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◆ JIS Q 9001 品質マネジメントシステム−要求事項

0. 序文

0.1 一般

 この規格は、2000年に発行されたISO9001(Quality management system-Requirements)を翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
 ”参考”と記載されている情報は、関連する要求事項の内容を理解するための、または明確にするための手引である。
 なお、この規格で点線の下線を施してある箇所は、原国際規格にはない事項である。
 これまでにJIS Z 9902(品質システム−製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル)及びJIS Z 9903(品質システム−最終検査・試験における品質保証モデル)を使ってきた組織は、この規格の1.2の記述に従って、規格の要求事項の一部を除外することによって、この規格を使うことができる。
 この規格の表題は変更され、もはや品質保証という言葉を含んではいない。このことは、この規格で規定された品質マネジメントシステム要求事項は、製品の品質保証に加えて、顧客満足の向上をも目指そうとしていることを反映している。
 この規格の附属書A及び付属書Bは、単に参考情報である。
 品質マネジメントシステムを採用することは、組織による戦略上の決定とすべきである。組織における品質マネジメントシステムの設計及び実現は、変化するニーズ、固有の目標、提供する製品、用いられているプロセス、組織の規模及び構造によって影響を受ける。品質マネジメントシステムの構造の均一化または文書の画一化が、この規格の意図ではない。
 この規格が規定する品質マネジメントシステムについての要求事項は、製品に対する要求事項を補完するものである。
 この規格は、顧客要求事項、規制要求事項及び組織固有の要求事項を満たす組織の能力を、組織自身が内部で評価するためにも、審査登録機関を含む外部機関が評価するためにも使用することができる。
 この規格は、JIS Q 9000(品質マネジメントシステム−基本及び用語)及びJIS Q 9004(品質マネジメントシステム−パフォーマンス改善の指針)に記載されている品質マネジメントの原則を考慮に入れて作成した。

0.2 プロセスアプローチ

 この規格は、顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために、品質マネジメントシステムを構築し、実施し、その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際にプロセスアプローチを採用することを奨励している。
 組織が効果的に機能するためには、数多くの関連し合う活動を明確にし、運営管理する必要がある。インプットをアウトプットに変換することを可能にするために資源を使って運営管理される活動は、プロセスとみなすことができる。1つのプロセスのアウトプットは、多くの場合、次のプロセスへの直接のインプットとなる。
 組織内において、プロセスを明確にし、その相互関係を把握し、運営管理することとあわせて、一連のプロセスをシステムとして適用することを、”プロセスアプローチ”と呼ぶ。
 プロセスアプローチの利点の1つは、プロセスの組合せ及びそれらの相互関係とともに、システムにおける個別のプロセス間のつながりについても、システムとして運用している間に管理できることである。
 品質マネジメントシステムで、このアプローチを使用するときには、次の事項の重要性が強調される。

a) 要求事項を理解し、満足させる
b) 付加価値の点でプロセスを考慮する必要性
c) プロセスの実施状況及び有効性の成果を得る
d) 客観的な測定結果に基づくプロセスの継続的改善

 図1(略)に示すプロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデルは、4.〜8.に記述したプロセスのつながりを表したものである。この図は、インプットとしての要求事項を決定する上で顧客が重要な役割を担っていることを示している。顧客満足の監視においては、組織が顧客要求事項を満たしているか否かに関する顧客の受け止め方についての情報を評価することが必要となる。 図1(略)に示すモデルはこの規格の全ての要求事項を網羅しているが、詳細なレベルでのプロセスを示すものではない。

(参考)
”Plan−Do−Check−Action”(PDCA)として知られる方法論は、あらゆるプロセスに適用できる。PDCAを簡単に説明すると次のようになる。
【Plan】
顧客要求事項及び組織の方針に沿った結果を出すために、必要な目標及びプロセスを設定する。
【Do】
それらのプロセスを実行する。
【Check】
方針、目標、製品要求事項に照らしてプロセス及び製品を監視し、測定し、その結果を報告する。
【Action】
プロセスの実施状況を継続的に改善するための処置をとる。

0.3 JIS Q 9004との関係

 この規格とJIS Q 9004は、整合性のある一対の品質マネジメントシステム規格として開発されており、相互に補完し合うように作成されているが、独立して使用することもできる。この2つの規格は、適用範囲が異なるが、整合性のある一対として適用できるようにその構成を同じにしている。
 この規格は、品質マネジメントシステムに関する要求事項を規定している。これらの要求事項は組織が内部で適用するため、審査登録のためまたは契約のために用いることができる。この規格は、顧客要求事項を満たすに当たっての品質マネジメントシステムの有効性に焦点を合わせている。
 JIS Q 9004は、この規格よりも広い範囲の品質マネジメントシステムの目標についての手引であり、有効性はもとより、組織の全体としてのパフォーマンスと効率との継続的な改善のための手引を提供している。JIS Q 9004は、トップマネジメントが、この規格(JIS Q 9001)で規定する要求事項の範囲を超えて、組織の実施状況の継続的な改善を目指そうとする場合の手引として推奨される。 しかしながら、JIS Q 9004は、審査登録または契約のために使用することを意図したものではない。

0.4 他のマネジメントシステムとの両立性

 この規格は、規格利用者の便宜のため、JIS Q 14001(環境マネジメントシステム−仕様及び利用の手引)と両立するように構成されている。
 この規格には、環境マネジメント、労働安全衛生マネジメント、財務マネジメント、リスクマネジメントなどの他のマネジメントシステムに固有な要求事項は含まれていない。しかしながら、この規格は、組織が品質マネジメントシステムを、関連するマネジメントシステム要求事項にあわせたり、統合したりできるようにしている。組織がこの規格の要求事項に適合した品質マネジメントシステムを構築するに当たって、既存のマネジメントシステムを適応させることも可能である。

