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◆ JIS Q 14001 環境マネジメントシステム−要求事項及び利用の手引

0. 序文

 この規格は、2004年に第2版として発行されたISO 14001:2004、Environmental management systems - Requirements with guidance for useを翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。

 なお、この規格で点線の下線を施してある箇所は、原国際規格にはない事項である。

 あらゆる種類の組織は、自らの環境方針及び環境目的に整合して、自らの活動、製品及びサービスが環境に及ぼす影響を管理することによって、健全な環境パフォーマンスを達成し、実証することへの関心を高めてきている。組織のこのような対応は、厳しさを増す法規制、環境保全を促進する経済的政策及びその他の対策の開発、並びに環境問題及び持続可能な開発に対する利害関係者の関心の高まりを背景としている。

 多くの組織は、自らの環境パフォーマンスを評価するために、環境上の“レビュー”又は“監査”を実施している。しかしながら、これらの“レビュー”及び“監査”を行っているだけでは、組織のパフォーマンスが法律上及び方針上の要求事項を満たし、かつ、将来も満たし続けることを保証するには十分ではないかもしれない。これらを効果的なものとするためには、組織に組み込まれて体系化されたマネジメントシステムの中で実施する必要がある。

 環境マネジメントに関する国際規格には、他の経営上の要求事項と統合でき、組織の環境上及び経営上の目標達成を助けることができる効果的な環境マネジメントシステム(EMS)の諸要素を組織に提供する意図がある。他の規格と同様に、これらの規格は、非関税貿易障壁を生み出すため、又は組織の法的な義務を増大若しくは変更するために用いられることを意図したものではない。

 この規格は、組織が、法的要求事項及び著しい環境側面についての情報を考慮に入れた方針及び目的を設定し、実施することができるように、環境マネジメントシステムのための要求事項を規定している。この規格は、あらゆる種類・規模の組織に適用し、しかも様々な地理的、文化的及び社会条件に適応するように意図されている。そのアプローチの基本を、図1に示す。このシステムの成功は、組織のすべての階層及び部門のコミットメント、特にトップマネジメントのコミットメントのいかんにかかっている。 この種のシステムは、組織が環境方針を策定し、方針におけるコミットメントを達成するための目的及びプロセスを設定し、パフォーマンスを改善するために必要な処置をとり、システムがこの規格の要求事項に適合していることを実証することができるようになっている。この規格の全体的なねらいは、社会経済的ニーズとバランスをとりながら環境保全及び汚染の予防を支えることである。要求事項の多くは、同時に対処でき、いつでも再検討できることに留意するとよい。

 この規格の第2版は、第1版の明確化に焦点を合わせ、また、多数にわたる利用者の利便のために、JIS Q 9001の規定を十分考慮に入れて2つの規格の両立性を高めている。

 使いやすさを考えて、この規格の本体の4.の項番号と附属書Aの項番号は、関連している。例えば、4.3.3とA.3.3とは、ともに目的、目標及び実施計画を取扱い、また、4.5.5とA.5.5とはともに内部監査を取扱う。さらに、附属書Bは、JIS Q 14001とJIS Q 9001との双方から見た広範な技術的対応を示している。

 組織の環境マネジメントシステムへの要求事項を示し、組織の環境マネジメントシステムの認証/登録及び/または自己宣言に利用できるこの規格と環境マネジメントシステムを確立し、実施し、改善するために組織を総合的に支援することを目的とした、認証を対象としない指針との間には、重要な違いがある。環境マネジメントは、戦略及び競争力に関連のある事項も含め幅広い課題を包含する。この規格をうまく実施していることを示せば、組織が適切な環境マネジメントシステムをもつことを利害関係者に納得させることができる。

 環境マネジメント支援技法に関する手引は、他の規格、特にISO/TC 207で作成された文書のうち環境マネジメントにかかわる規格に含まれている。この規格以外の規格の参照はすべて参考にすぎない。

図1 この規格の環境マネジメントシステムモデル

参考

 この規格はPlan-Do-Check-Act(PDCA)として知られている方法を基礎にしている。PDCAを簡潔に説明すると次のようになる。

− Plan:組織の環境方針に沿った結果を出すために、必要な目的及びプロセスを設定する。
− Do:それらのプロセスを実施する。
− Check:環境方針、目的、目標、法的及びその他の要求事項に照らしてプロセスを監視し、測定し、その結果を報告する。
− Act:環境マネジメントシステムのパフォーマンスを継続的に改善するための処置をとる。

 多くの組織は、複数のプロセス及びそれらの相互作用からなるシステムの適用を通してその運用を管理しており、これを“プロセスアプローチ”と呼ぶことがある。JIS Q 9001では、このプロセスアプローチの利用を奨励している。PDCAはあらゆるプロセスに適用できるため、2つの方法論は両立性があるとみなされる。

 この規格は、客観的に監査できる要求事項だけを含む。広範な環境マネジメントシステムに関する事項について、より一般的な手引を必要とする組織のためにJIS Q 14004がある。

 この規格は、環境方針に表明されている、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守、汚染の予防及び継続的改善に対するコミットメント以上の、環境パフォーマンスに関する絶対的要求事項を規定するものでない。したがって、2つの組織が、同様な運用を行っていながら異なる環境パフォーマンスを示す場合であっても、ともにその要求事項に適合することがある。

 一連の環境マネジメント技法の体系的な方法による採用及び実施は、すべての利害関係者にとって最適な成果をもたらすことができる。しかし、この規格の採用そのものが最適な環境上の成果を保証するわけではない。環境マネジメントシステムは、環境目的を達成するために、適切でかつ経済的に実施可能な場合には、最良利用可能技法の適用を考慮すること、及びそのような技法の費用対効果を十分考慮に入れることを組織に奨励することができる。

 この規格には、品質、労働安全衛生、財務、リスクなどのマネジメントのような他のマネジメントシステムに固有な要求事項は含まれていないが、その要素は他のマネジメントシステムの要素に合わせたり、統合したりできる。組織がこの規格の要求事項に適合した環境マネジメントシステムを構築するに当たって、既存のマネジメントシステムの要素を適応させることも可能である。ただし、マネジメントシステムの様々な要素のいずれを採用するかは、意図する目的及びかかわりのある利害関係者によって相違することもあろう。

 環境マネジメントシステムの詳細さ及び複雑さの水準、文書類の範囲、並びにそれに向けられる資源は、システムの適用範囲、組織の規模、並びにその活動、製品及びサービスの性質のような多くの要因に依存する。これは特に中小企業についていえることかもしれない。

1. 適用範囲

 この規格は、組織が、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面についての情報を考慮に入れた方針及び目的を策定し、実施することができるように、環境マネジメントシステムの要求事項を規定する。この規格は、組織が管理できるもの及び組織が影響を及ぼすことができるものとして組織が特定する環境側面に適用する。この規格自体は、特定の環境パフォーマンス基準には言及しない。

 この規格は、次の事項を行おうとするどのような組織にも適用できる。

a) 環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、改善する。
b) 表明した環境方針との適合を自ら確信する。
c) この規格との適合を次のことによって示す。
 1) 自己決定し、自己宣言する。
 2) 適合について、組織に対して利害関係を持つ人又はグループ、例えば顧客などによる確認を求める。
 3) 自己宣言について組織外部の人又はグループによる確認を求める。
 4) 外部機関による環境マネジメントシステムの認証/登録を求める。

 この規格に示されるすべての要求事項は、どのような環境マネジメントシステムにも取り入れられるように意図されている。適用の範囲は、組織の環境方針、その活動、製品及びサービスの性質、並びに組織が機能する立地及び条件のような要因に依存する。また、この規格は、附属書Aに、その利用に関する参考としての手引を備えている。

参考

 この規格の対応国際規格を、次に示す。

 なお、対応の程度を表す記号は、ISO/IEC Guide 21に基づき、IDT(一致している)、MOD(修正している)、NEQ(同等でない)とする。
ISO 14001:2004,Environmental management systems - Requirements with guidance for use (IDT)

2. 引用規格

 引用規格はない。この項は、旧版(JIS Q 14001:1996)と項番号を一致させておくためにある。

3. 用語及び定義

 この文書には、次の用語と定義を適用する。

3.1 監査員(auditor)

 監査を行う力量をもった人。[JIS Q 9000:2000]

3.2 継続的改善(continual improvement)

 組織(3.16)の環境方針(3.11)と整合して全体的な環境パフォーマンス(3.10)の改善を達成するために環境マネジメントシステム(3.8)を向上させる繰り返しのプロセス。

参考

 このプロセスはすべての活動分野で同時に進める必要はない。

3.3 是正処置(corrective action)

 検出された不適合(3.15)の原因を除去するための処置。

3.4 文書(document)

 情報及びそれを保持する媒体。

参考1.

 媒体としては、紙、磁気、電子式若しくは光学式コンピュータディスク、写真若しくはマスターサンプル、又はこれらの組合せがあり得る。

参考2.

 JIS Q 9000:2000、3.7.2から部分的に採用。

3.5 環境(environment)

 大気、水、土地、天然資源、植物、動物、人及びそれらの相互関係を含む、組織(3.16)の活動をとりまくもの。

参考

 ここでいうとりまくものとは、組織(3.16)内から地球規模のシステムにまで及ぶ。

3.6 環境側面(environmental aspect)

 環境(3.5)と相互に作用する可能性のある、組織(3.16)の活動又は製品又はサービスの要素。

参考

 著しい環境側面は、著しい環境影響(3.7)を与えるか又は与える可能性がある。

3.7 環境影響(environmental impact)

 有害か有益かを問わず、全体的に又は部分的に組織(3.16)の環境側面(3.6)から生じる、環境(3.5)に対するあらゆる変化。

3.8 環境マネジメントシステム(environmental management system,EMS)

 組織(3.16)のマネジメントシステムの一部で、環境方針(3.11)を策定し、実施し、環境側面(3.6)を管理するために用いられるもの。

参考1.

 マネジメントシステムは、方針及び目的を定め、その目的を達成するために用いられる相互に関連する要素の集まりである。

参考2.

 マネジメントシステムには、組織の体制、計画活動、責任、慣行、手順(3.19)、プロセス及び資源を含む。

3.9 環境目的(environmental objective)

 組織(3.16)が達成を目指して自ら設定する、環境方針(3.11)と整合する全般的な環境の到達点。

3.10 環境パフォーマンス(environmental performance)

 組織(3.16)の環境側面(3.6)についてのその組織のマネジメントの測定可能な結果。

参考

 環境マネジメントシステム(3.8)では、結果は、組織(3.16)の環境方針(3.11)、環境目的(3.9)、環境目標(3.12)及びその他の環境パフォーマンス要求事項に対応して測定可能である。

3.11 環境方針(environmental policy)

 トップマネジメントによって正式に表明された、環境パフォーマンス(3.10)に関する組織(3.16)の全体的な意図および方向付け。

参考

 環境方針は、行動のための枠組み、並びに環境目的(3.9)及び環境目標(3.12)を設定するための枠組みを提供する。

3.12 環境目標(environmental target)

 環境目的(3.9)から導かれ、その目的を達成するために目的に合わせて設定される詳細なパフォーマンス要求事項で、組織(3.16)又はその一部に適用されるもの。

3.13 利害関係者(interested party)

 組織(3.16)の環境パフォーマンス(3.10)に関心をもつか又はその影響を受ける人又はグループ。

3.14 内部監査(internal audit)

 組織(3.16)が定めた環境マネジメントシステム監査基準が満たされている程度を判定するために、監査証拠を収集し、それを客観的に評価するための体系的で、独立し、文書化されたプロセス。

参考

 多くの場合、特に中小規模の組織の場合は、独立性は、監査の対象となる活動に関する責任を負っていないことで実証することができる。

3.15 不適合(nonconformity)

 要求事項を満たしていないこと。[JIS Q 9000:2000、3.6.2]

3.16 組織(organization)

 法人か否か、公的か私的かを問わず、独自の機能及び管理体制をもつ、企業、会社、事業所、官公庁若しくは協会、又はその一部若しくは結合体。

参考

 複数の事業単位をもつ組織の場合には、単一の事業単位を1つの組織と定義してもよい。

3.17 予防処置(preventive action)

 起こり得る不適合(3.15)の原因を除去するための処置。

3.18 汚染の予防(prevention of pollution)

 有害な環境影響(3.7)を低減するために、あらゆる種類の汚染物質又は廃棄物の発生、排出、放出を回避し、低減し、管理するためのプロセス、操作、技法、材料、製品、サービス又はエネルギーを(個別に又は組み合わせて)使用すること。

参考

 汚染の予防には、発生源の低減又は排除、プロセス、製品又はサービスの変更、資源の効率的使用、代替材料及び代替エネルギーの利用、再利用、回収、リサイクル、再生、処理などがある。

3.19 手順(procedure)

 活動又はプロセスを実行するために規定された方法。

参考1.

 手順は文書化することもあり、しないこともある。

参考2.

