しておくとよいでしょう。チェックシートには前回までの監査における指摘事項の是正状況の確認も含めておきましょう。

また、内部監査実施時のポイントとしては次のような項目が挙げられます。

・ 環境側面の取りこぼし防止
・ 目的・目標の達成状況、ミニPDCAの実態
・ 各手順を実行する上での実態
・ 各所で最新の(または適切な版の)文書のみが利用されていること
・ 教育訓練の実施状況
・ 法規制順守の確認
・ 環境マネジメントシステム文書で規定する記録の確認

内部監査で得られた情報は事細かにチェックシートに記録し、監査チームリーダーが責任を持って報告書という形で監査依頼者(経営者)に提出します。これはマネジメントレビューにおける重要な情報源(インプット)となります。報告書に含めるべき項目としては次のようなものが挙げられます。

・ 日付
・ 監査チームリーダーの署名
・ 監査所見、およびそれを裏付ける証拠
・ 被監査側組織の名称
・ 合意された監査の目的
・ 実施された監査に用いた参照文書の一覧表を含む合意基準
・ 実施された監査の期間および日付
・ 監査に参加した被監査側代表の氏名
・ 監査チームメンバーの氏名
・ 内容が機密である旨の記述
・ 監査報告書の配付先の一覧表
・ 監査中に経験した障害を含めた監査のプロセスの概要
・ 監査結論
 − 監査基準に対する環境マネジメントシステムの適合性
 − 環境マネジメントシステムが適切に実施され維持されているか否か
 − 経営層によるマネジメントレビューによって、環境マネジメントシステムの継続的な妥当性および有効性が確保できているか否か

内部監査で発見された事実を不適合として指摘する場合は、次の要件を十分に考慮しましょう。

発見された事実(客観的証拠の特定):
不適合の客観的証拠(エビデンス)=監査証拠はどれか

監査基準の該当条項・規定(該当条項の特定):
監査基準のどの要求事項に関わるのか

不適合であることの説明(不適合の該当性):
発見された事実がなぜ該当条項・規定に抵触するのか

なお、単なる印の押し忘れやファイルミスのような重箱の隅を突くようなことを指摘することに固執するのはほとんど意味がありませんし、内部監査員としての力量が疑われます。しかし、あまりにもそのような状況が多い場合には、その背景となるシステムそのものの欠陥、責任・権限の不明確や周知徹底の度合いを問題視する必要が出てくるかもしれません。

指摘事項に対しては是正要求を出し、是正状況をフォローアップ監査で確認します。この結果も監査依頼者に報告します。

7. 内部監査時の注意事項

a) 自説を押しつけない

昔の個人的経験、他社の実績などを持ち出すことは決して悪いことではありませんが、“独断の押しつけ”は質の悪い監査の代表例です。内部監査員がまず行うのは「JIS Q 14001の要求事項」と「被監査側の環境マネジメントシステム」との比較です。

b) 環境マネジメントシステムの改善に役立とうという心がけ

内部監査には環境マネジメントシステムの改善のためのアドバイスも目的として含まれます。ただし、“押しつけ”にはならないように注意しましょう。

c) 審査を念頭に置いた指摘事項への心がけ

審査がサンプリング方式という限界を持っていることを考えると、組織の隅々まで見渡すことのできる内部監査の結果は重要な証拠資料となります。審査の際にも環境マネジメントシステムの運用状況の確認のためにじっくりと見られることになります。つまり、内部監査の結果は審査の穴埋めになり得るということです。

8. 内部監査の実施手順の例(原則と指針はJIS Q 19011を参照)

a) 内部監査手順と監査計画の作成

1) 内部監査手順の制定

環境マニュアルの規定に従って内部監査の具体的な手順を文書化しておく。

2) 内部監査員の資格認定

社内の各部門から選抜して、環境管理責任者または監査責任者が認定基準に基づいて内部監査員の資格認定を行い、「内部監査員資格認定リスト」に登録する。

通常内部監査員は、内部監査員コースの修了者を充てることが多いが、知識・能力などが十分であると評価されれば、必ずしもこれにこだわる必要はない。

3) 監査実施計画の作成

内部監査の一定期間の具体的な計画を立てる。活動、製品およびサービスの環境上の状況、重要性に基づいて計画する。

4) 被監査部門に実施の意向を伝え、確認を得る

事前に被監査部門に監査実施の意向を伝え、受入れ態勢の確認を行う。

5) 監査チームの編成

監査チームリーダー、メンバーの選定を行う。

[客観性]
・ 監査チームの独立性
・ 偏見なく、または利害対立がない

[監査員の質の確保]
・ 独立性、知識と専門家としてのレベル

6) 環境マニュアル/規定類などの要求

監査チームは監査対象部門の環境マニュアル、規定類などを事前に確認するために、当該部門に提出を求める(JIS Q 14001および環境マニュアルの規定要求事項に合致しているかのチェック)。