1. 適用範囲

1.1 一般

 この規格は、次の2つの事項に該当する組織に対して、品質マネジメントシステムに関する要求事項を規定するものである。

a) 顧客要求事項及び適用される規制要求事項を満たした製品を一貫して提供する能力を持つことを実証する必要がある場合。
b) 品質マネジメントシステムの継続的改善のプロセスを含むシステムの効果的な適用、並びに顧客要求事項及び適用される規制要求事項への適合の保証を通して、顧客満足の向上を目指す場合。

(参考)
この規格では、”製品”という用語は、顧客向けに意図された製品または顧客が要求した製品に限られて使われる。

(備考)
この規格の対応国際規格を、次に示す。
 なお、対応の程度を表す記号は、ISO/IEC Guide 21に基づき、IDT(一致している)、MOD(修正している)、NEQ(同等でない)とする。

1.2 適用

 この規格の要求事項は汎用性があり、業種及び形態、規模、並びに提供する製品を問わず、あらゆる組織に適用できることを意図している。
 組織やその製品の性質によって、この規格の要求事項のいずれかが適用不可能な場合には、その要求事項の除外を考慮してもよい。
 このような除外を行なう場合、除外できる要求事項は7.に規定する要求事項に限定される。除外を行うことが、顧客の要求事項及び適用される規制要求事項を満たす製品を提供するという組織の能力、または責任に何らかの影響を及ぼすものであるならば、この規格への適合の宣言は受け入れられない。

2. 引用規格

 次に掲げる規格は、この規格に引用されることによって、この規格の規定の一部を構成する。この引用規格は、記載の年の版だけがこの規格の規定を構成するものであって、その後の改正版・追補には適用しない。
 JIS Q 9000:2000 品質マネジメントシステム−基本及び用語

(備考)
ISO 9000:2000、Quality management system−Fundamentals and vocabularyがこの規格と一致している。

3. 定義

 この規格には、JIS Q 9000に規定されている定義を適用する。
 この規格では、製品の取引における当事者の名称を次のように変更した。

供給者 ⇒ 組織 ⇒ 顧客

 これまで使われていた”供給者”は”組織”に置き換えられる。”組織”とは、この規格が適用される単位を示す。同様に、”下請負契約者”は”供給者”に置き換えられる。
 この規格の全体にわたって、”製品”という用語が使われた場合には、”サービス”のこともあわせて意味する。

4. 品質マネジメントシステム

4.1 一般要求事項

 組織は、この規格の要求事項に従って、品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、かつ、維持すること。また、その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善すること。
 組織は、次の事項を実施すること。

a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織への適用を明確にする。
b) これらのプロセスの順序及び相互関係を明確にする。
c) これらのプロセスの運用及び管理のいずれもが効果的であることを確実にするために必要な判断基準及び方法を明確にする。
d) これらのプロセスの運用及び監視の支援をするために必要な資源及び情報を利用できることを確実にする。
e) これらのプロセスを監視、測定及び分析する。
f) これらのプロセスについて、計画どおりの結果が得られるように、かつ、継続的改善を達成するために必要な処置をとる。

 組織は、これらのプロセスを、この規格の要求事項に従って運営管理すること。
 要求事項に対する製品の適合性に影響を与えるプロセスをアウトソースすることを組織が決めた場合には、組織はアウトソースしたプロセスに関して管理を確実にすること。アウトソースしたプロセスの管理について、組織の品質マネジメントシステムの中で明確にすること。

(参考1.)
品質マネジメントシステムに必要となるプロセスには、運営管理活動、資源の提供、製品実現及び測定にかかわるプロセスが含まれる。

(参考2.)
ここでいう、”アウトソース”とは、あるプロセス及びその管理を外部委託することである。”アウトソースしたプロセスを確実にする”とは、外部委託したプロセスが正しく管理されていることを確実にすることである。

4.2 文書化に関する要求事項

4.2.1 一般

 品質マネジメントシステムの文書には、次の事項を含めること。

a) 文書化した、品質方針及び品質目標の表明
b) 品質マニュアル
c) この規格が要求する”文書化された手順”
d) 組織内のプロセスの効果的な計画、運用及び管理を確実に実施するために、組織が必要と判断した文書
e) この規格が要求する記録

(参考1.)
この規格で”文書化された手順”という用語を使う場合には、その手順が確立され、文書化され、実施され、かつ、維持されていることを意味する。

(参考2.)
品質マネジメントシステムの文書化の程度は、次の理由から組織によって異なることがある。

a) 組織の規模及び活動の種類
b) プロセス及びそれらの相互関係の複雑さ
c) 要員の力量

(参考3.)
文書の様式及び媒体の種類はどのようなものでもよい。

4.2.2 品質マニュアル

 組織は、次の事項を含む品質マニュアルを作成し、維持すること。

a) 品質マネジメントシステムの適用範囲。除外がある場合には、その詳細と正当とする理由。
b) 品質マネジメントシステムについて確立された”文書化された手順”またはそれらを参照できる情報
c) 品質マネジメントシステムのプロセス間の相互関係に関する記述

4.2.3 文書管理

 品質マネジメントシステムで必要とされる文書は管理すること。ただし、記録は文書の一種ではあるが、4.2.4に規定する要求事項に従って管理すること。
 次の活動に必要な管理を規定する”文書化された手順”を確立すること。

a) 発行前に、適切かどうかの観点から文書を承認する。
b) 文書をレビューする。また、必要に応じて更新し、再承認する。
c) 文書の変更の識別及び現在の改訂版の識別を確実にする。
d) 該当する文書の適切な版が、必要なときに、必要なところで使用可能な状態にあることを確実にする。
e) 文書が読みやすく、容易に識別可能な状態であることを確実にする。
f) どれが外部で作成された文書であるかを明確にし、その配付が管理されていることを確実にする。
g) 廃止文書が誤って使用されないようにする。また、これらを何らかの目的で保持する場合には、適切な識別をする。

4.2.4 記録の管理

 記録は、要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの効果的運用の証拠を示すために、作成し、維持すること。記録は、読みやすく、容易に識別可能で、検索可能であること。記録の識別、保管、保護、検索、保管期間及び廃棄に関して必要な管理を規定するために、”文書化された手順”を確立すること。