 JIS Q 9000:2000、3.4.5から部分的に採用。

3.20 記録(record)

 達成した結果を記述した、又は実施した活動の証拠を提供する文書(3.4)。

参考

 JIS Q 9000:2000、3.7.6から部分的に採用。

4. 環境マネジメントシステム要求事項

4.1 一般要求事項

 組織は、この規格の要求事項に従って、環境マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、維持し、継続的に改善し、どのようにしてこれらの要求事項を満たすかを決定すること。

 組織は、その環境マネジメントシステムの適用範囲を定め、文書化すること。

4.2 環境方針

 トップマネジメントは、組織の環境方針を定め、環境マネジメントシステムの定められた適用範囲の中で、環境方針が次の事項を満たすことを確実にすること。

a) 組織の活動、製品及びサービスの、性質、規模及び環境影響に対して適切である。
b) 継続的改善及び汚染の予防に関するコミットメントを含む。
c) 組織の環境側面に関係して適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を順守するコミットメントを含む。
d) 環境目的及び目標の設定及びレビューのための枠組みを与える。
e) 文書化され、実行され、維持される。
f) 組織で働く又は組織のために働くすべての人に周知される。
g) 一般の人々が入手可能である。

4.3 計画

4.3.1 環境側面

 組織は、次の事項にかかわる手順を確立し、実施し、維持すること。

a) 環境マネジメントシステムの定められた適用範囲の中で、活動、製品及びサービスについて組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面を特定する。その際には、計画された若しくは新規の開発、又は新規の若しくは変更された活動、製品及びサービスも考慮に入れる。
b) 環境に著しい影響を与える又は与える可能性のある側面(すなわち著しい環境側面)を決定する。

 組織は、この情報を文書化し、常に最新のものにしておくこと。

 組織は、その環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持するうえで、著しい環境側面を確実に考慮に入れること。

4.3.2 法的及びその他の要求事項

 組織は、次の事項にかかわる手順を確立し、実施し、維持すること。

a) 組織の環境側面に関係して適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を特定し、参照する。
b) これらの要求事項を組織の環境側面にどのように適用するかを決定する。

 組織は、その環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持するうえで、これらの適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を確実に考慮に入れること。

4.3.3 目的、目標及び実施計画

 組織は、組織内の関連する部門及び階層で、文書化された環境目的及び目標を設定し、実施し、維持すること。

 目的及び目標は、実施できる場合には測定可能であること。そして、汚染の予防、適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守並びに継続的改善に関するコミットメントを含めて、環境方針に整合していること。

 その目的及び目標を設定しレビューするにあたって、組織は、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項並びに著しい環境側面を考慮に入れること。また、技術上の選択肢、財務上、運用上及び事業上の要求事項、並びに利害関係者の見解も考慮すること。

 組織は、その目的及び目標を達成するための実施計画を策定し、実施し、維持すること。実施計画は次の事項を含むこと。

a) 組織の関連する部門及び階層における、目的及び目標を達成するための責任の明示
b) 目的及び目標達成のための手段及び日程

4.4 実施及び運用

4.4.1 資源、役割、責任及び権限

 経営層は、環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、改善するために不可欠な資源を確実に利用できるようにすること。資源には、人的資源及び専門的な技能、組織のインフラストラクチャー、技術、並びに資金を含む。

 効果的な環境マネジメントを実施するために、役割、責任及び権限を定め、文書化し、かつ、周知すること。

 組織のトップマネジメントは、特定の管理責任者(複数も可)を任命すること。その管理責任者は、次の事項に関する定められた役割、責任及び権限を、他の責任にかかわりなくもつこと。

a) この規格の要求事項に従って、環境マネジメントシステムが確立され、実施され、維持されることを確実にする。
b) 改善のための提案を含め、レビューのために、トップマネジメントに対し環境マネジメントシステムのパフォーマンスを報告する。

4.4.2 力量、教育訓練及び自覚

 組織は、組織によって特定された著しい環境影響の原因となる可能性をもつ作業を組織で実施する又は組織のために実施するすべての人が、適切な教育、訓練又は経験に基づく力量をもつことを確実にすること。また、これに伴う記録を保持すること。

 組織は、その環境側面及び環境マネジメントシステムに伴う教育訓練のニーズを明確にすること。組織は、そのようなニーズを満たすために、教育訓練を提供するか、又はその他の処置をとること。また、これに伴う記録を保持すること。

 組織は、組織で働く又は組織のために働く人々に次の事項を自覚させるための手順を確立し、実施し、維持すること。

a) 環境方針及び手順並びに環境マネジメントシステムの要求事項に適合することの重要性
b) 自分の仕事に伴う著しい環境側面及び関係する顕在又は潜在の環境影響、並びに各人の作業改善による環境上の利点
c) 環境マネジメントシステムの要求事項との適合を達成するための役割及び責任
d) 規定された手順から逸脱した際に予想される結果

4.4.3 コミュニケーション

 組織は、環境側面及び環境マネジメントシステムに関して次の事項にかかわる手順を確立し、実施し、維持すること。

a) 組織の種々の階層及び部門間での内部コミュニケーション
b) 外部の利害関係者からの関連するコミュニケーションについて受け付け、文書化し、対応する。

 組織は、著しい環境側面について外部コミュニケーションを行うかどうかを決定し、その決定を文書化すること。外部コミュニケーションを行うと決定した場合は、この外部コミュニケーションの方法を確立し、実施すること。

4.4.4 文書類

 環境マネジメントシステム文書には、次の事項を含めること。

a) 環境方針、目的及び目標
b) 環境マネジメントシステムの適用範囲の記述
c) 環境マネジメントシステムの主要な要素、それらの相互作用の記述、並びに関係する文書の参照
d) この規格が要求する、記録を含む文書
e) 著しい環境側面に関係するプロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施するために、組織が必要と決定した、記録を含む文書

4.4.5 文書管理

 環境マネジメントシステム及びこの規格で必要とされる文書は管理すること。記録は文書の一種ではあるが、4.5.4に規定する要求事項に従って管理すること。

 組織は、次の事項にかかわる手順を確立し、実施し、維持すること。

a) 発行前に、適切かどうかの観点から文書を承認する。
b) 文書をレビューする。また、必要に応じて更新し、再承認する。
c) 文書の変更の識別及び現在の改訂版の識別を確実にする。
d) 該当する文書の適切な版が、必要なときに、必要なところで使用可能な状態にあることを確実にする。
e) 文書が読みやすく、容易に識別可能な状態であることを確実にする。
f) 環境マネジメントシステムの計画及び運用のために組織が必要と決定した外部からの文書を明確にし、その配付が管理されていることを確実にする。
g) 廃止文書が誤って使用されないようにする。また、これらを何らかの目的で保持する場合には、適切な識別をする。

4.4.6 運用管理

 組織は、次に示すことによって、個々の条件の下で確実に運用が行われるように、その環境方針、目的及び目標に整合して特定された著しい環境側面に伴う運用を明確にし、計画すること。

a) 文書化された手順がないと環境方針並びに目的及び目標から逸脱するかもしれない状況を管理するために、文書化された手順を確立し、実施し、維持する。
b) その手順には運用基準を明記する。
c) 組織が用いる物品及びサービスの特定された著しい環境側面に関する手順を確立し、実施し、維持すること、並びに請負者を含めて、供給者に適用可能な手順及び要求事項を伝達する。

4.4.7 緊急事態への準備及び対応

 組織は、環境に影響を与える可能性のある潜在的な緊急事態及び事故を特定するための、またそれらにどのようにして対応するかの手順を確立し、実施し、維持すること。

 組織は、顕在した緊急事態や事故に対応し、それらに伴う有害な環境影響を予防又は緩和すること。

 組織は、緊急事態への準備及び対応手順を、定期的に、また特に事故又は緊急事態の発生の後には、レビューし、必要に応じて改訂すること。

 組織は、また、実施可能な場合には、そのような手順を定期的にテストすること。

4.5 点検

4.5.1 監視及び測定

 組織は、著しい環境影響を与える可能性のある運用のかぎ(鍵)となる特性を定常的に監視及び測定するための手順を確立し、実施し、維持すること。この手順には、パフォーマンス、適用可能な運用管理、並びに組織の環境目的及び目標との適合を監視するための情報の文書化を含めること。

 組織は、校正された又は検証された監視及び測定機器が使用され、維持されていることを確実にし、また、これに伴う記録を保持すること。

4.5.2 順守評価

4.5.2.1

 順守に対するコミットメントと整合して、組織は、適用可能な法的要求事項の順守を定期的に評価するための手順を確立し、実施し、維持すること。

 組織は、定期的な評価の結果の記録を残すこと。

4.5.2.2

 組織は、自らが同意するその他の要求事項の順守を評価すること。組織は、この評価を4.5.2.1にある法的要求事項の順守評価に組み込んでもよいし、別の手順を確立してもよい。

 組織は、定期的な評価の結果の記録を残すこと。

4.5.3 不適合並びに是正処置及び予防処置

 組織は、顕在及び潜在の不適合に対応するための並びに是正処置及び予防処置をとるための手順を確立し、実施し、維持すること。その手順では、次の事項に対する要求事項を定めること。

a) 不適合を特定し、修正し、それらの環境影響を緩和するための処置をとる。
b) 不適合を調査し、原因を特定し、再発を防ぐための処置をとる。
c) 不適合を予防するための処置の必要性を評価し、発生を防ぐために立案された適切な処置を実施する。
d) とられた是正処置及び予防処置の結果を記録する。
e) とられた是正処置及び予防処置の有効性をレビューする。

 とられた処置は、問題の大きさ、及び生じた環境影響に見合ったものであること。

 組織は、いかなる必要な変更も環境マネジメントシステム文書に確実に反映すること。

4.5.4 記録の管理

 組織は、組織の環境マネジメントシステム及びこの規格の要求事項への適合並びに達成した結果を実証するのに必要な記録を作成し、維持すること。

 組織は、記録の識別、保管、保護、検索、保管期間及び廃棄についての手順を確立し、実施し、維持すること。

 記録は、読みやすく、識別可能で、追跡可能な状態を保つこと。

4.5.5 内部監査

 組織は、次の事項を行うために、あらかじめ定められた間隔で環境マネジメントシステムの内部監査を確実に実施すること。

a) 組織の環境マネジメントシステムについて次の事項を決定する。

 1) この規格の要求事項を含めて、組織の環境マネジメントのために計画された取決め事項に適合しているかどうか。
 2) 適切に実施されており、維持されているかどうか。

b) 監査の結果に関する情報を経営層に提供する。

 監査プログラムは、当該運用の環境上の重要性及び前回までの監査の結果を考慮に入れて、組織によって計画され、策定され、実施され、維持されること。

 次の事項に対処する監査手順を確立し、実施し、維持すること。

− 監査の計画及び実施、結果の報告、並びにこれに伴う記録の保持に関する責任及び要求事項
− 監査基準、適用範囲、頻度及び方法の決定

 監査員の選定及び監査の実施においては、監査プロセスの客観性及び公平性を確保すること。

4.6 マネジメントレビュー

 トップマネジメントは、組織の環境マネジメントシステムが、引き続き適切で、妥当で、かつ、有効であることを確実にするために、あらかじめ定められた間隔で環境マネジメントシステムをレビューすること。レビューは、環境方針、並びに環境目的及び目標を含む環境マネジメントシステムの改善の機会及び変更の必要性の評価を含むこと。マネジメントレビューの記録は、保持されること。

 マネジメントレビューへのインプットは、次の事項を含むこと。

a) 内部監査の結果、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の順守評価の結果
b) 苦情を含む外部の利害関係者からのコミュニケーション
c) 組織の環境パフォーマンス
d) 目的及び目標が達成されている程度
e) 是正処置及び予防処置の状況
f) 前回までのマネジメントレビューの結果に対するフォローアップ
g) 環境側面に関係した法的及びその他の要求事項の進展を含む、変化している周囲の状況
h) 改善のための提案

 マネジメントレビューからのアウトプットには、継続的改善へのコミットメントと首尾一貫させて、環境方針、目的、目標及びその他の環境マネジメントシステムの要素へ加え得る変更に関係する、あらゆる決定及び処置を含むこと。

附属書A(参考)この規格の利用の手引

A.1 一般要求事項

 この附属書に示される追加的な情報はあくまでも参考であり、この規格の4.に含まれる要求事項の誤った誤解を防ぐことを意図している。この情報は4.の要求事項と対応し整合しているが、その要求事項に対して追加したり、削除したり、何らの変更を行うことも意図していない。

 この規格に規定された環境マネジメントシステムを実施することは、結果として環境パフォーマンスが改善されることをねらいとしている。したがって、この規格は、改善の機会を特定しその実施を確認するために、組織がその環境マネジメントシステムを定期的にレビューし、評価するという前提に基づいている。この継続的改善プロセスの度合い、範囲及び期間は、経済的及びその他の状況に照らして組織によって決められる。環境マネジメントシステムの改善は、環境パフォーマンスの更なる改善をもたらすことを意図している。

 この規格は、次の事項を組織に要求している。

a) 適切な環境方針を確立する。
b) 著しい環境影響を決定するために、組織の過去、現在又は計画されている活動、製品及びサービスから生じる環境側面を特定する。
c) 適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を特定する。
d) 優先順位を明らかにし、適切な環境目的及び目標を設定する。
e) 方針を実施に移し、目的を達成し、目標を満たすため、体制及び実施計画を確立する。
f) 方針が守られ、かつ、環境マネジメントシステムが適切であることを確実にするため、計画、管理、監視、予防処置及び是正処置、監査、並びにレビュー活動を促進する。
g) 変化している周囲の状況に適応できる。

 既存の環境マネジメントシステムをもたない組織は、最初にレビューを行って、環境に関する組織の現状を把握するとよい。このレビューのねらいは、環境マネジメントシステムを構築する基礎として、組織のすべての環境側面を考慮することである。

 レビューには、次の4つのかぎ(鍵)となる分野を含むとよい。

− 通常の操業状況、操業の立ち上げ及び停止を含む非通常の状況、緊急事態及び事故などに伴うものを含む、環境側面の特定
− 適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項の特定
− 調達及び契約活動に伴うものを含む、既存の環境マネジメントの慣行及び手順の検討
− 過去に発生した緊急事態及び事故の評価

 レビュー実施のためのツール及び方法には、活動の性質に対応して、チェックリスト、面談の実施、直接的な検査及び測定、以前の監査の結果、又は他のレビューを含んでもよい。

 組織は、その境界を定める自由度と柔軟性をもち、この規格を組織全体に対して実施するか又は組織の特定の事業単位に対して実施するかを選択してもよい。組織は、その環境マネジメントシステムの適用範囲を定めて文書化するとよい。適用範囲を定める意図は、環境マネジメントシステムが適用される組織の境界を明確にすることであり、特にその組織が同一敷地内でより大きい組織の一部である場合にはそれが必要である。この適用範囲が定められると、その適用範囲内にある組織のすべての活動、製品及びサービスは、環境マネジメントシステムに含まれる必要がある。 適用範囲を設定するとき、環境マネジメントシステムへの信頼性は、どのように組織上の境界を選択するかによって決まることに留意するとよい。もし組織の一部を環境マネジメントシステムの適用範囲から除外するならば、組織はその除外について説明できるようにするとよい。特定の事業単位に対してこの規格を実施する場合には、組織の他の部署が立案した方針及び手順がその特定の事業単位にも適用可能であれば、この規格の要求事項を満たすものとして用いることができる。