7) 監査チェックリストの作成

監査の確認事項をチェックリストに記入しておく。

[チェックリストの利点]
・ 組織的に監査を行うことができる
・ 監査すべき事項の抜けをなくす

8) 被監査部門を訪問し、事前調査および調整

監査の目的と監査範囲の確認、および現場事務所などを確認する。

9) 監査プログラムの提出

監査の日時、監査場所、担当監査チームなどを記述し、被監査部門に送付し、相互に確認する。
・ 初回会議(全体会議、環境マニュアル質疑)
・ 最終会議(全体会議)

b) 監査の実施と監査報告書の作成

10) 文書監査

環境マニュアル、規定類などの環境マネジメントシステム文書を監査し、規格要求事項との整合性を確認する。

11) 現場監査

[初回会議]
・ 監査チームメンバーの紹介
・ 監査の目的と範囲の確認
・ 監査スケジュールの確認
・ 監査の実施方法の説明
・ 最終会議の日時の確認

[監査作業]
・ チェックリストにより、5W1Hを基本として質問をする

[面接および現場視察]
・ データ収集の有効な手段である
・ チームが一連の監査基準によって、監査を遂行しやすいようにする
・ 必要に応じて、さらに詳しい調査が可能になる
・ 現場の人が環境マネジメントシステムを理解して仕事をしているかを確認する
・ 文書監査および現場監査の結果を再度確認する

[監査チーム会議]
・ チームリーダーが、メンバーの指摘事項をすべて照査する
・ メンバー間の意見の食い違いを解決する
・ 不適合報告書の作成

[最終会議]
・ 監査結果の内容を被監査部門に説明する
・ 是正処置の文書による回答を要求する
・ フォローアップ監査の日時および方法を協議する

12) 議事録の作成

監査チーム、被監査側双方での確認に基づき議事録を作成する。

13) 監査報告書の作成・保管

次の項目を含めた監査報告書を作成する。

・ 被監査部門の名称
・ 被監査側の責任者、代表者
・ 監査チームメンバー
・ 目的/範囲
・ 基準規格
・ 監査実施日
・ 監査経過の要約
・ 指摘事項/提案事項

14) 監査結果の通知

監査結果を被監査部門に知らせる。

c) 是正処置

15) 是正処置の検討

被監査側で監査報告書の指摘事項に基づき、是正処置の検討を行う。

16) 是正処置案の回答

被監査側で是正処置の回答案を作成し、監査チームに提出する。

17) 是正処置の監査、承認

監査チームで是正処置の監査を行い、妥当と認められる場合、承認する。

d) 是正処置のフォローアップ

18) 是正処置の実地検証/監査

監査チームは、是正処置が適切に行われているか確認し、必要に応じてフォローアップ監査を行う。

19) 監査記録作成、保管

監査責任者は、監査記録を保管する。

20) マネジメントレビューへのインプット

フォローアップ監査を含む監査結果を経営層に報告し、マネジメントレビューのための情報源(インプット)とする。

内部監査員養成講座資料(参考資料)

9. 質問と回答

質問内容 回答
内部監査における「監査基準」とはどういう意味ですか? “監査”とは、“監査基準”が満たされている程度を判定するために、監査証拠を収集し、それを客観的に評価するためのプロセスです。また、内部監査の目的は、EMSが環境マネジメントのために計画された取決め事項に適合しているか、規格の要求事項に適合しているかを確認することと定められています。
したがって、“監査基準”とは、EMSの適合性を判断するための基準のことであり、ISO 14001規格、EMS文書などが考えられます。