5. 経営者の責任

5.1 経営者のコミットメント

 トップマネジメントは、品質マネジメントシステムの構築及び実施、並びにその有効性を継続的に改善することに対するコミットメントの証拠を次の事項によって示すこと。

a) 法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして、顧客要求事項を満たすことの重要性を組織内に周知する。
b) 品質方針を設定する。
c) 品質目標が設定されることを確実にする。
d) マネジメントレビューを実施する。
e) 資源が使用できることを確実にする。

5.2 顧客重視

 顧客満足の向上を目指して、トップマネジメントは、顧客要求事項が決定され、満たされていることを確実にすること(7.2.1及び8.2.1参照)。

5.3 品質方針

 トップマネジメントは、品質方針について次の事項を確実にすること。

a) 組織の目的に対して適切である。
b) 要求事項への適合及び品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善に対するコミットメントを含む。
c) 品質目標の設定及びレビューのための枠組みを与える。
d) 組織全体に伝達され、理解される。
e) 適切性の持続のためにレビューする。

5.4 計画

5.4.1 品質目標

 トップマネジメントは、組織内のそれぞれの部門及び階層で品質目標が設定されていることを確実にすること。その品質目標には、製品要求事項[7.1.a)参照]を満たすために必要なものがあれば含めること。品質目標は、その達成度が判定可能で、品質方針との整合性がとれていること。

5.4.2 品質マネジメントシステムの計画

 トップマネジメントは、次の事項を確実にすること。

a) 品質目標及び4.1に規定する要求事項を満たすために、品質マネジメントシステムの計画が策定される。
b) 品質マネジメントシステムの変更が計画され、実施される場合には、品質マネジメントシステムが”完全に整っている状態”(integrity)を維持している。

5.5 責任、権限及びコミュニケーション

5.5.1 責任及び権限

 トップマネジメントは、責任及び権限が定められ、組織全体に周知されていることを確実にすること。

5.5.2 管理責任者

 トップマネジメントは、管理層の中から管理責任者を任命すること。管理責任者は与えられている他の責任とかかわりなく次に示す責任及び権限を持つこと。

a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセスの確立、実施及び維持を確実にする。
b) 品質マネジメントシステムの実施状況及び改善の必要性の有無についてトップマネジメントに報告する。
c) 組織全体にわたって、顧客要求事項に対する認識を高めることを確実にする。

(参考1.)
管理責任者の責任には、品質マネジメントシステムに関する事項について外部と連絡をとることも含めることができる。

(参考2.)
管理責任者は、上記の責任及び権限を持つ限り、1人である必要はない。

5.5.3 内部コミュニケーション

 トップマネジメントシステムは、組織内にコミュニケーションのための適切なプロセスが確立されることを確実にすること。また、品質マネジメントシステムの有効性に関しての情報交換が行われることを確実にすること。

5.6 マネジメントレビュー

5.6.1 一般

 トップマネジメントは、組織の品質マネジメントシステムが、引き続き適切で、妥当で、かつ、有効であることを確実にするために、あらかじめ定められた間隔で品質マネジメントシステムをレビューすること。 このレビューでは、品質マネジメントシステムの改善の機会の評価、品質方針及び品質目標を含む品質マネジメントシステムの変更の必要性の評価も行うこと。
 マネジメントレビューの結果の記録は維持すること(4.2.4参照)。

5.6.2 マネジメントレビューへのインプット

 マネジメントレビューへのインプットには次の情報を含むこと。

a) 監査の結果
b) 顧客からのフィードバック
c) プロセスの実施状況及び製品の適合性
d) 予防処置及び是正処置の状況
e) 前回までのマネジメントレビューの結果に対するフォローアップ
f) 品質マネジメントシステムに影響を及ぼす可能性のある変更
g) 改善のための提案

5.6.3 マネジメントレビューからのアウトプット

 マネジメントレビューからのアウトプットには、次の事項に関する決定及び処置を含むこと。

a) 品質マネジメントシステム及びそのプロセスの有効性の改善
b) 顧客要求事項への適合に必要な製品の改善
c) 資源の必要性

6. 資源の運用管理

6.1 資源の提供

 組織は、次の事項に必要な資源を明確にし、提供すること。

a) 品質マネジメントシステムを実施し、維持する。また、その有効性を継続的に改善する。
b) 顧客満足を、顧客要求事項を満たすことによって向上する。

6.2 人的資源

6.2.1 一般

 製品品質に影響がある仕事に従事する要員は、関連する教育、訓練、技能及び経験を判断の根拠として力量があること。

6.2.2 力量、認識及び教育・訓練

 組織は、次の事項を実施すること。

a) 製品品質に影響がある仕事に従事する要員に必要な力量を明確にする。
b) 必要な力量が持てるように教育・訓練し、または他の処置をとる。
c) 教育・訓練または他の処置の有効性を評価する。
d) 組織の要員が、自らの活動の持つ意味と重要性を認識し、品質目標の達成に向けて自らどのように貢献できるかを認識することを確実にする。
e) 教育、訓練、技能及び経験について該当する記録を維持する(4.2.4参照)。

6.3 インフラストラクチャー

 組織は、製品要求事項への適合を達成する上で必要とされるインフラストラクチャーを明確にし、提供し、かつ、維持すること。インフラストラクチャーには次のようなものがある。

a) 建物、作業場所及び関連するユーティリティー(電気、ガス、水道など)
b) 設備(ハードウェアとソフトウェアとを含む。)
c) 支援業務(輸送、通信など)

(参考)
インフラストラクチャーとは、”<組織>組織の運営のために必要な一連の施設、設備及びサービスに関するシステム”を指す(JIS Q 9000の3.3.3参照)。