A.2 環境方針

 環境方針は、組織がその環境パフォーマンスを維持し、その改善に結びつけられるように、環境マネジメントシステムを実施し改善するための原動力となる。したがって、この方針には、適用可能な法的要求事項及びその他の要求事項を順守し、汚染を予防し、並びに継続的に改善することに対するトップマネジメントのコミットメントを反映するとよい。環境方針は、組織がその目的及び目標を設定する基礎となる。環境方針は、内部及び外部の利害関係者が理解できるように十分に明確であり、また、変化している状況及び情報を反映して定期的にレビューし、改訂するとよい。 その適用の領域(すなわち適用範囲)は、明確に特定できるとよく、環境マネジメントシステムが定めた適用範囲内の活動、製品及びサービスに固有の性質、規模及び環境影響を反映したものであるとよい。

 環境方針は、組織の施設で作業する請負者を含め、組織で働く又は組織のために働くすべての人に周知されるとよい。請負者への周知は、方針の声明そのものでなくとも、例えば規則、指令、手順などに代えることができ、方針の該当する部分だけを含む形でもよい。組織の環境方針は、その組織が属するより広い企業体の環境方針の枠内で、かつ、その承認を得て、トップマネジメントによって定められ、文書化されるとよい。

参考

 トップマネジメントは、通常、最高位で組織を指揮し、管理する1人又はグループで構成される。

A.3 計画

A.3.1 環境側面

 4.3.1には、組織が環境側面を特定し、組織の環境マネジメントシステムが優先的に対処すべき著しい環境側面を決定するためのプロセスを提供する意図がある。

 組織は、現在及び関連する過去の活動、製品及びサービス、計画された若しくは新規の開発、又は新規の若しくは変更された活動、製品及びサービスに伴うインプット及びアウトプット(意図する意図しないにかかわらず)を考慮に入れて、その環境マネジメントシステムの適用範囲内にある環境側面を特定するとよい。このプロセスでは、当然予知できる緊急事態とともに、通常及び非通常の操業状況、操業の停止及び立ち上げの状況を考慮するとよい。

 組織は、製品、部品又は原材料投入までをそれぞれ個別に考慮する必要はない。環境側面を特定するために、活動、製品及びサービスのカテゴリーを選択してもよい。

 環境側面を特定するアプローチは1つだけではないが、アプローチを選択するに当たっては、例えば、次の事項を考慮することもある。

a) 大気への放出
b) 水への排出
c) 土地への排出
d) 原材料及び天然資源の使用
e) エネルギーの使用
f) 放出エネルギー、例えば、熱、放射、振動
g) 廃棄物及び副産物
h) 物理的属性、例えば、大きさ、形、色、外観

 組織が直接的に管理できる環境側面のほかに、例えば組織が用いる物品及びサービス、並びに組織が提供する製品及びサービスに関係するものなど、組織が影響を及ぼすことができる側面についても考慮するとよい。管理及び影響を評価するための手引を次に示す。しかしながら、いかなる場合においても、管理の程度及び影響を及ぼすことができる側面を決定するのは、組織である。

 組織の活動、製品及びサービスに関係する側面の例として、次の事項を考慮するとよい。

− 設計及び開発
− 製造プロセス
− 包装及び輸送
− 請負者及び供給者の、環境パフォーマンス及び業務慣行
− 廃棄物管理
− 原材料及び天然資源の採取及び運搬
− 製品の、流通、使用及び使用後の処理
− 野生生物及び生物多様性

 組織に供給される製品の環境側面への管理及び影響は、組織の市場における状況及び供給者によって著しく変化することがある。自らの製品の設計に責任をもつ組織は、例えば、投入材料の1つを変更することによって、こうした側面に著しく影響を及ぼすことができるが、外部で決められた製品仕様に従って供給する必要のある組織は、選択肢が限られるかもしれない。

 提供した製品に関しては、使用者などによる製品の使用及び廃棄について組織が管理するには限界があるのも事実であるが、こうした使用者に適切な取扱い及び廃棄方法を実施可能な範囲で伝えることを考慮することで、組織が影響を及ぼすことができる。

 有害か有益かを問わず、全体的に又は部分的に環境側面から生じる、環境に対する変化を環境影響と呼ぶ。環境側面と環境影響とは、一種の因果関係である。

 場所によって文化遺産は組織活動をめぐる重要な要素となり得るため、組織が与える環境影響を理解する際に文化遺産を考慮に入れるとよい。

 組織は、多くの環境側面及びそれに伴う影響をもつ可能性があるので、著しいとみなす側面を決定するための基準及び方法を確立しておくとよい。著しい環境側面を決定するための方法は、1つだけではない。しかしながら、使用される方法は、矛盾のない一貫した結果を出すものであり、環境上の事項、法的課題及び内外の利害関係者の関心事に関係するような評価基準の確立及び適用を含むものであるとよい。

 著しい環境側面に関係する情報を取りまとめる際に、組織は、その情報を環境マネジメントシステムの計画及び実施にどのように利用するかを考えるとともに、経緯を示すための情報を保持する必要性を考慮するとよい。

 環境側面の特定及び評価のプロセスでは、活動する場所、分析にかかる費用及び時間、並びに信頼できるデータが得られるかどうかを考慮に入れるとよい。環境側面の特定においては、詳細なライフサイクルアセスメントを要求するものではない。規制又はその他の目的で取りまとめられている情報をこのプロセスで利用してもよい。

 環境側面を特定し評価するこのプロセスは、組織の法的な義務を変更し又は増加することを意図するものではない。

A.3.2 法的及びその他の要求事項

 組織は、環境側面に適用可能な法的要求事項を特定する必要がある。

 これには次のような事項を含むことがある。

a) 国内及び国際の法的要求事項
b) 都道府県及び省庁の法的要求事項
c) 地方自治体の法的要求事項

 組織が同意するかもしれないその他の要求事項の例には、適用可能な場合には、次のようなものが含まれる。

− 公的機関との合意
− 顧客との合意
− 規制以外の指針
− 自発的な原則又は行動規範
− 自発的な環境ラベル又はプロダクトスチュワードシップに関するコミットメント
− 業界団体の要求事項
− 地域社会グループ又はNGOとの合意
− 組織又は親組織の公表されたコミットメント
− 法人組織/会社の要求事項

 法的及びその他の要求事項を組織の環境側面にどのように適用するかの決定は、通常は、これらの要求事項を特定するプロセスの中で行われる。したがって、その決定のために独立した又は追加された手順をもつ必要はないかもしれない。

A.3.3 目的、目標及び実施計画

 目的及び目標は、明確であり実施可能な限り測定できるとよい。目的及び目標は、短期から長期にわたる課題を含むとよい。

 技術上の選択肢を検討する際には、組織は、経済的に実行可能であり、費用対効果があり、かつ適切と判断される場合には、最良利用可能技法の使用を考慮するとよい。

 組織の財務上の要求事項に触れていることは、組織に環境原価会計手法の使用を義務付けようとするものではない。

 1つ又は複数の実施計画の作成及び利用は、環境マネジメントシステムの実施の成功のために重要である。各実施計画では、日程、必要な資源及び実施計画の実施に関する責任者も含めて、組織の目的及び目標の達成方法を記述するとよい。この実施計画は、組織運用上の特定の要素を取り扱うために細分化してもよい。

 実施計画には、適切かつ実際的である場合、計画、設計、生産、マーケティング及び処分の段階への考慮を含めるとよい、このことは、現行及び新規いずれの活動、製品又はサービスについて実施されることがある。製品については、設計、材料、生産工程、使用及び最終処分を取り扱うことができる。 設備の据付け又は工程の重要な変更については、計画、設計、工事、操業開始、操業及び組織によって適切な時期に決定される操業停止を取り扱うことができる。

A.4 実施及び運用

A.4.1 資源、役割、責任及び権限

 環境マネジメントシステムの実施を成功させるためには、組織で働く又は組織のために働くすべての人からのコミットメントが必要である。したがって、環境面の役割及び責任は、環境マネジメント機能部門に限定するものではなく、環境以外の運用管理又はスタッフ部門など、組織の他の分野にもたせることができる。

 このコミットメントは、最上の経営層で始まるとよい。これに応じて、トップマネジメントは、組織の環境方針を確立し、環境マネジメントシステムの実施を確実にするとよい。このコミットメントの一環として、トップマネジメントは、環境マネジメントシステムを実施するために定められた責任及び権限をもつ特定の管理責任者(複数も可)を任命するとよい。大規模又は複雑な組織では、複数の管理責任者が任命されることがある。 中小企業では、このような責任は一個人が担うことがある。また、経営層は、環境マネジメントシステムの確立、実施及び維持を確実にするために、組織のインフラストラクチャーなど適切な資源を確実に準備するとよい。組織のインフラストラクチャーの例には、建物、通信回線、地下タンク、排水施設などが含まれる。また、環境マネジメントシステムのかぎ(鍵)となる役割及び責任は、適切に定められ、組織で働く又は組織のために働くすべての人に周知されることが重要である。

A.4.2 力量、教育訓練及び自覚

 組織は、組織のために作業をする責任と権限をもつすべての人が必要とする自覚、知識、理解及び技能を特定するとよい。この規格では、次の事項を要求している。

a) 組織によって特定された著しい環境影響の原因となる可能性のある仕事を行う人は、与えられた作業を遂行する力量がある。
b) 教育訓練の実施を確実にするために、教育訓練のニーズが特定され、処置がとられる。
c) すべての人が、組織の環境方針及び環境マネジメントシステムを理解し、自分の仕事によって影響を受ける可能性のある組織の活動、製品及びサービスの環境側面を自覚する。

 自覚、知識、理解及び力量は、訓練、教育又は業務経験を通じて習得又は改善されることがある。

 組織は、組織のために働く請負者に、その請負者の従業員が必要な力量をもつこと及び/又は適切な教育訓練を受けていることを示せるように求めるとよい。

 経営層は、要員の能力を、特に専門的な環境マネジメント機能部門で業務を行う者の能力を、確実にするために必要な、経験、力量及び教育訓練の水準を決定するとよい。

A.4.3 コミュニケーション

 内部コミュニケーションは、環境マネジメントシステムの効果的な実施を確実にするために重要である。内部コミュニケーションの方法には、定例の作業グループ会議、ニュースレター、掲示板及びイントラネットサイトを含むことがある。

 組織は、利害関係者からの関連するコミュニケーションを受け付け、文書化し、対応するための手順を実施するとよい。この手順には、利害関係者との対話及びその関心事への考慮を含むかもしれない。状況によって、利害関係者の関心事への対応には、組織の運用に伴う環境側面及び環境影響についての関連情報を含むことがある。また、これらの手順では、緊急事態の計画及びその他の関連事項について、公的機関との必要なコミュニケーションを取り扱うとよい。

 組織は、関連する対象グループについての決定、適切なメッセージ及びテーマ、並びに手段の選択を考慮に入れて、コミュニケーションを計画してもよい。

 環境側面についての外部コミュニケーションを検討するときに、組織はすべての利害関係者の、見解及び情報ニーズを考慮に入れるとよい。組織がその環境側面に関し外部コミュニケーションを行うと決定した場合は、そのための手順を定めてもよい。この手順は、コミュニケーションの対象となる情報の種類、対象グループ及び組織の個別の状況を含む幾つかの要因によって、変化する可能性がある。外部コミュニケーションの方法には、年次報告書、ニュースレター、ウェブサイト及び地域での会合などがある。

A.4.4 文書類

 文書類の詳しさは、環境マネジメントシステム及びどのようにその要素が互いに作用し合うかを十分に記述でき、かつ、環境マネジメントシステムの特定部分の運用についてより詳細な情報がどこで得られるかを十分に示せるレベルであるとよい。この文書類は、組織によって実施される他のシステムの文書類と統合されることがある。それはマニュアルの形である必要はない。

 環境マネジメントシステム文書の範囲は、次の理由から、組織によって異なることもある。

a) 組織の規模及び種類、並びにその活動、製品又はサービス
b) プロセス及びそれらの相互関係の複雑さ
c) 要員の力量

 文書の例には、次のものを含む。

− 方針、目的及び目標の声明
− 著しい環境側面に関する情報
− 手順
− プロセス情報
− 組織図
− 内部及び外部の標準
− サイトの緊急対応計画
− 記録

 手順を文書化するかどうかの決定はすべて、次の事項に基づくとよい。

− 環境に対することを含め、手順を文書化しなかった場合に起こること
− 法的及び組織が同意するその他の要求事項の順守を実証する必要性
− その活動が整合性をもって実施されることを確実にする必要性
− 文書化することで得られる利点。それには、コミュニケーション及び教育訓練を通じた実施が容易になること、維持及び改訂が容易になること、あいまいさ及び逸脱のリスクが少なくなること、並びに実証できる及び可視化できることを含む。
− この規格の要求事項

当初環境マネジメントシステム以外の目的で作成した文書は、環境マネジメントシステムの一部として使用されることがある。そのような使い方をする文書は、それらの文書をシステムの中で参照しておく必要がある。

A.4.5 文書管理

 4.4.5の意図は、環境マネジメントシステムを実施するために十分であるように、組織が文書を作成し、維持することを確実にすることである。しかし、組織が本来重視すべきことは、複雑な文書管理システムにあるのではなく、環境マネジメントシステムの効果的な実施及び環境パフォーマンスにある。

A.4.6 運用管理

 組織は、特定した著しい環境側面に伴う種々の運用を評価し、また、環境方針の要求事項を満たし目的及び目標を達成するために、運用に伴う有害な影響を管理又は低減するような方法で、確実に運用するとよい。このことは、メンテナンス活動を含むあらゆる運用に適用するとよい。

 環境マネジメントシステムの運用管理の部分は、日々の運用にシステム上の要求事項をどのように組み込むかに関する方向を示しているので、4.4.6a)では、文書化された手順がないと環境方針並びに目的及び目標から逸脱するかもしれない状況を管理するために、文書化された手順の使用を要求している。