10. 関連サイト・書籍など

11. 不適合・改善要望事例と考察

不適合・改善要望事例考察
監査プログラムに当たる「内部監査実施計画書」(2007/10/6)及び「『第4回 環境監査記録』(2007/10/6)に示される監査チェックリストの検証質問内容」からは、規格で求められる“運用上の重要性及び前回までの監査の結果を考慮に入れたこと”が確認できない。 監査計画時、対象部門・環境状況等に応じて監査重点を決定し、それに基づいて監査を行うこととする。「内部監査実施計画書」の書式変更により、監査の重点を記入で入るようにする。前回までの監査結果についての確認を行うこととする。以上につき、「内部監査規程」を見直し、改訂する。
内部監査の指摘区分は適合、不適合、改善推奨事項の3区分だが、内部監査チェックリストには重大な不適合、軽微な不適合の記載があり、内部監査報告書には改善推奨事項の記載が不明確。 前回審査の指摘で環境マニュアルと主要帳票は改訂していたが、チェックリストの見直しが漏れていた。改善推奨事項は所見に書いていたが、欄を設けるよう指摘された。
内部監査の目的を“環境パフォーマンスを見る”監査に変化させていくこと。具体的には、
・目的・目標の内容は妥当か?
・その達成手段・方法で問題ないか?
・達成度はどうなのか?
・未達成の場合、適切なアクションが取られているか?
などといった視点で見ていく。また、監査員の見る目、チェック内容、指摘ポイントが甘すぎるので強化していくこと。
未だに表面的な監査に終始しており、ただやっているだけの感じが否めない。もっと実状に踏み込んで、根本的な問題を抽出するものとしていかなければ経営活動の一環として非常にムダなものになってしまう。監査員の育成・スキルアップと計画段階での監査目的・狙いを明確に打ち出すことが重要。
12/19付けの内部監査で用いたチェックリストでは全要求事項をカバーしていることが確認できません。チェックリストの見直しが望まれます。 規格にはこのような要求事項はないが、内部監査の網羅性の確保という意味で全要求事項をカバーしたチェックリストを作成すべきというアドバイスを受けた(内部監査において全項目についてチェックする必要はない)。
●●支店の環境マネジメントシステム監査が'02.10.31に実施されていますが、部門責任者の××氏が監査員となっています。
また、「内部環境監査計画表 兼 実績表」にそのことが入っていません。
●●支店は営業専門部隊であり、本社圏からの内部監査員派遣ができなかったためにやむなく営業部門責任者に内部監査を代行させてしまった。
印刷Gの環境マネジメントシステム監査が'02.8.2に実施され指摘が1件出されていますが、是正報告が見当たりません。 指摘事項に基づく是正処置を実施し、報告書も提出したが、ISO事務局確認及びフォローアップ監査後に返却された是正報告書を紛失してしまった。
規格の「組織は、次のことを行なうために、・・・」の「次のこと」に関する記述がありません(環境マニュアル)。

★ヤッスー部長より一言★

内部監査のでき具合がEMSのでき具合を左右するとよく言われますが、実際にはなかなか内部監査をうまく活用することができないですね。その理由の1つには、やはり、実作業とEMSとの隔たりにあると考えられます。いくら内部監査自体はうまく機能していたとしてもその指摘・改善事項が実作業とつながるものでなければ何の効果も発揮しません。 EMSが本当に機能しているか、形だけではないか、実作業と乖離していないかをもう1度チェックする必要のある組織も多いのではないでしょうか。

環境審査員からJIS Q 14001とEMS(環境マニュアル、規定類)を網羅した内部監査用チェック項目集を作っておくとよいとアドバイスを受けました。このことにより内部監査の網羅性が確保できるというものです。これはまた、内部監査員用の教育・訓練資料になり得ますので利用価値はあります。実際の監査の場では、監査目的・範囲に合わせて必要なチェック項目を抜き出して内部監査を実施すればよいわけです。

当方では、昇級の条件として“内部監査員を経験していること”を含めることを検討中です。EMSの理解や監査スキルを身につけた上で昇級するという制度を導入することによって、EMSを無理なく浸透させることが目的です。

内部監査チームの編成に関して、当方ではリーダーを持ち回り制にすることにより監査員なら誰もがリーダー役を務められるようにしています。このことによって、監査員誰でも監査のまとめ役を経験できるようにしています。これが妥当かどうかは分かりませんが内部監査員育成の1つの手段かもしれません。

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