6.4 作業環境

 組織は、製品要求事項への適合を達成するために必要な作業環境を明確にし、運営管理すること。

7. 製品実現

7.1 製品実現の計画

 組織は、製品実現のために必要なプロセスを計画して、構築すること。製品実現の計画は、品質マネジメントシステムのその他のプロセスの要求事項と整合性が取れていること(4.1参照)。
 製品実現の計画に当たっては、組織は次の事項について該当するものを明確にすること。

a) 製品に対する品質目標及び要求事項
b) 製品に特有な、プロセス及び文書の確立の必要性、並びに資源の提供の必要性
c) その製品のための検証、妥当性確認、監視、検査及び試験活動、並びに製品合否判定基準
d) 製品実現のプロセス及びその結果としての製品が要求事項を満たしていることを実証するために必要な記録(4.2.4参照)

 この計画のアウトプットは、組織の計画の実行に適した様式であること。

(参考1.)
特定の製品、プロジェクトまたは契約に適用される品質マネジメントシステムのプロセス(製品実現のプロセスを含む。)及び資源を規定する文書を品質計画書と呼ぶことがある。

(参考2.)
組織は、製品実現のプロセスの構築に当たって7.3に規定する要求事項を適用しても良い。

7.2 顧客関連のプロセス

7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化

 組織は、次の事項を明確にすること。

a) 顧客が規定した要求事項。これには引き渡し及び引渡し後の活動に関する要求事項を含む。
b) 顧客が明示してはいないが、指定された用途または意図された用途が既知である場合、それらの用途に応じた要求事項
c) 製品に関連する法令・規制要求事項
d) 組織が必要と判断する追加要求事項

7.2.2 製品に関連する要求事項のレビュー

 組織は、製品に関連する要求事項をレビューすること。このレビューは、組織が顧客に製品を提供することについてのコミットメント(例 提案書の提出、契約または注文の受諾、契約または注文への変更の受諾)をする前に実施すること。レビューでは次の事項を確実にすること。

a) 製品要求事項が定められている。
b) 契約または注文の要求事項が以前に提示されたものと異なる場合には、それについて解決されている。
c) 組織が、定められた要求事項を満たす能力を持っている。

 このレビューの結果の記録及びそのレビューを受けてとられた処置の記録を維持すること(4.2.4参照)。
 顧客がその要求事項を書面で示さない場合には、組織は顧客要求事項を受諾する前に確認すること。
 製品要求事項が変更された場合には、組織は、関連する文書を修正すること。また、変更後の要求事項が関連する要員に理解されていることを確実にすること。

(参考)
インターネット販売などの状況では、個別の注文に対する正式なレビューの実施は非現実的である。このような場合のレビューでは、カタログや宣伝広告資料などの関連する製品情報をその対象とすることもできる。

7.2.3 顧客とのコミュニケーション

 組織は、次の事項に関して顧客とのコミュニケーションを図るための効果的な方法を明確にし、実施すること。

a)製品情報
b)引き合い、契約もしくは注文、またはそれらの変更
c)苦情を含む顧客からのフィードバック

7.3 設計・開発

7.3.1 設計・開発の計画

 組織は、製品の設計・開発の計画を策定し、管理すること。
 設計・開発の計画において、組織は次の事項を明確にすること。

a) 設計・開発の段階
b) 設計・開発の各段階に適したレビュー、検証及び妥当性確認
c) 設計・開発に関する責任及び権限

 組織は、効果的なコミュニケーションと責任の明確な割当てとを確実にするために、設計・開発に関与するグループ間のインタフェースを運営管理すること。
 設計・開発の進行に応じて、策定した計画を適宜更新すること。

7.3.2 設計・開発へのインプット

 製品要求事項に関連するインプットを明確にし、記録を維持すること(4.2.4参照)。インプットには次の事項を含めること。

a) 機能及び性能に関する要求事項
b) 適用される法令・規制要求事項
c) 適用可能な場合は、以前の類似した設計から得られた情報
d) 設計・開発に不可欠なその他の要求事項

 これらのインプットについては、その適切性をレビューすること。要求事項は、漏れがなく、あいまい(曖昧)ではなく、かつ、相反することがないこと。

7.3.3 設計・開発からのアウトプット

 設計・開発からのアウトプットは、設計・開発へのインプットと対比した検証ができるような様式で提示されること。また、次の段階に進める前に、承諾を受けること。
 設計・開発からのアウトプットは次の状態であること。

a) 設計・開発へのインプットで与えられた要求事項を満たす。
b) 購買、製造及びサービス提供に対して適切な情報を提供する。
c) 製品の合否判定基準を含むかまたはそれを参照している。
d) 安全な使用及び適正な使用に不可欠な製品の特性を明確にする。

7.3.4 設計・開発のレビュー

 設計・開発の適切な段階において、次の事項を目的として、計画されたとおりに(7.3.1参照)体系的なレビューを行なうこと。

a) 設計・開発の結果が要求事項を満たせるかどうかを評価する。
b) 問題を明確にし、必要な処置を提案する。

 レビューへの参加者として、レビューの対象となっている設計・開発段階に関連する部門の代表が含まれていること。このレビューの結果の記録及び必要な処置があればその記録を維持すること(4.2.4参照)。

7.3.5 設計・開発の検証

 設計・開発からのアウトプットが、設計・開発へのインプットで与えられている要求事項を満たしていることを確実にするために、計画されたとおりに(7.3.1参照)検証を実施すること。この検証の結果の記録及び必要な処置があればその記録を維持すること(4.2.4参照)。

7.3.6 設計・開発の妥当性確認

 結果として得られる製品が、指定された用途または意図された用途に応じた要求事項を満たし得ることを確実にするために、計画した方法(7.3.1参照)に従って、設計・開発の妥当性確認を実施すること。実行可能な場合にはいつでも、製品の引渡しまたは提供の前に、妥当性確認を完了すること。妥当性確認の結果の記録及び必要な処置があればその記録を維持すること(4.2.4参照)。