A.4.7 緊急事態への準備及び対応

 組織独自の必要性に合致した緊急事態への準備及び対応の手順を策定することは、それぞれの組織の責任である。手順の策定に当たって、組織は、次のような事項を考慮するとよい。

a) 可燃性液体、貯蔵タンク、圧縮ガスなどの現場ハザードの性質、及び流出又は放出事故の際に取るべき方法
b) 緊急事態又は事故の最も起こりやすい種類及び規模
c) 事故又は緊急事態に対処する最適な方法
d) 内部及び外部コミュニケーション計画
e) 環境上の被害を最小限に抑えるのに必要な処置
f) 様々な種類の事故又は緊急事態に対してとるべき緩和及び対応処置
g) 是正処置及び予防処置を確立し、実施するための事故後の評価プロセスのニーズ
h) 緊急事態対応手順の定期的なテストの実施
i) 緊急事態に対応する要員の教育訓練
j) 連絡の詳細(例えば、消防署、流出物の清掃サービス)を含めた、主要な要員及び支援機関のリスト
k) 避難ルート及び集合場所
l) 近接した施設(プラント、道路、鉄道など)で緊急事態又は事故が発生する潜在的な可能性
m) 近接組織からの相互支援の可能性

A.5 点検

A.5.1 監視及び測定

 組織の運用には様々な特性がある。例えば、廃水放出の監視及び測定に関する特性には、生物学的酸素要求量、化学的酸素要求量、温度、酸性度などがある。

 監視及び測定から集められたデータは、パターンを特定し情報を収集するために分析することができる。この情報から得られた知識は、是正処置及び予防処置を実施するために使用することができる。

 かぎ(鍵)となる特性とは、どのようにして著しい環境側面を管理し、目的及び目標を達成し、環境パフォーマンスを改善するかを決定するために組織が考慮する必要があるものである。

 結果の妥当性を保証することが必要な場合には、測定機器に関し、定められた間隔で又は使用前に、国際又は国家計量標準にトレース可能な計量標準に照らして校正又は検証するとよい。そのような標準が存在しない場合には、校正に用いた根拠を記録するとよい。

A.5.2 順守評価

 組織は、適用可能な許可又はライセンスを含む特定した法的要求事項の順守を評価したことを実証できるとよい。

 組織は、特定した自らが同意するその他の要求事項への順守を評価したことを実証できるとよい。

A.5.3 不適合並びに是正処置及び予防処置

 不適合の性質にもよるが、要求事項に対応する手順を確立することによって組織は最小限の正規の計画でそれら(不適合に対応する処置)を達成することもあり、その活動がより複雑で長期にわたることもある。いかなる文書類も、処置の程度に応じて適切であるとよい。

A.5.4 記録の管理

 環境上の記録には、特に次の事項を含むことがある。

a) 苦情記録
b) 教育訓練記録
c) プロセス監視記録
d) 検査、メンテナンス及び校正記録
e) 請負者及び供給者の記録
f) 発生事象報告
g) 緊急事態への準備のためのテストの記録
h) 監査結果
i) マネジメントレビューの結果
j) 外部コミュニケーションに関する決定
k) 適用可能な法的要求事項の記録
l) 著しい環境側面の記録
m) 環境上の会議の記録
n) 環境パフォーマンス情報
o) 法順守記録
p) 利害関係者とのコミュニケーション

 機密情報については、適切に考慮するとよい。

参考

 記録は、この規格への適合を実証する唯一の証拠ではない。

A.5.5 内部監査

 環境マネジメントシステムの内部監査は、組織内部からの要員によって、又は組織のために働くように外部から選ばれた人によって実施することができる。いずれの場合にも、監査を実施する人は、力量があり、公平かつ客観的に行う立場にあるとよい。中小規模の組織では、監査員の独立性は、監査員が監査の対象となる活動に関する責任を負っていないことで実証することができる。

参考1.

 組織が、環境マネジメントシステムの監査を環境順法性監査と組み合わせて行うことを希望する場合は、それぞれの意図及び適用範囲を明確に定めるとよい。環境順法性監査は、この規格の範囲ではない。

参考2.

 環境マネジメントシステムの監査に関する手引は、JIS Q 19011を参照。

A.6 マネジメントレビュー

 マネジメントレビューは、環境マネジメントシステムの適用範囲を網羅するとよい。しかし、環境マネジメントシステムのすべての構成要素がまとめてレビューされる必要はなく、またレビューのプロセスは一定期間を超えることもある。

附属書B(参考)JIS Q 14001:2004とJIS Q 9001:2000との対応

 表B.1及び表B.2は、JIS Q 14001:2004とJIS Q 9001:2000との広範な技術的対応を示している。

 その比較の目的は、いずれか一方の規格を既に運用し今後両方を運用したいと望む組織に、両方のシステムを合わせて使えることを示すことにある。

 両規格の項目間の直接的な対応は、両者の項目の要求項目がほぼ一致している場合にだけ設定されている。それ以外にも、ここに示すことができなかった比較的弱い多数の詳細な相互関係が存在する。

表B.1 JIS Q 14001:2004とJIS Q 9001:2000との対応
JIS Q 14001:2004 JIS Q 9001:2000
環境マネジメントシステム要求事項(表題だけ) 4 4 品質マネジメントシステム(表題だけ)
一般要求事項 4.1 4.1 一般要求事項
環境方針 4.2 5.1
5.3
8.5.1
経営者のコミットメント
品質方針
継続的改善
計画(表題だけ) 4.3 5.4 計画(表題だけ)
環境側面 4.3.1 5.2
7.2.1
7.2.2
顧客重視
製品に関連する要求事項の明確化
製品に関連する要求事項のレビュー
法的及びその他の要求事項 4.3.2 5.2
7.2.1
顧客重視
製品に関連する要求事項の明確化
目的、目標及び実施計画 4.3.3 5.4.1
5.4.2
8.5.1
品質目標
品質マネジメントシステムの計画
継続的改善
実施及び運用(表題だけ) 4.4 7 製品実現(表題だけ)
資源、役割、責任及び権限 4.4.1 5.1
5.5.1
5.5.2
6.1
6.3
経営者のコミットメント
責任及び権限
管理責任者
資源の提供
インフラストラクチャー
力量、教育訓練及び自覚 4.4.2 6.2.1
6.2.2
(人的資源)一般
力量、認識及び教育・訓練
コミュニケーション 4.4.3 5.5.3
7.2.3
内部コミュニケーション
顧客とのコミュニケーション
文書類 4.4.4 4.2.1 (文書化に関する要求事項)一般
文書管理 4.4.5 4.2.3 文書管理
運用管理 4.6 7.1
7.2.1
7.2.2
7.3.1
7.3.2
7.3.3
7.3.4
7.3.5
7.3.6
7.3.7
7.4.1
7.4.2
7.4.3
7.5.1
7.5.2
7.5.5
製品実現の計画
製品に関連する要求事項の明確化
製品に関連する要求事項のレビュー
設計・開発の計画
設計・開発へのインプット
設計・開発からのアウトプット
設計・開発のレビュー
設計・開発の検証
設計・開発の妥当性確認
設計・開発の変更管理
購買プロセス
購買情報
購買製品の検証
製造及びサービス提供の管理
製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認
製品の保存
緊急事態への準備及び対応 4.4.7 8.3 不適合製品の管理
点検(表題だけ) 4.5 8 測定、分析及び改善(表題だけ)
監視及び測定 4.5.1 7.6
8.1
8.2.3
8.2.4
8.4
監視機器及び測定機器の管理
(測定、分析及び改善)一般
プロセスの監視及び測定
製品の監視及び測定
データの分析
順守評価 4.5.2 8.2.3
8.2.4
プロセスの監視及び測定
製品の監視及び測定
不適合並びに是正処置及び予防処置 4.5.3 8.3
8.4
8.5.2
8.5.3
不適合製品の管理
データの分析
是正処置
予防処置
記録の管理 4.5.4 4.2.4 記録の管理
内部監査 4.5.5 8.2.2 内部監査
マネジメントレビュー 4.6 5.1
5.6
5.6.1
5.6.2
5.6.3
8.5.1
経営者のコミットメント
マネジメントレビュー(表題だけ)
一般
マネジメントレビューへのインプット
マネジメントレビューからのアウトプット
継続的改善

表B.2 JIS Q 9001:2000とJIS Q 14001:2004との対比
JIS Q 9001:2000 JIS Q 14001:2004
品質マネジメントシステム要求事項(表題だけ) 4 4 環境マネジメントシステム(表題だけ)
一般要求事項 4.1 4.1 一般要求事項
文書化に関する要求事項(表題だけ) 4.2

一般 4.2.1 4.4.4 文書類
品質マニュアル 4.2.2

文書管理 4.2.3 4.4.5 文書管理
記録の管理 4.2.4 4.5.4 記録の管理
経営者の責任(表題だけ) 5

経営者のコミットメント 5.1 4.2
4.4.1
環境方針
資源、役割、責任及び権限
顧客重視 5.2 4.3.1
4.3.2
4.6
環境側面
法的及びその他の要求事項
マネジメントレビュー
品質方針 5.3 4.2 環境方針
計画(表題だけ) 5.4 4.3 計画(表題だけ)
品質目標 5.4.1 4.3.3 目的、目標及び実施計画
品質マネジメントシステムの計画 5.4.2 4.3.3 目的、目標及び実施計画
責任、権限及びコミュニケーション(表題だけ) 5.5

責任及び権限 5.5.1 4.4.1 資源、役割、責任及び権限
管理責任者 5.5.2 4.4.1 資源、役割、責任及び権限
内部コミュニケーション 5.5.3 4.4.3 コミュニケーション
マネジメントレビュー(表題だけ) 5.6

一般 5.6.1 4.6 マネジメントレビュー
マネジメントレビューへのインプット 5.6.2 4.6 マネジメントレビュー
マネジメントレビューからのアウトプット 5.6.3 4.6 マネジメントレビュー
資源の運用管理(表題だけ) 6

資源の提供 6.1 4.4.1 資源、役割、責任及び権限
人的資源(表題だけ) 6.2

一般 6.2.1 4.4.2 力量、教育訓練及び自覚
力量、認識及び教育・訓練 6.2.2 4.4.2 力量、教育訓練及び自覚
インフラストラクチャー 6.3 4.4.1 資源、役割、責任及び権限
作業環境 6.4

製品実現(表題だけ) 7 4.4 実施及び運用
製品実現の計画 7.1 4.4.6 運用管理
顧客関連のプロセス(表題だけ) 7.2

製品に関連する要求事項の明確化 7.2.1 4.3.1
4.3.2
4.4.6
環境側面
法的及びその他の要求事項
運用管理
製品に関連する要求事項のレビュー 7.2.2 4.3.1
4.4.6
環境側面
運用管理
顧客とのコミュニケーション 7.2.3 4.4.3 コミュニケーション
設計・開発(表題だけ) 7.3

設計・開発の計画 7.3.1 4.4.6 運用管理
設計・開発へのインプット 7.3.2 4.4.6 運用管理
設計・開発からのアウトプット 7.3.3 4.4.6 運用管理
設計・開発のレビュー 7.3.4 4.4.6 運用管理
設計・開発の検証 7.3.5 4.4.6 運用管理
設計・開発の妥当性確認 7.3.6 4.4.6 運用管理
設計・開発の変更管理 7.3.7 4.4.6 運用管理
購買(表題だけ) 7.4

購買プロセス 7.4.1 4.4.6 運用管理
購買情報 7.4.1 4.4.6 運用管理
購買製品の検証 7.4.3 4.4.6 運用管理
製造及びサービス提供(表題だけ) 7.5

製造及びサービス提供の管理 7.5.1 4.4.6 運用管理
製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認 7.5.2 4.4.6 運用管理
識別及びトレーサビリティ 7.5.3

顧客の所有物 7.5.4

製品の保存 7.5.5

監視機器及び測定機器の管理 7.6 4.5.1 監視及び測定
測定、分析及び改善(表題だけ) 8 4.5 点検
一般 8.1 4.5.1 監視及び測定
監視及び測定(表題だけ) 8.2

顧客満足 8.2.1

内部監査 8.2.2 4.5.5 内部監査
プロセスの監視及び測定 8.2.3 4.5.1
4.5.2
監視及び測定
順守評価
製品の監視及び測定 8.2.4 4.5.1
4.5.2
監視及び測定
順守評価
不適合製品の管理 8.3 4.4.7
4.5.3
緊急事態への準備及び対応
不適合並びに是正処置及び予防処置
データの分析 8.4 4.5.1 監視及び測定
改善(表題だけ) 8.5

継続的改善 8.5.1 4.2
4.3.3
4.6
環境方針
目的、目標及び実施計画
マネジメントレビュー
是正処置 8.5.2 4.5.3 不適合並びに是正処置及び予防処置
予防処置 8.5.3 4.5.3 不適合並びに是正処置及び予防処置

環境マネジメントシステム−要求事項及び利用の手引 解説

 この解説は、本体及び附属書Aに規定した事柄、並びにこれらに関連した事柄を説明するもので、規格の一部ではない。

 この解説は、財団法人日本規格協会が編集・発行するものであり、この解説に関する問合せは、財団法人日本規格協会へお願いします。

1. 環境マネジメントの標準化

1.1 ISO/TC 207の現状

 ISO/TC 207は、1993年設立以来10余年を経たが、持続可能な開発(sustainable development)への貢献を目標に、環境マネジメントの標準化活動を活発に続けている。その設立及びそれに続く数年の経緯については、1996年版JIS Q 14000シリーズ規格の解説に記されているので、それ以降の経緯及び現状について記す。

 ISO/TC 207の作業範囲(Scope)は変わらないが、若干表現を変えて、次のようにされている。“持続可能な開発(sustainable development)を支援するための環境マネジメントの分野におけるシステム及びツールに関する標準化。ただし、汚染物質の試験方法、環境パフォーマンスのレベル設定及び製品の標準化は除く”。また、2004年現在の参加国は、Pメンバー73か国、Oメンバー19か国、リエゾンメンバー52団体となっている。

 組織構成は、初期とは少し変わって、次のようになっている。

CAG:議長諮問グループ(CAG Chairman Advisory Group)
SC1:環境マネジメントシステム(EMS Environmental Management System)
SC2:環境監査(EA Environmental Auditing)
SC3:環境ラベル(EL Environmental Labeling)
SC4:環境パフォーマンス評価(EPE Environmental Performance Evaluation)
SC5:ライフサイクルアセスメント(LCA Life Cycle Assessment)
TCG:用語調整グループ(TCG Terms Coordination Group)
WG4:環境コミュニケーション(EC Environmental Communication)
WG5:気候変動(CC Climate Change)
WG6:GHGの有効性・検証審査の運用機関の要求事項(VVE Validation,Verification Evaluation)

 また、これまでのISO/TC 207総会の開催状況を、解説表1に示す。

解説表1 ISO/TC 207総会の開催状況

年月 開催地 参加国 参加者数/日本の参加者
第1回 1993年6月 トロント 26 200 / 24
第2回 1994年6月 ゴールドコースト 28 300 / 37
第3回 1995年6月 オスロ 45 500 / 39
第4回 1996年6月 リオデジャネイロ 45 430 / 26
第5回 1997年4月 京都 49 490 / 45
第6回 1998年6月 サンフランシスコ 51 535 / 45
第7回 1999年6月 ソウル 53 500 / 48
第8回 2000年7月 ストックホルム 57 600 / 27
第9回 2001年7月 クアラルンプール 55 400 / 31
第10回 2002年6月 ヨハネスブルグ 55 300 / 24
第11回 2003年6月 バリ 45 310 / 25
第12回 2004年9月 ブエノスアイレス 48 330 / 23

1.2 環境マネジメントシステムの普及状況

 1996年にマネジメントシステム及び監査の規格が発行されて以来、環境マネジメントシステムは確実に普及が広がっており、世界では60,000件を超す審査登録がある。EUにおいても、当初はEU規制のEMASへの審査登録がドイツを中心に盛んであったが、最近はISO 14001への審査登録の方が拡大を続けている。我が国における審査登録件数も、2004年11月の時点で16,000件を超している。

 規格発行以来8年間の審査登録制度普及の傾向は、国内的にみても、国際的にみても、次のように分析される。

・ フェーズI(1996〜2000):法順守に基づく従来の公害対策から自主的な環境マネジメントに移行。特定の産業分野中心で、事業所単位の審査登録が多く、環境側面の管理範囲も狭かった。
・ フェーズII(2001〜2004):自主性が強化され、全分野へ広がり、品質マネジメントとの統合的実施、企業単位の審査登録が増え、中小組織にも拡大した。単なる審査登録だけでなく、間接的な環境側面への広がりなど、システムの実効を求める組織が増えている。
・ フェーズIII(2005〜):改訂版規格に基づき、ステークホルダーの関心に注意を払い、より広範な環境マネジメントシステムへの移行が予想される。

 ISO 14001は上記のように確実な広がりをみせている一方、現行の認定・認証制度の信頼性に注目が集まっており、それぞれの立場で改善及び打開策が求められている。また、EUを中心として、中小企業(SME)のための普及策が芽を出しつつあり、審査登録に代わる段階評価が徐々に広がっている。

1.3 支援ツール規格の開発現状

 環境マネジメントシステム規格及び環境マネジメントを支援するツール規格の開発状況を、開発表2に示す。

解説表2 環境マネジメントシステム規格及びその支援ツールの開発状況
規格の項目 発行
(予定)
規格の開発状況 JIS
環境マネジメントシステム 2004.11
2004.11
ISO 14001改訂版
ISO 14004改訂版
2004.12
2004.12
環境監査 2002.10

2001.11
ISO 19011(ISO 14010,ISO 14011,ISO 14012,ISO 11011を合体)
ISO 14015
2003.02

2002.08
環境ラベル 2000.09
1999.09
1999.04
(2007)
ISO 14020改訂版
ISO 14021
ISO 14024
ISO/TR 14025改訂中
---
2000.08
2000.08
環境パフォーマンス評価(EPE) 1999.11
1999.11
ISO 14031
ISO 14032
2000.10
---
ライフサイクルアセスメント(LCA) (2006)

2003.10
2002.04
2000.03
ISO 14040,ISO 14044改訂中(ISO 14040,ISO 14041,ISO 14042,ISO 14043を合体)
ISO/TR 14047
ISO/TS 14048
ISO/TR 14049


---
---
2000.12
用語 2002.05 ISO 14050 2003.02
森林マネジメント 1998.12 ISO/TR 14061 2003.02
環境適合設計(DFE) 2002.10 ISO/TR 14062 2003.07
環境コミュニケーション (2006) ISO 14063審議中
気候変動 (2006) ISO 14064審議中
−組織の排出・削減算定
−プロジェクトの排出・削減算定
−検証/認証の仕様とガイダンス
−GHGの有効性・検証審査の運用機関の要求事項

1.4 ISO/TC 207の将来ビジョン

 ISO/TC 207の将来ビジョンは、“組織、製品及びサービスの環境パフォーマンスを改善して、世界の貿易を促進し、持続可能な開発に貢献する”というものである。TC 207の戦略タスクグループの摘出した将来的な活動分野を、解説図1に示す。

解説図1 ISO/TC 207の活動分野の広がり
(ここに図が入る)

 ISO/TC 207の使命としては、環境マネジメントに関する社会的ニーズの動向を的確に把握し、地球規模でのISO 14000ファミリーへの参加を促し、ISO 14000ファミリーの妥当性を維持し、ISO 14000ファミリーのブランドを守ることであるとされている。このために我々関係者は、現実の変化に対応すると共に、常に人的資源の確保とプロセスの革新が必要であると考えている。最近のTC 207の重要動向として、途上国のリーダーシップ(Twinning)を活用すること、NGOとの密接なコンタクトを図ること、及びSMEへの配慮などはその1つの表れである。

2. 2004年版改訂の経緯

2.1 改訂の主旨

 今回の改訂の主旨は、ISOの改訂ルール(ISO/IEC Directives Part 1,2.9)に基づく5年以内の見直し結果によるものである。規格の普及は1996年の初版発行以来急速に進んでおり、また、ISO 9001も内容を一新した形で2000年に改訂版が出されることが決まっていたため、早期の着手が望まれていた。1998年1月には、ISO内のTAG(Technical Advisory Group)12から両規格の用語、構造及び内容のすべてにわたる整合化の提案が出されており、また、1998年6月のTMB(Technical Management Board)の決議によれば、TAGに対して提案の履行及び両マネジメント規格の改訂を同期化することが求められていた。一方、ISO/TC 207/SC 1内の議論の中では、大幅な内容の改訂を主張する声もあったが、新規又は追加の要求事項が出されることをおそれた途上国グループの改訂反対論も根強く残されていた。

 こうした背景の中で改訂の主旨は、次の3項目とされた。

・ ISO 9000及びISO 9001との両立性の向上
・ 既存の規格の理解を助けるための明確化
・ 新規又は追加の要求事項は排除する

 しかし、現実には前の2項目と3項目目では矛盾が生じうるので、最終的に改訂版規格の序文に書き込まれた改訂の主旨及び原則は前の2項目だけである。

2.2 改訂の経緯

a) 改訂に関する主要な活動

 改訂の経緯の概要を、解説表3に示す。最後のブエノスアイレス会議を除いて、SC 1会合では常にWG 1(ISO 14001)及びWG 2(ISO 14004)の会合がもたれ、WG会合では常にWG 1及びWG 2の会合がもたれている。日本からは、WG 1に吉田敬史(三菱電機株式会社)及び木登夫(当時、株式会社荏原製作所)が、WG 2に中丸進(株式会社リコー)及び吉村秀勇(財団法人日本規格協会)がエキスパートとして登録され、これらの会合に出席した。

 なお、2003年4月からは、高木登夫に代わり寺田博(株式会社イーエムエスジャパン)が、WG 1のエキスパートを務めた。

解説表3 ISO/TC 207/SC 1会議の開催状況
年月 会議場所 会議名 主要事項
1998年6月 サンフランシスコ SC 1 改訂NWIP(新作業項目提案)却下
1999年4月 ロンドン WG ISO 14001改訂プロセスの決定
ISO 14004改訂開始指示
1999年6月 ソウル SC 1 途上国の反対、ISO 14001はレビュー継続、ISO 14004は改訂着手
1999年11月 ワシントン WG 条件を限定して改訂を勧告
2000年7月 ストックホルム SC 1 改訂を決議
2000年11月 サルバドル WG 改訂提案の分類及び選択
2001年3月 ワシントン 小グループ WD(作業原案)作成
2001年7月 クアラルンプール SC WD内容審議
2001年8月 ロンドン 小グループ CD(委員会原案)の作成
2001年11月 ビルン WG CD 1成立
2002年3月

CD 1コメント締切り
2002年6月 ヨハネスブルグ SC 1 CD 1に対するコメント検討(前半)
2002年10月 カンクン WG CD 1に対するコメント検討(後半)
2003年1月〜3月

CD 2投票
2003年7月 バリ SC 1 CD 2対するコメント検討、DIS作成
2003年8月〜2004年1月

DIS(国際規格原案)投票
2004年3月 パリ WG DISに対するコメント検討、FDIS作成
2004年8月〜2004年10月

FDIS(最終国際規格案)投票
2004年8月 ブエノスアイレス SC 1 WGの解散を決議
2004年11月15日

IS(国際規格)発行
2004年12月27日

JIS官報公示

b) ISO 14001の改訂経緯

 1998年6月、サンフランシスコ会合において改訂のNWIPが提案されたが、時期尚早で却下された。しかし、この後行われた調査では、3分の2の国は賛成の意向を表した。続いて1999年6月のソウル会合では、途上国が強い反対の意向を表し、レビュープロセスを継続することとなった。

 2000年7月のストックホルム会合では、前年11月のWGでまとめられた改訂開始の勧告に基づき改訂が決議された。改訂の原則は、ISO 9001との両立性向上及び要求事項の明確化とされ、これらに基づく変更が追加要求事項とならないこととされた。

 ストックホルム会合の決議を受けて各国から提出された改訂提案が膨大な量であったため、2000年11月のサルバドルWGでこれらの提案を両立性に関するもの、明確化に関するもの、及び追加とみなされるものに分類する作業が行われた。2001年7月のクアラルンプールにおけるSC及びWG会合でその内容が吟味されたが、このときには改訂版の主要な骨子が見えていた。この中には、次のような主要な事項が改訂案として表現されていた。

− and/or問題:活動、製品及びサービス
− those issue問題:組織が管理できる側面及び影響を及ぼすことができる側面
− how they apply問題:これらの(法的)要求事項が組織の環境側面にどのように適用されるか
− programme合体論:96年版の4.3.3(目的及び目標)と4.3.4(環境マネジメントプログラム)の合体

 クアラルンプール会合ではWDをCDとするまでには至らなかったので、更に同年11月ビルンでWGがもたれ、ようやくCDを完成した。このCDには、非常に多くのコメントが寄せられた。続く2002年6月のヨハネスブルグ会合の際、これらのコメントの検討が行われたが、半分しか進まず、再び2002年10月カンクンでWGがもたれ、CD 2とした。この段階で“record”、“auditor”、“document”などの定義の追加、文書、文書管理におけるISO 9001:2000の引用、順守評価の項の独立、不適合の項の書き直しなどが行われた。WG 1コンビーナーの判断でCD 2の成立が宣言されたが、SC 1議長から合意が不十分としてCD 2不成立の動議が出されるなど、波乱の会議であった。

 2003年7月のバリ会合の際には、再びCD 2に寄せられた大量のコメントの処理が行われたが、この際にも主要なコメントの半分しか処理できず、2004年3月のパリでWG会合がもたれることとなった。前年のカンクン及びバリ会議では、(本体の)4.5.3(不適合並びに是正処置及び予防処置)と4.6(マネジメントレビュー)の記述が二転三転する激しい議論が行われた。また、バリ会合の際には、TC 176議長からTC 207にあてて改訂原案の用語、構造及びアプローチのすべてにわたってISO 9001:2000と整合させるよう要望が出されたが、DISに差しかかろうとするこの段階でのこの提案は無理難題であったため、棄却された。

 最後のパリ会議では、600件を超すDISへのコメントのうち重要な200件を処理し、残るエディトリアルなコメントは議長団に任せる形でFDISを用意することとなった。パリ会議でも、(本体の)4.3.1(環境側面)、4.3.2(法的及びその他の要求事項)、4.5.2(順守評価)、4.5.3(不適合並びに是正処置及び予防処置)、4.5.4(記録の管理)などの項に関連する合意がなかなか取れなかった。特に(本体の)4.5.2では“compliance”の語の使用をめぐって容易に合意が取れず、エキスパートであってもFDISの回付が最終的にどう書かれるのか予測がつかないほどであった。そんなことも反映してか、FDISの回付は4月の予定が8月まで延びてしまった。投票の結果が気になったが、10月12日になってみると予想に反して賛成54、反対0でIS化が可決され、この改訂作業は終了した。

2.3 改訂審議に対する国内委員会の対応

 改訂作業が本格化してWDが完成(2001年3月ワシントン)したことを受けて、国内審議委員会である環境システム小委員会(SC 1)[委員長:吉田敬史(三菱電機株式会社)]にタスクフォース[設立当時、小森克紀(当時、東京電力株式会社)、2003年11月からは寺田博(株式会社イーエムエスジャパン)]が設置され、産業界をはじめ広い範囲からの見解を求めるなど具体的な検討活動がなされた。主査をはじめ委員は多忙を極める方々ばかりであったが、ISOの動きに合わせて会合を重ね、日本の見解をまとめることに大きく貢献した。

 2001年のクアラルンプール会合(WD)に対する対応準備のために5回の会合を、2001年9月のロンドンにおける小グループ会合のために3回、同年11月ビルンでのWGに備えて3回の会合を重ねて、CD作成の過程に対応した。この中には、“継続的改善”、“環境パフォーマンスなどの定義の問題、“活動、製品及びサービス”のand/or事項、“内部監査”とすることへの見解などが含まれている。

 2001年11月のビルン会議で作成されたCD 1に対しては、これに我が国としての見解を示すため、国内委員会で関係団体の見解を集めると共に、財団法人日本規格協会主催のISO/CD 14001改訂動向説明会が開催され、広く一般からのコメントも集められた。これによって、国内での審議過程の中で最も多い数となる約500件のコメントが国内委員会に寄せられた。これらのコメントは上記のタスクフォースで検討され、最終的には“文書管理”、“記録の管理”、“マネジメントレビュー”などの項のISO 9001:2000との整合化に関するものを含む30件に集約された。