7.3.7 設計・開発の変更管理

 設計・開発の変更を明確にし、記録を維持すること。変更に対して、レビュー、検証及び妥当性確認を適宜行ない、その変更を実施する前に承認すること。設計・開発の変更のレビューには、その変更が、製品を構成する要素及び既に引き渡されている製品に及ぼす影響の評価を含めること。
 変更のレビューの結果の記録及び必要な処置があればその記録を維持すること(4.2.4参照)。

(参考)
”変更のレビュー”とは、変更に対して適宜行なわれたレビュー、検証及び妥当性確認のことである。

7.4 購買

7.4.1 購買プロセス

 組織は、規定された購買要求事項に、購買製品が適合することを確実にすること。供給者及び購買した製品に対する管理の方式と程度は、購買製品が、その後の製品実現のプロセスまたは最終製品に及ぼす影響に応じて定めること。
 組織は、供給者が組織の要求事項に従って製品を供給する能力を判断の根拠として、供給者を評価し、選定すること。選定、評価及び再評価の基準を定めること。評価の結果の記録及び評価によって必要とされた処置があればその記録を維持すること(4.2.4参照)。

7.4.2 購買情報

 購買情報では購買製品に関する情報を明確にし、必要な場合には、次の事項のうち該当する事項を含めること。

a) 製品、手順、プロセス及び設備の承認に関する要求事項
b) 要員の適格性確認に関する要求事項
c) 品質マネジメントシステムに関する要求事項

 組織は、供給者に伝達する前に、規定した購買要求事項が妥当であることを確実にすること。

7.4.3 購買製品の検証

 組織は、購買製品が、規定した購買要求事項を満たしていることを確実にするために、必要な検査またはその他の活動を定めて、実施すること。
 組織またはその顧客が、供給者先で検証を実施することにした場合には、組織は、その検証の要領及び購買製品のリリース(出荷許可)の方法を購買情報の中に明確にすること。

7.5 製造及びサービス提供

7.5.1 製造及びサービス提供の管理

 組織は、製造及びサービス提供を計画し、管理された状態で実行すること。管理された状態には、該当する次の状態を含むこと。

a) 製品の特性を述べた情報が利用できる。
b) 必要に応じて、作業手順が利用できる。
c) 適切な設備を使用している。
d) 監視機器及び測定機器が利用でき、使用している。
e) 規定された監視及び測定が実施されている。
f) リリース(次工程への引渡し)、顧客への引渡し及び引渡し後の活動が規定されたとおりに実施されている。

7.5.2 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認

 製造及びサービス提供の過程で結果として生じるアウトプットが、それ以降の監視または測定で検証することが不可能な場合には、組織は、その製造及びサービス提供の該当するプロセスの妥当性確認を行なうこと。 これらのプロセスには、製品が使用され、またはサービスが提供されてからでしか不具合が顕在化しないようなプロセスが含まれる。
 妥当性確認によって、これらのプロセスが計画どおりの結果を出せることを実証すること。
 組織は、これらのプロセスについて、次の事項のうち適用できるものを含んだ手続きを確立すること。

a) プロセスのレビュー及び承認のための明確な基準
b) 設備の承認及び要員の的確性確認
c) 所定の方法及び手順の適用
d) 記録に関する要求事項(4.2.4参照)
e) 妥当性の再確認

7.5.3 識別及びトレーサビリティ

 必要な場合には、組織は、製品実現の全過程において適切な手段で製品を識別すること。
 組織は、監視及び測定の要求事項に関連して、製品の状態を識別すること。
 トレーサビリティが要求事項となっている場合には、組織は、製品について固有の識別を管理し、記録すること(4.2.4参照)。

(参考)
ある産業分野では、構成管理が識別及びトレーサビリティを維持する手段である。

7.5.4 顧客の所有物

 組織は、顧客の所有物について、それが組織の管理下にある間、または組織がそれを使用している間は、注意を払うこと。組織は、使用するためまたは製品に組み込むために提供された顧客の所有物の識別、検証及び保護・防護を実施すること。 顧客の所有物を紛失、損傷した場合または使用には適さないと分かった場合には、顧客に報告し、記録を維持すること(4.2.4参照)。

(参考)
顧客の所有物には知的所有権も含まれる。

7.5.5 製品の保存

 組織は、内部処理から指定納入先への引渡しまでの間、製品を適合した状態のまま保存すること。この保存には、識別、取扱い、放送、保管及び保護を含めること。保存は、製品を構成する要素にも適用すること。

(備考)
内部処理とは、組織が運営管理している製品実現のプロセスにおける活動をいう。

7.6 監視機器及び測定機器の管理

 定められた要求事項に対する製品の適合性を実証するために、組織は、実施すべき監視及び測定を明確にすること。また、そのために必要な監視機器及び測定機器を明確にすること(7.2.1参照)。
 組織は、監視及び測定の要求事項との整合性を確保できる方法で監視及び測定が実施できることを確実にするプロセスを確立すること。
 測定値の正当性が保証されなければならない場合には、測定機器に関し、次の事項を満たすこと。

a) 定められた間隔または使用前に、国際または国家計量標準にトレース可能な計量標準に照らして校正または検証する。そのような標準が存在しない場合には、校正または検証に用いた基準を記録する。
b) 機器の調整をする、または必要に応じて再調整する。
c) 校正の状態が明確にできる識別をする。
d) 測定した結果が無効になるような操作ができないようにする。
e) 取扱い、保守、保管において、損傷及び劣化しないように保護する。

 さらに、測定機器が要求事項に適合していないことが判明した場合には、組織は、その測定機器でそれまでに測定した結果の妥当性を評価し、記録すること。組織は、その機器及び影響を受けた製品に対して、適切な処置をとること。校正及び検証の結果の記録を維持すること(4.2.4参照)。
 規定要求事項にかかわる監視及び測定にコンピュータソフトウェアを使う場合には、そのコンピュータソフトウェアによって意図した監視及び測定ができることを確認すること。この確認は、最初に使用するのに先立って実施すること。また、必要に応じて再確認すること。