 2002年10月のカンクン会議で紛糾の結果成立したCD 2に対しては、2003年1月から3月の間にコメントの集約が行われたが、この時も、国内委員会で関係団体の見解を集めると共に、財団法人日本規格協会主催のISO/CD 2 14001改訂動向説明会が開催され、広く一般からのコメントも集められた。この際集められたコメントは250件に近く、これらは上記のタスクフォースの手で分析、検討が行われた。CD 2に対しては、規格使用者の便宜を考えて我が国が最も強く主張してきたISO 9001との整合がまだ不十分であるという理由で反対票を投じることにすると共に、44件のコメントを厳選のうえ、提出した。重要なコメントはISO 9001:2000との整合を主旨としており、“control of records”の項を(本体の)4.5.4(記録の管理)から(本体の)4.4.6の位置に移す(ISO 9001:2000に合わせて文書管理の次に記述する)こと、“監査員の独立性”に関する一文をISO 9001:2000から引用すること、及び“management review”にインプット記述を採用することなどが含まれているが、この中で採用されたのは最後の一項だけで、ISO 9001:2000との整合化の難しさを表している。

 2004年1月のDIS投票時には賛成票を投じたが、ISO/DIS 14001改訂動向説明会が開催され、350件に及ぶ国内コメントが集められた。これらは、上記国内委員会で整理され、その結論をもとに15件のコメントを提出した。その内容は、“legal requirements”の記述に一貫性をもたせること、4.5.3の記述改善、“management review”へのインプット項目として“environmental performance”を加えることなどで、これらはすべて採用されている。

2.4 国内委員会ISO 14001/ISO 14004翻訳・解釈WGの活動

 2003年7月に改訂ISO 14001の発行に備えて、国内委員会SC 1小委員会にISO 14001/ISO 14004翻訳・解釈WG[主査:吉澤正(帝国大学)]が設置された。そのねらいはISO規格、JISの同時発行とされ、DISの投票回付が行われた2003年8月から作業を開始し、同年10月にはDIS 14001の翻訳を、2004年4月にはDIS 14004の翻訳を完成した。引き続き、ISOにおけるFDISの準備状況に合わせて、2004年8月にはFDIS 14001の翻訳を、また10月にはFDIS 14004の翻訳を完成させた。同グループの開催はこの間に40回以上に及んだ。

 翻訳に当たっての原則、並びに訳語の選定及び使用に関しては、この解説の3.2を参照して頂きたい。

3. 改訂審議中に問題になった事項

3.1 ISO/TC 207/SC 1/WG 1の審議中に問題になった事項

a) ISO 9001との整合化

 ISO 9001との整合化は、今回の改訂の原則の一つとされた。この原則に基づいて、結果的にはかなりのシステム要素に関する記述、特に文書類以降の部分では整合化が図られた。改訂作業の当初から部分的な議論は進められたが、途中DISの段階に入ってから、ISO 9000シリーズの規格の開発を担うTC 176議長から、TC 207の議長あてに大幅な整合化の改善に関する要望が出された。これによると、規格の構成、アプローチ、用語のすべてにわたってISO 9001:2000と整合させるというもので、改訂作業が半ば以上進んだこの時点でこの提案を受け入れることは不可能ともいえる状態であった。そのため、規格の構成及びアプローチは96年版を踏襲し、これらの整合化の課題は次期改訂にゆだねられることになった。しかしながら、今回の改訂においては、用語の新規追加、教育訓練、文書、記録、不適合、監査、マネジメントレビューなど多くの要素に関する記述において、ISO 9001:2000との両立性が大幅に向上している。

b) 序文の改訂

 ISO 9001:2000においては、ISO 14001との両立性改善のため、ISO 14001の本体の序文図1に倣ってシステムモデルの図を採用したが、図に関連した参考記述の中でPDCAの簡単な説明が記載されている。これに合わせて、ISO 14001本体の図1にも同様な参考記述をつけることにした。この際に、図中でひし形ボックス内に記載されている“計画”、“実施”、“点検”などの部分に、更に小ボックスを付して“Plan”、“Do”、“Check”、“Act”の語を入れることが行われたが、当初からひし形ボックス内の記述は規格の項タイトルとされており、“点検及び是正処置”に付ける小ボックス中の“Check”は適切でないということで、結局、小ボックスは取り外された。しかし、その後(本体の)4.5のタイトルは単に“点検”と記述することになったので、小ボックスでPDCAを表記したとしても矛盾は出なかったはずである。

 序文の第5パラグラフには、今回の改訂の主旨として、明確化とISO 9001との両立性向上の2点が記述されている。これに続く第6パラグラフとして、今回の改訂では要求事項の追加も削除もないことが記されていたが、この一文の記述には無理があるということで、最終的には削除されることになった。しかし、最後までこれも今回の改訂の原則の一つであるとして記述を要望する議論が残った。

c) 用語に関する議論

 ISO 9001との整合化の項で述べたように、用語をISO 9000と統一したいという議論があり、既存の用語に対する整合化の議論及び新規採用の議論が行われた。この過程では、特にISO 9000:2000に定義されている用語が20余り提案された。結果として一部の共通的用語で整合化が図られると共に、7語の定義がISO 9000:2000に倣って採用された。引用の程度であるが、“auditor”及び“nonconformity”の2語は完全引用、“document”、“procedure”及び“record”の3語はISO 9000:2000のそれぞれの定義の参考の一部を削除する一部採用の形、また、“corrective action”及び“preventive action”の2語は定義文の一部を削除した変更引用の形を取っている。

 議論の最後まで残った語には、“system”、“management system”、“process”、“correction”などがあるが、“system”、“management system”の定義文は“environmental management system”(3.8)の定義の参考1.に含まれている。

d) 適用範囲の決定及び文書化

 96年版では適用範囲の最後の一行に記されていた内容が、改訂によって、一般要求事項の中で“適用範囲を決定”することとして記述された。この際に我が国は“文書化”も合わせて要求することを主張したが、当初は賛同を得られず、附属書Aに“should”の記述で入れられていただけであった。しかし、最終のパリ会議において、EUの一国から再度提案がなされたところ、今度は反対もなく、難なく採用されたのは興味深い。

e) 環境側面の範囲に関する議論

 環境側面の項では多くの事項が議論された。まず、記述の流れとしては、“環境側面の特定”及び“著しい環境側面の決定”をa)及びb)の2項で明りょうに分けた点である。96年の記述は、“著しい環境側面を決定するために環境側面を特定する”と要求されており、そのプロセスが多少不透明であったので、この点を段階的で厳格な記述としたものである。

 環境側面の範囲に関する議論は、審議中、最も慎重な議論がなされたポイントの一つである。規格の中では、適用範囲、環境方針及び環境側面の項に関連した記述がある。まず、第1点は、適用範囲にあるこの規格の適用に関する記述で、次のように書かれている。“It applies to those environmental aspects that the organization identifies as those which it can control and those which it can influence.”

 “organization”に続く部分は、ISO 14001:1996では“can control and over which it can be expected to have an influence”と書かれており、JIS Q 14001:1996では“組織が管理でき、かつ、影響が生じると思われる環境側面”と訳された。この表現はあいまいで、“管理できる側面の内で影響が生じる側面”の解釈が成り立つが、これは規格の意図とは異なる。本来の意図はもちろんのこと、“管理できる側面”及び“影響を及ぼすことができる側面”を共に、ということである。この意を正しく表すために、上記の表現とされた。

 この際の大きな議論は、“影響を及ぼすことができる”の表現は余りにも漠然とした範囲を示すということで、“組織の裁量に基づいて”の表現を付けるべきであるという意見が、米国、カナダを中心に強く出されたことである。裁量に基づくのは当然のこととして、この限定詞は不要であるとの見解が大半を占めたが、最後の段階で下線を付した5語が追記されることになった。

 ここで一般要求事項第1文の最後の部分の記述“どのようにしてこれらの要求事項を満たすかを決定すること”が挿入された経緯を説明しておく。上記“identifies as those which it”の5語は、当初多数の国の反対によって挿入が阻止されていたが、米国はあきらめず、この主旨をすべての要求事項を対象とする形で一般要求事項の中に上記の一文として記述することを提案し、その挿入に成功したものである。その後の過程で、結局、上記の5語が“影響を及ぼすことができる環境側面”のみならず“管理できる環境側面”を含めて追記されることになったものである。

 次は、この規格の中では環境側面の表現として“activities,products or services”が用いられていたが、これも“or”には選択性があり厳密さを欠くという議論である。この議論はSC 1/WG 1の存続が危ぶまれるほど激しいものであったが、“or”を“and”に換えて当初の意図のとおりに厳密さを保つことができた。規格の文中、ほとんどの箇所で“or”は“and”に書き換えられた。定義3.6“environmental aspect”の中では“activities or products or services”と書かれているが、定義で“or”が用いられているのは、単純にこれらの要素を側面とすることを表現しているだけであることに留意されたい。

f) 環境方針の適切性について

 環境方針(本体の)4.2のa)では、組織の環境方針が“is appropriate to the nature,scale and environmental impacts”と書かれている。一部の国からこの要求に対する適合性の評価は極めて困難であることを理由に、削除又は変更の要望が出された。SC 1では、この問題を取り上げて各国の状況、考え方を集めたワークショップを規格、実施した。このワークショップにおいて、オランダ、ブラジルなどの国から適合評価に関するクライテリアについての有用な意見が出され、規格中のこの要求事項はそのまま存続することとされた。要は、その他の経営上の諸情報から総合的な評価が必要ということである。

g) システムの構成員を示す表現について

 システムが適用される要員の表現として、ISO 14001:1996では4.2で“employees”及び4.4.2で“employees or members”の言葉が使われていたが、特に4.2における“employees”の表現は不十分であるとして、“all persons working for or on behalf of the organization”と書き換えられた。

h) 手順の要求に関する表現

 要素ごとに規格は手順を求めており、その表現は“the organization shall establish and maintain (a) procedure(s) to...”であったが、さらに厳密な表現とするため、“implement”の語を加えて“the organization shall establish,implement and maintain (a) procedure(s) to...”と書くことにした。ISO 9001:2000にこの表現はないが、4.2.1のNOTE 1に“Where the term 'documented procedure' appears within this International Standard,this means that the procedure is established,documented,implemented and maintained.”と記されている。ISO 14001:1996では、“implement”の意味は“establish”又は“maintain”の語で読み取られているが、より明確な表現とされたのである。

i) 法的要求事項に関する議論

 ISO 14001:1996では、“legal and other requirements to which the organization subscribes”及び“relebant environmental legislation and regulations and other requirements to which the organization subscribes”の2種類の表現が使われていたが、これらを統一して“the applicable legal requirements and other requirements to which the organization subscribes related to its environmental aspects”と書くことにした。この過程で“environmental legal requirements and other environmental requirements to which...”と表現されたことに対しては、この記述によると“環境法の要求事項”だけに限定されることとなり、対象がいわゆる環境法だけになって範囲が狭くなるという議論が強く、“environmental”を“legal”の前から削除して、文末に“related to its environmental aspects”を加えることにした点は注目すべきである。また、(本体の)4.3.2b)では“to determine how these erquirements apply to its environmental aspects”という新しい記述が入ったが、今回の改訂中最も激しい議論の末、実現されたものである。

j) environmental management programme(s)について

 ISO 14001:1996の4.3.4のタイトルは“Environmental management programme(s)”と書かれていたが、これも“management”の総括的なイメージとなりやすく誤解を伴うことが議論された。この項に書かれているのは、直前の項の“objectives and targets”(4.3.3)を達成するための“programme(s)”の要求である。したがって、この項の要求事項は、4.3.3に盛り込むこととされた。

k) competence,training and awarenessに関する議論

 96年版では3階層の要員へのニーズが書かれていたが、階層の区分けが明りょうでないということで、すべての要員に求められる“awareness”のニーズ及び特殊階層の要員(著しい環境影響の原因となる可能性のある作業を実施する)に求められる“competence”のニーズ、並びにそれらを支えるために必要な“training”の3種類のニーズに関する要求として書き改められた。要求の順番も、特殊で重要なニーズである“competence”から始めて、これを支えるのに必要な“training”、そして全員に求められる“awareness”の順とされた。記述の内容及び書き順はISO 9001:2000と一致させたが、ISO 9001:2000の項のタイトルの順とは異なっている。

l) 著しい環境側面に関する外部コミュニケーション

 96年版の記述のうち、著しい環境側面に関する外部へのコミュニケーション(情報開示)の要求が分かりにくいとして、活発な議論が行われた。この部分については、96年版の解釈をめぐって国内解釈委員会が見解を示しており、SC 1の議論では、これに基づく我が国の提案を中心に議論が進められ、我が国の見解に沿った表現で改訂案がまとめられた。議論の中では、我が国の世界一を誇る審査登録件数が尊重された形である。

m) documentに関する議論

 本体の4.4.4及び4.4.5に関しては、ISO 9001との整合化に関する議論が中心である。結果的にはISO 9001:2000の記述の引用がベースとなったが、ここに至る過程には多くの議論があった。この改訂によってISO 14001においても、記録は文書の一部であることが明言されることになった。関連して、各要素の要求の中で、従来“文書化”とされていた部分が“記録を残す”とされたり、その反対のことが起こっているが、この点は定義に基づいて理解することが重要である。

 なお、“manual”の語の使用をめぐっては依然として拒否反応が強く、(本体の)4.4.4c)においては96年版のa)とb)を合わせた表現が用いられている。

n) 順守評価について

 新しい項となった本体の4.5.2に関する議論は、FDISの段階まで紛糾した。この項のタイトルは“Evaluation of compliance”で、内容には“legal requirements”及び“other requirements to which it subscribes”の“compliance”評価が要求されている。“compliance”の語は“legal requirements”には差し支えないが、“other requirements”のような自発的なものには適切でないというのが、米国、カナダを中心とする数箇国の強い主張で、合意が成立しなかった。結局、内容を(本体の)4.5.2.1と4.5.2.2とに分け、“compliance”と“conformity”の語で書き分けることがWGの結論であったが、FDISにまとめる段階で、議長の努力によって(本体の)4.5.2.1と4.5.2.2共に“compliance”の表現で妥協が成立したものである。

o) 不適合並びに是正処置及び予防処置の議論

 ISO 9001との両立性の観点と米国の強い主張から長時間の議論が行われ、再三にわたって原案は書き換えられた。議論の第1点は、是正が先か予防が先かである。CD 2の段階では“予防及び是正処置”とされ、内容もその順に書かれた。環境問題に関しては、この考え方の方が受け入れやすいと思われるが、ISO 9001との整合は悪くなることと、米国のような法体系においては法的な問題を起こし兼ねないということで、結局は96年版と同じく“是正及び予防処置”と記述されることとなった。ところが、“是正及び予防処置”では一つの処置と考えられる心配がある。一方のISO 9001:2000では、8.5.2及び8.5.3で二つの処置を別々に扱っており、これと整合させよというのである。これが第2のポイントで、結論的にはタイトルが“Nonconformity,corrective action and preventive action”とされ、内容もこれに合わせて3段階の処置がa)、b)及びc)として要求されることとなった。同時に、d)及びe)で記録及び有効性のレビューが要求されている。

p) control of recordsに関する議論

 一つは規格の構成と関連する議論で、ISO 9001:2000に合わせて“control of records”の項を(本体の)4.4、すなわち、PDCAのDの要素として扱えという主張である。これは我が国の主張でもあったが、実現しなかった。もう一つは、要素ごとに記録を要求することの是非であるが、こちらの方は一部の要素では明りょうに要求することになった。

q) 監査員の独立性に関する議論

 従来、附属書に書かれていた監査の客観性及び公平性に関する記述が、ISO 9001:2000から引用されて本文中に取り入れることになった。ところが、この引用は部分的なもので、我が国が主張した“Auditor shall not audit their work”は引用されず、両立性の観点から極めてバランスの悪い引用となった。この点を補充する意味で、“internal audit”の定義(3.14)のNOTE 1及び附属書A.5.5にISO 19011:2002の“audit”の定義に付けられたNOTEを引用することで妥協せざるを得なかった。

r) management reviewの記述方法

 “management review”の項も、ISO 9001との両立性をめぐって再三書き換えの行われた部分である。従来のように文章でトップマネジメントの自由度を活かした程度の表現にするか、ISO 9001:2000のようにインプット及びアウトプットを箇条書きとするかが議論された。結局、共通的な要素であるマネジメントレビューで要求の仕方が異なるのは具合が悪いという意見が強く、ISO 9001:2000の書き方に合わせてインプット及びアウトプット形式の記述となった。

s) 附属書の要否に関する議論

 適合を評価する際の附属書の取扱いに関連して、附属書有害論が根強く、再三にわたって全面的削除の提案がなされた。その都度議論は分かれたが、あまりにも同じ議論が繰り返されたので、削除議論の凍結の議決が採択され、今回の改訂では削除の議論は封印されることとなった。附属書の内容はできるだけ簡潔なものとすることが目標とされたが、結果的に分量は2倍近く増となっている。また、適合評価の際の混乱を避けるために、附属書Aの冒頭には、96年版に記述されている“誤った解釈を防ぐ意図”の表現に加えて、“本文の要求事項に対する追加、削除、変更の意図はない”ことが記述されることとなった。

3.2 JIS Q 14001の翻訳で注意した事項

 ISO 14001:2004からJIS Q 14001:2004への翻訳は、次の原則に基づいて行った。

・ ISO 14001改訂の主旨を尊重し、使用者の混乱を避ける。
・ 原文の変更は訳文の変更に反映させる。
・ 原文が同一の場合はJIS Q 9001:2000の訳語に合わせる。
・ 常(とう)套語の使用には一貫性をもたせる。

 次に、翻訳上問題になった用語及び使用した訳語をアルファベット(辞書式)順に挙げる。

a) adequacy:適切性、妥当性

 原語には質量共に満足できる意があるので、“適切性”、“妥当性”の語を当て、JIS Q 9001:2000の訳語に合わせて使い分けた。

b) appoint:任命する

 JIS Q 14001:1996では、“指名する”としたが、JIS Q 9001:2000に合わせて“任命する”とした。

c) approach:取組み、手法、アプローチ

 方法論的な使用でかなり明りょうになっている場合は、“アプローチ”、一般的な場合には“取組み”、“手法”などとした。

d) awareness:自覚

 JIS Q 9001:2000との整合化の点で、最も問題のあった語である。JIS Q 9001:2000では“認識”の訳語が当てられているが、JIS Q 14001では“awareness”の対象として自己の立場、価値、義務、使命などを示す記述があるので、単に認識するだけでなく、これらを明りょうにわきまえることを要求していると解釈して、JIS Q 14001:1996を踏襲し“自覚”を存続することにした。

e) certification / registration:認証/登録

 我が国の認定・認証制度においては、“審査登録”の語が当てられていたが、日本適合性認定協会において“認証/登録”用語の検討を進めていることも受けて、規格内の表現としてはJIS Q 14001:1996の訳語を変更して“認証/登録”とした。

f) commitment:コミットメント

 JIS Q 14001:1996では、文意に沿って“関与”及び“約束”の2語を当てたが、翻訳の原則に基づき、JIS Q 9001:2000に合わせて“コミットメント”とした。この語には、誓約から軽い約束、単純なかかわり合いまで広い意味があるが、文意及び立場に応じた解釈が必要である。

g) communicate(communication):伝達する、周知する、コミュニケーションを行う

 “communicate”には、相互に情報を分かち合う意味があり、適切な訳語が見当たらないので、文脈に応じて一方的に伝える場合、理解を求める場合、及び相互に交流する場合に対応して3様の訳語を当てた。

h) competence:力量

 JIS Q 14001:1996では、“能力”の訳語を当てたが、JIS Q 9001:2000に合わせて“力量”に変えた。“能力”の語には“なし得る力”という意味しかなく、“力量”にはその能力の大きさの度合いの意味がある。原語の“competence”には、そのことを十分に又は効率的に成し遂げる能力の意があるので、“力量”の方がより適切な訳語であると考えた。

i) compliance:順守

 JIS Q 14001:1996に従った訳語としたが、漢字を“遵守”から“順守”に変更した。いずれも“従い守る”という意に用いられるが、常用漢字という主旨から、より一般的な用字を当てた。ただし、附属書のA.5.5のNOTE 1に記された“environmental compliance audit”の訳語は、その主旨から“環境順法性監査”とした。

 なお、本体の4.5.2のタイトルについては、“Evaluation of compliance”を“順守評価”として一つの熟語ととらえた。

j) consider:考慮する

 JIS Q 14001:1996では、“consider”には“配慮する”の訳語を当てたが、“配慮”の語は心配りという情緒的な使い方が一般的であるので、“考慮する”と改めた。原文では、“consider”の表現を“take into account”と改めた部分があるが、これは対象が要求事項に関連する場合となっている。“account”も“consideration”も同義であるが、“take into”に注目して“take into account”及び“take into consideration”は、強勢を与えて“考慮に入れる”と訳した。

k) consistent with:整合して、首尾一貫し、一貫性のある

 JIS Q 14001:1996及びISO 9001:2000と同様、“整合して”を当てることとした。ただし、本体の4.6だけは文体から考えて“首尾一貫させて”としているが、意味は変わらない。

l) determine:決定する、特定する

 “determine”は事物、方法、原因、事柄の適否などを定めるのに使われるので、原則として“決定する”としたが、本体の4.5.3b)のように対象が“原因”の場合は、日本語の慣例に従って“特定する”と訳した。

m) develop:設定する、とりまとめる

 “develop”の語の意味は、“より成長させる”“より成熟したもの、より上位のものとする”などである。JIS Q 9001:2000では“design and development”となっているので、“開発”の訳語が当てられているが、ここでは文意に従って、“方針の設定”又は“情報のとりまとめ”とした。

n) documentation:文書類、文書化

 本来“documentation”は、文書の集合体を指す語であり、本文中ではほとんどその意味で用いられているので、JIS 14001の項目タイトル変更を機会に“文書類”に変更した。ただし、一部では理解しやすいため文書化の訳語も残した。本体の4.4.5のタイトルは、JIS Q 9001:2000に合わせて“Document control”から“Control of documents”に変更されているが、JIS Q 14001では変更しなかった。

o) environmental management system:環境マネジメントシステム

 略語“EMS”の使用は避け、常に“環境マネジメントシステム”と訳出した。

p) establish:確立する、設定する、策定する、作成する、規定する

 “establish”には、本来、システムや組織を“set up”する意で用いられるが、規格中では多用されており、文意に合わせて上記のように多様な訳語を当てた。

q) function:部門、機能部門

 この語が“function and levels”と用いられる場合には、“部門及び階層”としたが、“management function”と用いられたときは、理解を助ける意味で“マネジメント機能部門”とした。

r) identify:特定する、識別する、明確にする

 “identify”は、まさに人、事物を特定することであり、JIS Q 9001:2000とほぼ合わせて上記の訳語を当てた。

s) infrastructure:インフラストラクチャー

 基本的な構造、施設を表す用語として片仮名による使用がかなり一般化しており、JIS Q 9001:2000に合わせて“インフラストラクチャー”とした。

t) management:マネジメント、経営層

 JIS Q 9000シリーズと異なって“management system”、“management review”、“environmental management”以外にはほとんど使われておらず、これらはいずれも片仮名で“マネジメントシステム”、“マネジメントレビュー”、“環境マネジメント”とした。人を指す場合のうち、“top management”はJIS Q 9001:2000に合わせて片仮名で“トップマネジメント”としたが、“management”一語の場合はJIS Q 14001:1996に従って“経営層”とした。

u) may(might):してもよい、かもしれない

 “may(might)”には、許可、容認、推量、祈願、譲歩、能力などの用法があるが、規格中では許可、容認又は推量として用いられている。本文中では1か所だけが容認の形で使われている。附属書Aでは多くが推量の形で使われており、この場合は文脈に従って“かもしれない”、“可能性がある”、“こともある”などとした。

v) NOTE:参考

 JIS Q 14001:1996では“備考”だったが、JIS Q 14001:2004ではJIS 9001:2000に合わせて“参考”とした。

w) performance:パフォーマンス

 JIS Q 14001:1996及びJIS Q 14000ファミリー規格の訳語に従って、今回も片仮名表記とした。この規格の中では、定義化された“環境パフォーマンス”及び“環境マネジメントシステムのパフォーマンス”の二つの用い方がされている。

x) product stewardship:プロダクトスチュワードシップ

 非常に訳語の見出しにくい語である。“製品に対する良心的責任感”くらいであろうが、ここでは片仮名表記とした。

y) programme:プログラム、実施計画

 本体の4.3.3の中では、今回の改訂の主旨(目的・目標を達成するためのものとして96年版の4.3.4が4.3.3に併合されたこと)をくんで、より実情を表すと考えられる点から、“実施計画”とした。また、本体の4.5.5ではJIS Q 9001:2000及びJIS Q 19011:2003に合わせて従来どおり“プログラム”とした。

z) relevant:関連する、適切な

 基本は“適切な”であるが、“relevant functions and levels”などでは“関連する部門及び階層”とした。

aa) review:レビュー、レビューする

 JIS Q 14001:1996では“management review”の場合だけ“見直し”とし、その他では“レビュー”としたが、JIS Q 14001:2004ではJIS Q 9001:2000に合わせ、すべて片仮名表記とした。

bb) shall(should):すること(するとよい)

 規格中では“shall”はすべて命令又は禁止の意味で使われており、JIS Z 8301に規定された用語によるが、JIS Q 9001:2000に合わせてすべて“すること”とした。“should”は推奨の用法となっているが、これもJIS Q 9001:2000に合わせて“するとよい”とした。

cc) training:教育訓練

 JIS Q 14001:1996では単純に“訓練”としたが、“training”には“teaching”が含まれており、この意を含めることが議論された。一方、JIS Q 9001:2000では“教育・訓練”となっているが、これでは完全に教育(education)と訓練(training)の結合に過ぎないことになる。結局、“teaching”を表現する適切な語が見つからなかったので、“教育訓練”という新しい熟語として表現することとした。

4. 適用範囲

 今回の規格改訂は、定期見直し及び改訂に関するISOルールに基づくものであると同時に、環境マネジメントシステムの実施や審査登録が非常に普及したことも大きく関連している。この規格は、組織が定めた適用範囲内の環境側面に適用されるわけであるが、この環境側面のとらえ方や組織の自主裁量に任される部分のとらえ方によっては、マネジメントによる効果は大いに異なってくる。96年版では、環境側面に関する記述及び自主裁量の範囲についての記述は、意識的に明確さを欠いていたかもしれない。改訂版では、関連部分が当初の意図を明確にして厳密な表現とされた部分が多い。したがって、この規格の使用又は適合性の評価に当たっては、次の二つの点に特に注意して頂きたい。

a) チェリーピッキング(いいとこ取り)の防止

 “活動、製品及びサービス”の表現は、当初の表現でも組織が抱える環境側面のすべての意図はあったが、“又は”の語で選択性を許してしまったところがある。

b) 自主裁量事項の明確化と決定

 “管理できる環境側面及び影響を及ぼすことができる環境側面”の後半部分が自主裁量事項に相当する。一般要求事項の中では、特にこのような部分に対して“組織はどのようにしてこれらの要求事項を満たすかを決定すること”として、どの範囲で管理するかの決定を要求している。この点をよく認識して頂きたい。自主裁量の範囲設定は、マネジメントシステムの実質効果と密接に関連する。したがって、効果を期待するならば、極力自主裁量の範囲を大きく取るということが言外に意図されていると考えるとよい。その適切性、妥当性及び有効性は組織によって異なってくるが、組織のトップマネジメントも、適合性の評価者も、ますます良識が問われることになる。

 もう1点、今回の改訂の原則であったISO 9001との両立性についていえば、マネジメントシステムの効率化及び合理的な運用のためには品質と環境マネジメントシステムの統合的な運用が重要であるが、改訂版はその意味でも使いやすくなっているはずである。

5. 規定項目の内容

5.1 用語及び定義(本体の3.)