(参考)
ISO 10012-1(Quality assurance requirements for measuring equipment-Part1:Metrological confirmation system for measuring equipment)及びISO 10012-2(Quality assurance for measuring equipment-Part2:Guidelines for control of measurement processes)を参照。

8. 測定、分析及び改善

8.1 一般

 組織は、次の事項のために必要となる監視、測定、分析及び改善のプロセスを計画し、実施すること。

a) 製品の適合性を実証する。
b) 品質マネジメントシステムの適合性を確実にする。
c) 品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善する。

 これには、統計的手法を含め、適用可能な方法、及びその使用の程度を決定することを含めること。

8.2 監視及び測定

8.2.1 顧客満足

 組織は、品質マネジメントシステムの成果を含む実施状況の測定の1つとして、顧客要求事項を満足しているかどうかに関して顧客がどのように受け止めているかについての情報を監視すること。この情報の入手及び使用の方法を決めること。

8.2.2 内部監査

 組織は、品質マネジメントシステムの次の事項が満たされているか否かを明確にするために、あらかじめ定められた間隔で内部監査を実施すること。

a) 品質マネジメントシステムが、個別製品の実現の計画(7.1参照)に適合しているか、この規格の要求事項に適合しているか、及び組織が決めた品質マネジメントシステム要求事項に適合しているか。
b) 品質マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されているか。

 組織は、監査の対象となるプロセス及び領域の状態と重要性、並びにこれまでの監査結果を考慮して、監査プログラムを策定すること。監査の基準、範囲、頻度及び方法を規定すること。監査員の選定及び監査の実施においては、監査プロセスの客観性及び公平性を確保すること。監査員は自らの仕事は監査しないこと。
 監査の計画及び実施、結果の報告、記録の維持(4.4.2参照)に関する責任、並びに要求事項を”文書化された手順”の中で規定すること。
 監査された領域に責任を持つ管理者は、発見された不適合及びその原因を除去するために遅滞なく処置がとられることを確実にすること。フォローアップには、とられた処置の検証及び検証結果の報告を含めること(8.5.2参照)。

(参考)
JIS Z 9911-1(品質システムの監査の指針−第1部:監査)、JIS Z 9911-2(品質システムの監査の指針−第2部:品質システム監査員の資格基準)及びJIS Z 9911-3(品質システムの監査の指針−第3部:監査プログラムの管理)を参照。

8.2.3 プロセスの監視及び測定

 組織は、品質マネジメントシステムのプロセスを適切な方法で監視し、適用可能な場合には、監視をすること。これらの方法は、プロセスが計画どおりの結果を達成する能力があることを実証するものであること。計画どおりの結果が達成できない場合には、製品の適合性の保証のために、適宜、修正及び是正処置をとること。

8.2.4 製品の監視及び測定

 組織は、製品要求事項が満たされていることを検証するために、製品の特性を監視し、測定すること。監視及び測定は、個別製品の実現の計画(7.1参照)に従って、製品実現の適切な段階で実施すること。
 合否判定基準への適合の証拠を維持すること。記録には、製品のリリース(次工程への引渡しまたは出荷)を正式に許可した人を明記すること(4.2.4参照)。
 個別製品の実現の計画(7.1参照)で決めたことが問題なく完了するまでは、製品のリリース(出荷)及びサービス提供は行わないこと。ただし、当該の権限を持つ者が承認したとき、及び該当する場合に顧客が承認したときは、この限りではない。

8.3 不適合製品の管理

 組織は、製品要求事項に適合しない製品が誤って使用されたり、または引き渡されることを防ぐために、それらを識別し、管理することを確実にすること。不適合製品の処理に関する管理及びそれに関連する責任及び権限を”文書化された手順”に規定すること。
 組織は、次のいずれかの方法で、不適合製品を処理すること。

a) 発見された不適合を除去するための処置をとる。
b) 当該の権限を持つ者、及び該当する場合に顧客が、特別採用によって、その使用、リリース(次工程への引渡し)もしくは出荷、または合格と判定することを正式に許可する。
c) 本来の意図された使用または適用ができないような処置をとる。

(参考)
 ”c)本来の意図された使用または適用ができないような処置をとる”とは”廃棄すること”を含む。
 不適合の性質の記録及び、不適合に対してとられた特別採用を含む処理の記録を維持すること(4.2.4参照)。
 不適合製品に修正を施した場合には、要求事項への適合性を実証するための再検証を行うこと。
 引渡し後または使用開始後に不適合製品が検出された場合には、組織は、その不適合による影響または起こりうる影響に対して適切な処置をとること。

8.4 データの分析

 組織は、品質マネジメントシステムの適切性及び有効性を実証するため、また、品質マネジメントシステムの有効性の継続的な改善の可能性を評価するために適切なデータを明確にし、それらのデータを収集し、分析すること。この中には、監視及び測定の結果から得られたデータ及びそれ以外の該当する情報源からのデータを含めること。
 データの分析によって、次の事項に関連する情報を提供すること。

a) 顧客満足(8.2.1参照)
b) 製品要求事項への適合性(7.2.1参照)
c) 予防処置の機会を得ることを含む、プロセスと製品の特性及び傾向
d) 供給者

8.5 改善

8.5.1 継続的改善

 組織は、品質方針、品質目標、監査結果、データの分析、是正処置、予防処置及びマネジメントレビューを通じて、品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善すること。

8.5.2 是正処置

 組織は、再発防止のため、不適合の原因を除去する処置をとること。是正処置は、発見された不適合の持つ影響に見合うものであること。
 次の事項に関する要求事項を規定するために”文書化された手順”を確立すること。

a) 不適合(顧客からの苦情を含む)の内容確認
b) 不適合の原因の特定
c) 不適合の再発防止を確実にするための処置の必要性の評価
d) 必要な処置の決定及び実施
e) とった処置の結果の記録(4.2.4参照)
f) 是正処置において実施した活動のレビュー

(参考)
f)における”是正処置において実施した活動”とは、a)〜e)の一連の活動のことである。

8.5.3 予防処置

 組織は、起こり得る不適合が発生することを防止するために、その原因を除去する処置を決めること。予防処置は、起こり得る問題の影響に見合ったものであること。
 次の事項に関する要求事項を規定するために”文書化された手順”を確立すること。

a) 起こり得る不適合及びその原因の特定
b) 不適合の発生を予防するための処置の必要性の評価
c) 必要な処置の決定及び実施
d) とった処置の結果の記録(4.2.4参照)
e) 予防処置において実施した活動のレビュー

(参考)
e)における”予防処置において実施した活動”とは、a)〜e)の一連の活動のことである。

品質マネジメントシステム−要求事項 解説

 この解説は、本体及び附属書に規定・記載した事柄、並びにこれらに関連した事柄を説明するもので、規格の一部ではない。
 この解説は、財団法人日本規格協会が編集・発行するものであり、この解説に関する問い合わせは財団法人日本規格教会にご連絡ください。

1. JIS Q 9000ファミリー制定の趣旨

 2000年12月にISO(国際標準化機構)から、ISO9000ファミリーの6つの規格ISO8402:1994(Quality management and quality assurance-Vocabulary)、ISO9000-1(Quality management and quality assurance atandards-Part1:Guidelines for selection and use)、ISO9001:1994(Quality systems-Model for quality assurance in design,development,production,installation and servicing)、ISO9002:1994(Quality systems-Model for quality assurance in production,installation and servicing)、ISO9003:1994(Quality systems-Model for quality assurance in final inspection and test)、及びISO9004-1:1994(Quality management and quality system elements-Part1:Guidelines)を改訂・再構成した3つの規格ISO9000:2000、ISO9001:2000及びISO9004:2000が発行された。 JIS Q 9000(品質マネジメントシステム−基本及び用語)、JIS Q 9001(品質マネジメントシステム−要求事項)及びJIS Q 9004(品質マネジメントシステム−パフォーマンス改善の指針)の3規格は、ISO9000、ISO9001及びISO9004の発行に伴ない、その技術的内容及び規格票の様式を変えることなく翻訳して、制定した日本工業規格である。
 ISO9000ファミリー規格は、1987年3月にISOによって発行された品質管理及び品質保証のための一連の国際規格である。ISO9000ファミリーは発行以来既に100か国以上で国家規格として採用されており、その普及には目をみはるものがある。また、現在50か国以上において、ISO9001/9002/9003に基づく品質システム審査登録制度が運営され、審査登録機関の相互認証なども相まって国際的な品質システムの審査登録制度が形成されている。
 我が国においても、ISO9000ファミリーは1991年にJIS Z 9900シリーズとして制定されて以来、その普及には目覚しいものがある。特に、組織における品質保証システムの構築、商取引における品質保証能力の実証、品質システム審査登録制度における基準、政府調達基準の1つとして採用するなど、JIS Z 9900シリーズが広く活用されており、企業活動に大きな影響を与えている。
 今回、1994年版のISO9000ファミリーの改訂が行なわれ、ISO9000、ISO9001及びISO9004として発行されたことに伴ない、我が国においても、このような動向に的確、かつ、迅速に対応するべく、JIS Q 9000、JIS Q 9001及びJIS Q 9004の3規格を、改訂されたISO9000ファミリーの完全一致規格として制定した。
 なお、5.に述べるように、審査登録(認証)制度の運営において、2000年版ISO9001の発行後、1994年版ISO9001が3年間有効であるという状況を踏まえてJIS Z 9900シリーズを3年間並存させることになった。これに伴ない、2000年版ISO9000ファミリーに対応するJISとして、新たにJIS Q 9000ファミリーを制定した。

2. ISO9000ファミリーの改訂

2.1 ISO9000ファミリーの改訂の方針

 ISO9000ファミリー規格は、1979年にISOに設置され翌年5月から活動を開始したISO/TC176(品質保証及び品質管理)において、検討が進められてきた。我が国では、1982年1月に日本工業標準調査会の委託を受けてISO/TC176国内対策委員会が財団法人日本規格協会内に設置され国際規格案の審議に参画してきた。その後、各国のコンセンサスを得て、1986年6月にISO8402、1987年3月にISO9000、ISO9001、ISO9002、ISO9003及びISO9004からなるISO9000ファミリー規格が発行された。
 ISOでは、5年ごとに規格の見直しを行なうことになっている。このルールに従って、1987年版が発行された3年後の1990年には早くも規格の改訂についての議論が始まっていた。ISO/TC176は、1990年の時点で、規格改訂の方針を次のように定めた。

− 改訂は2段階で行なう。
− 第1次改訂は1992年とし、必要最小限の改訂にとどめる。
− 第2次改訂は1996年とし、規格に対するニーズを十分に調査し抜本的な改訂を目指す。

 この方針に従って第1次改訂の検討が始まり、予定より2年ほど遅れて1994年7月に第1次改訂版が発行された。この改訂版の完全一致規格がJIS Z 9900シリーズである。
 今回のISO9000ファミリー規格の2000年改訂は、この第2次改訂と位置付けられており、当初の計画からは4年遅れたことになる。第2次改訂に関する本格的な議論は1992年ごろに始まり、その基本方針が次のように定められた。

− ISO9001とISO9004の規格の章構成を同じにする。
− あらゆる業種及び規模の組織に適用可能とする。
− 関連する規格(ISO9000、ISO9001及びISO9004)を同時発行する。