 改訂では、従来からある13の用語について定義の内容の検討を行った。特に、ISO 9000:2000と共通の用語については、整合を図ることを中心に若干の変更を行っている。この他に、ISO 9000:2000からシステムの基本にかかわる用語としては“文書”、“記録”、”手順”及び“監査員”の4語を、不適合に関する用語としては“不適合”、“是正処置”及び“予防処置”の3語の、合計7語を引用した。引用の程度には3種類があり、完全な引用、一部引用(ISO 9000:2000の定義から参考を削除)、及び定義文の一部変更の形で引用した。特記すべき項目を、次に挙げる。

a) 内部監査(本体の3.14)

 96年版では“環境マネジメントシステム監査”であったが、(本体の)4.5.5のタイトルに合わせて“内部監査”とした。定義文の基本形はISO 9000:2000の3.9.1(ISO 19011:2002の3.1)であるが、内部及び環境マネジメントシステム監査の意味を表すために、これらの定義文の冒頭に“組織が定めた環境マネジメントシステム”が加えられている。

b) 不適合(本体の3.15)

 ISO 9000:2000からの引用で“要求事項を満たしていないこと”とされているが、ISO 9000:2000のように“要求事項”の定義はない。ISO 9000:2000の“要求事項”の定義には、“暗黙のうちに了解されている”とか“義務として要求されているニーズ”とかといった、極めて漠然とした表現が入っており、これを引用することはかえって混乱を呼ぶことになる。ここでの“要求事項”は広義の意味と解釈するのが妥当であり、規格の要求事項に加えて、法的要求事項、組織が規格に適合するために定めた要求事項などはすべて包含される。

5.2 一般要求事項(本体の4.1)

 次の二つの点が注目される。

a) どのようにしてこれらの要求事項を満たすかを決定すること

 規格の要求事項を満たした環境マネジメントシステムには様々な形があり得る。そのように組織が独自にシステムの要求事項を決めなければならないことをいっている。特に組織の裁量に任された部分を明確にしておくことを要求しており、多くの要素が関連する。

b) 適用範囲の決定

 附属書Aでは“組織の境界を定めること”と書かれているが、組織とは、サイト、要員、機能などによって規定されるので、これらの境界を定める必要がある。また、環境側面の特定範囲に関しては“適用範囲”又は“環境側面”の項で制約を受けているので、ここでいう“適用範囲”と適用を受ける“側面”の範囲とを混同することのないよう注意を要する。特に、“影響を及ぼすことができる環境側面”が上記適用範囲で定めたサイトの外に及ぶことは幾らでもある。

5.3 環境方針(本体の4.2)

 96年版のe)には二つのことが含まれていたのでe)とf)の二つに分けられた。このうちf)では、環境方針を周知すべき要員の範囲(要員の適用範囲)が示されている。改訂JISでは、従来の“従業員”を“組織で働く又は組織のために働くすべての人”としたが、この部分は解説を要する。改訂審議の意図及び原文からすると、前半はいわゆる“組織に所属して働く人”を示し、従業員も経営者もすべて含まれる。後半部は“組織に所属する人もそうでない人も含めて組織で働く人”を指す。この両者を“又は”で結んでいるのは、前半だけで十分な組織もあれば、後半の表現が該当する組織もあるからである。いずれにしても、96年版よりも方針周知の範囲は拡大されているが、附属書Aでは拡大された範囲、(例えば、請負者として組織内で働く人)への周知方法としては簡略化されてもよいことが示されている。

5.4 環境側面(本体の4.3.1)

 環境側面の項では、特に組織が特定すべき環境側面の範囲に関する記述が厳密に表現されており、関連する参考情報も附属書Aに追加されている。

a) 活動、製品及びサービス

 96年版で“活動、製品又はサービス”とあったために、“又は”に選択性があることを理由として一部の側面を省略することが行われた。これはもちろん、当初の意図に沿わないので、“及び”となったのである。定めた適用範囲の中で関連のある限り、すべての活動、製品及びサービスが特定の対象となる。この際特に活動とサービス、又は製品とサービスなどの境界を問題にすることがあるが、それらの境界の設定は組織が決めればよいことで、類似の側面をある組織では活動ととらえ、別の組織ではサービスととらえることがあっても差し支えない。要は脱落がなければよいのである。また、(本体の)3.6の定義では“活動又は製品又はサービス”と書かれているが、環境側面を定義付けるための表現であることをご理解頂きたい。

b) 管理できる環境側面、影響を及ぼすことができる環境側面

 96年版では、“管理でき、かつ、影響が生じると思われる”と書かれていた。これも後半部が前半部に包含されて一つの範囲のような解釈があって、当初の意図と異なるので、上記のような表現として2種類の範囲を表すことを明確にした。“管理できる〜”方は客観的な理解が容易であるが、“影響を及ぼすことができる〜”方はやや解説を要するということで、附属書Aには例示のリストを含む説明がなされている。この中には、組織が提供する製品及びサービスの側面と共に組織が使用する物品(製品)及びサービスも含まれており、従来あまり取り上げられていなかった“組織が使用する物品及びサービス”の環境側面の特定に注目して頂きたい。

5.5 法的及びその他の要求事項(本体の4.3.2)

 本体の4.3.2と4.5.2の二つの項に記述された要求事項から、改訂版では法的及びその他の要求事項に対する手順及び順法評価の強化が求められていることが分かる。

a) 環境側面への適用の決定

 本体の4.3.2b)として、“これらの要求事項を組織の環境側面にどのように適用するかを決定する”手順の要求が追加された。これは従来からあったa)の記述“法的及びその他の要求事項”を特定することを補足するもので、“法的及びその他の要求事項”の具体的な内容が、組織のどの環境側面に適用されるのかを明らかにすることを要求したものである。

b) システムを確立、実施、維持するうえで考慮に入れる

 改訂版の新しい記述(本体の4.3.2)で“組織はその環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持するうえでこれらの適用可能な法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を確実に考慮に入れること”と要求している。前の項の“著しい環境側面”においても全く同様な要求が記されている。96年版の環境側面の項では、著しい環境側面は環境目的を設定する際に確実に配慮するように求められていた。他の要素に関する要求からも読み取れるように、著しい環境側面は関連する各要素に考慮に入れる必要があったので、このような記述に改められると同時に、“法的及びその他おの要求事項”についても同様な記述がなされることになったのである。“配慮”及び“考慮”の訳語については、この解説の3.2j)を参照されたい。

5.6 目的、目標及び実施計画(本体の4.3.3)

 96年版の4.3.4(環境マネジメントプログラム)は目的、目標を達成するための“programme(s)”を要求していただけであったので、改訂ではこれを合体して一つの項にまとめた。訳語もこの主旨に合わせて“実施計画”とした。目的、目標はできるだけ測定可能な形で設定するのが望ましい。目的、目標の後半の要求で、法的要求事項及び著しい環境側面に関しては“考慮に入れること”とされ、技術上の選択肢、その他については“考慮すること”とされており、要求を満たすための対応の差に苦慮されるかもしれないが、前2点と後3点では、要求事項としての重要さに差があると考えて頂ければよい。

5.7 管理責任者の役割(本体の4.4.1)

 特定の管理責任者の役割としてb)に“改善のための提案を含めて”システムのパフォーマンスをトップマネジメントに報告することが要求されている。96年版では、“改善の基礎として”報告することが求められていた。また、この部分はISO 9001:2000では“改善の必要性の有無”とだけ記されているが、マネジメントレビューのインプットとしては“改善のための提案”とされているので、これに合わせてこの表現を採用したものである。

5.8 力量、教育訓練及び自覚(本体の4.4.2)

 改訂で記述の順序を変えたのは、ISO 9001:2000の考え方に合わせた(ただし、ISO 9001:2000の6.2.2のタイトルの順序は違っている)ことによる。96年版では明らかに3種類の役割の要員に対するニーズとして書かれていたが、改訂版では特殊な階層に求められる力量、すべての人に求められる自覚、及びこれらのために実施される教育訓練のニーズとして記述されている。自覚の求められるすべての人の表現は、方針を周知する要員と同じ表現がとられている。教育訓練のニーズを特定する範囲は、力量及び自覚に合わせて拡大された記述になっていることに留意して頂きたい。

5.9 文書類及び記録並びにその管理(本体の4.4.4、4.4.5及び4.5.4)

 “記録”の定義(3.20)から分かるように記録も文書の一種であることが明らかにされた。ただし、それぞれの管理を求める項はISO 9001:2000とは異なり、(本体の)4.5と4.4に分かれている。文書及び記録に関する要求事項は96年版と大きく変わるところはない。96年版では“記録は、システム及び組織に応じて、この規格への適合を示すために維持されなければならない”とやや分かりにくい表現であった部分を、“組織は、組織の環境マネジメントシステム及びこの規格の要求事項への適合並びに達成した結果を実証するのに必要な記録を作成し、維持すること”と厳密な形に書き改めた。要素ごとの記録の要求は限定され、その他の部分は組織の裁量に任されたが、どの範囲で記録を残せば要求にある“実証”を示せるかについては、組織が考慮する必要がある。関連して、今回の改訂において96年版で“文書化”とされていた記述を“記録”と改めたり、その反対に“記録”と記述された部分を“文書化”と書き換えたりした部分があり、単純に表現を正した部分もあるが、そうでない部分もあるので注意を要する。

5.10 運用管理(本体の4.4.6)

 運用管理の項の要求に関する書き方が変わったわけではないが、本体の4.5.1の変更に伴って、“文書化された手順”の要求されるのはこの項だけとなった。従来と変わることはないが、手順のうちどれを文書化すべきかの判断については、附属書A.4.4に手順を文書化する際の判断基準が新たに記載されたので参考にするとよい。

5.11 順守評価(本体の4.5.2)

 順守評価の項だけは、4けたの項番を取って二つに分けて書かれている。“compliance”の語を(本体の)4.5.2.2の記述には使いたくないという主張に基づいて取られた措置であるが、結果的には同じ語が使われている。(本体の)4.5.2.2では、96年版で要求されていなかった“組織が同意するその他の要求事項”の(定期的な)順守評価が求められている。ここで(定期的な)と括弧“( )”を付けたのは、ISO 14001の原文にもJIS Q 14001にも“定期的に”の誤はないが、続く一文では“組織は、定期的な評価の記録を残すこと。”と書かれているので、上の説明文ではあえて入れたのである。これは規格作成時の脱落と考えられる。また、(本体の)4.5.2.2で求められる評価手順について、規格の本文とも思えない“may wish to”で書かれた文章があり、この手順は(本体の)4.5.2.1の手順とは別の(簡単にした)手順でもよいと書かれているが、これはISOの審議における合意を得るための妥協によるものである。

5.12 不適合並びに是正処置及び予防処置(本体の4.5.3)

 改訂の審議事項中最も時間をかけただけあって、非常に理解しにくかった96年版の記述が良く整理された要求となっている。解説は要しないと思うが、簡単に内容について述べておく。a)、b)及びc)では、不適合に対して取るべき三つの処置を示している。すなわち、a)は発生した不適合の応急処置(修正)で必要に応じて環境影響の緩和も含まれる。b)は原因の除去及び再発防止のための是正処置、c)は潜在的な不適合に対する予防処置を示している。さらに、c)はまだ不適合には至っていないが傾向分析などから予測される事項に対する未然防止の観点からの予防処置も含まれる。また、d)及びe)項では、ISO 9001に合わせて取られた是正処置及び予防処置の記録及び有効性のレビューを述べている。

5.13 内部監査(本体の4.5.5)

 ISO 9001:2000の記述に合わせて監査の客観性、公平性(及び独立性)に関する要求が本文中に盛り込まれた。最後の一文“監査員の選定及び監査の実施においては、監査プロセスの客観性及び公平性を確保すること”がそうである。ISO 9001:2000ではこの後に、さらに、“監査員は自らの仕事は監査しないこと”と続けられているが、この一文の引用は改訂の審議で認められなかった。これを受けて代案として引用されたのが、本体3.14の参考及び附属書のA.5.5の第3文として入れられたISO 19011:2002の3.1のNOTEの記述である。全文を次に記述する。“多くの場合、特に中小規模の組織の場合は、独立性は、監査の対象となる活動に関する責任を負っていないことで実証することができる。”

5.14 マネジメントレビュー(本体の4.6)

 マネジメントレビューの項もISO 9001:2000に合わせて一般、インプット、アウトプットの順に整理して記述された。インプットはISO 9001:2000に倣って8項目上げられたが、96年版で伺えるのは“内部監査の結果”及び“変化している周囲の状況”くらいである。インプット項目として“組織の環境パフォーマンス”と環境パフォーマンスの語が要求事項の本文に登場するのは始めてである。アウトプットとして“あらゆる決定及び処置を含むこと”としたのはISO 9001:2000に合わせた結果であるが、96年版との相違に注目して頂きたい。

5.15 附属書A

a) 位置づけ

 附属書AのA.1の冒頭には、“この情報は要求事項と対応し整合しているが、その要求事項に対して追加したり、削除したり、何らかの変更を行うことも意図していない”とある。

b) 内容について

 審議中の削除論とは反対に、記述の量は増えている。96年版に比べると例示のリストが多いが、その記述には、“should”、“can”、“may”などの助動詞が使われており、微妙な使い分けがなされている。この点については、この解説の3.2の中で使用した訳語の説明をしており、十分に注意をしたが日本語の特徴もあり、若干の混乱があるかもしれない。

6. 懸案事項

 今回の改訂においては、改訂の主目的であった要求の明確化は大いに改善が進んだと思う。しかし、次の点は懸案事項として残されている。

a) ISO 9001との両立性改善

 今回の改訂により、もう一つの目的であったISO 9001との整合性も相当に改善が進んだと思う。しかし、まだまだ整合の不十分な点は残されている。規格の構成は依然として異なっており、細かい点一つを取ってみても“記録の管理”のシステム要素としての位置付けは、ISO 9001では“Do”の一要素に、ISO 14001では“Check”の一要素にされている。また、用語の数は著しく異なるし、共通用語の定義にも相違が残されている。考え方の相違は随所に見られるが、例えば、“有効性”のとらえ方、“マニュアル”、“製品”、“目的”、“供給者”などの表現、“監査員の独立性”に関する要求などが挙げられるが、これらは次期改訂への懸案事項である。

b) 要求内容に関する検討

 今回の改訂では要求事項の新規化及び追加はないとしている。しかし、環境問題をめぐる社会情勢は刻々と変化をしている。改訂版発行までに8年、さらに次期改訂版発行までに8年を要するとすれば、都合16年間は同じ要求事項で過ごすことになる。これでよいのかという問題が残る。改訂作業着手に当たって各国から出された改訂提案の中には、この問題に関連する有用な提案も含まれており、今回の改訂ではこのような提案は次回改訂時の参考のため残しておくこととなっている。これも重要な懸案事項である。

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