 今回のISO9000ファミリー規格の第2次改訂は、ISO9000ファミリー規格の急速な普及に伴ない、これまでのISO9000ファミリーでは必ずしも網羅されていなかった項目及びISO9001とISO9004との関係の明確化、さらには、ISO900ファミリー規格と同様に世界的に普及をしている環境マネジメントシステム規格[ISO14001(環境マネジメントシステム−使用及び利用の手引)]との両立性の向上など、多くの課題を達成しようとする大幅な改訂であった。
 特に、今回のISO9000ファミリー規格の改訂では、次の事項について大きな問題意識を持って検討が進められた。これらは、いずれも、1994年版ISO9000ファミリーに対する規格の利用者のニーズに応えるものでもあった。

a) ISO9001とISO9004との関係を明確にし、独立な2つの規格でありながらも、整合性を保って使えるようにする。そのために、両規格の構造(章構成)をを可能な限り同一とし、相違も明確にする。さらに、ISO9004については、審査登録(認証)を超えて組織のパフォーマンス改善を目指すような、ポストISO9001の品質マネジメントシステムモデルと位置付ける。
b) ISO9000ファミリー以外のマネジメントシステム規格、特に環境マネジメントシステム規格(ISO14001)との両立性には最大限の考慮を払う。
c) 1994年版ISO9000ファミリーが、大企業及び/または製造業(特に加工・組立業)を前提とした記述になっているとの指摘を受け、中小企業、サービス産業などのあらゆる規模及び業態の組織に適用することができるようにする。
d) ISO9000-1:1994に基本的考え方が記述されている”プロセスアプローチ”を全面的に取り入れ、これをベースに要求事項(ISO9001)及び推奨事項(ISO9004)を記述する。
e) ISO9000ファミリーに基づく品質システムを構築しても、結果としての製品品質が向上していない場合があるとの指摘を受け、”顧客満足”という観点から、システム要求事項及び推奨事項を記述する。
f) 品質マネジメントシステムの運営における”継続的改善”の重要性を考慮し、この概念を全面的に導入する。
g) ISO/TC176で作成した”品質マネジメントの原則”を品質マネジメントシステムの運営における原則(行動原理)と位置付け、これに基づく品質マネジメントシステムモデルを提示する。
h) 品質及び品質マネジメントに関わる概念体系の再整理を行ない、用語及び定義を全面的に見直す。

2.2 ISO9000ファミリー改訂規格の審議

 ISO9000ファミリーの改訂作業は、ISO9000についてはISO/TC176/SC1(概念及び用語)/WG1(ISO9000の規格作成)で、ISO9001及びISO9004については1997年に設置されたISO/TC176/SC2(品質システム)/WG18(QA-QMの整合の取れたペア規格の作成)で改訂作業が行なわれた。ISO9001及びISO9004の改訂作業を担当したISO/TC176/SC2/WG18は、ISO規格開発において初の試みであるプロジェクトマネジメント方式で作業が進められた。解説表1(省略)に、ISO/TC176/SC2/WG18会議及び関連する会議、並びに作業の過程で作成された作業文書及び規格案を示す。
 なお、解説表1(省略)の中のPOTGとは、”Planning and poerations Task Group”のことで、プロジェクトマネジメント方式で運営するためのISO/TC176/SC2/WG18の幹事会的性格を持ったグループである。

 ISO/TC176におけるISO9000ファミリー規格の改訂作業に対応するため、我が国では、財団法人日本規格協会内に設置された、ISO/TC176国内対策委員会(委員長:久米均 中央大学教授)が改訂作業に関する審議を担当し、また、解説表1(省略)に示した国際会議及び関連する国際会議への委員の派遣を行なった。

2.3 ISO9000ファミリー2000年版の構成

 ISO9000ファミリの2000年改訂は、ISO/TC176が作成してきたISO9000ファミリと呼ばれる20あまりの規格全体を見直し、規格の数を大幅に減らすという大事業の一環で進められてきた。ISO9000ファミリー2000年改訂の主要規格の構成を解説表2(省略)に示す。このうちISO19011(Guidelines on quality and/or environmental management systems auditing)は、ISO/TC176とISO/TC207(環境マネジメント)との合同作業部会が検討を進めている品質及び/または環境マネジメントシステム監査の指針である。

 解説表2(省略)の最初の3つの規格が今回発行された規格である。各規格の基本的性格は次のとおりである。

− ISO9000:2000 Quality management systems - Fundamentals and vocablary
 ISO8402:1994及びISO9000-1:1994の統合・改訂。品質マネジメントシステムの基本を説明し、関連する用語を定義する。
− ISO9001:2000 Quality management systems - Requirements
 ISO9001:1994、ISO9002:1994及びISO9003:1994の統合・改訂。組織が顧客要求事項及び適用される規制要求事項を満たした製品を提供する能力を持つことを実証することが必要な場合、並びに顧客満足の向上を目指す場合の、品質マネジメントシステムに関する要求事項を規定する。
− ISO9004:2000 Quality management systems - Guidelines for performance improvements
 ISO9004-1:1994の改訂。ISO9001で規定される要求事項を超えて、品質マネジメントシステムの有効性及び効率の双方を考慮して、その結果として組織のパフォーマンス改善のための可能性を考慮するための指針を提供する。ISO9001と比較すると、顧客満足及び製品品質の目標が拡大されており、利害関係者の満足及び組織のパフォーマンスを含んでいる。

2.4 ISO9000ファミリー2000年改訂版の特徴

 今回のISO9000ファミリー規格2000年改訂の特徴は次のとおりである。

a) コンシステントペア規格
 ISO9001とISO9004とを、それぞれ独立でありながら整合のある一対(Consistent pair)の品質マネジメントシステム規格と位置付け、各規格の性格の相違を明確にしつつ、両方とも使われることを意図し、章構成及び用語の整合を図っている。また、ISO9004の対応する箇所にISO9001の要求事項を枠組みで含み、ISO9001と同じ構造であり、かつ、その関係が明確に分かるようにしている。
 ISO9001は、1994年版が品質保証システムの要求事項であったことに対し、品質保証に加え、顧客満足、品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善を追加しており、その適用範囲を拡大している。ISO9004は、持続的な顧客満足、利害関係者の利益をとおして、組織のパフォーマンスの有効性及び効率の双方を継続的に改善することを狙いとする、ISO9001を超える品質マネジメントシステムのモデルを提示している。

b) 規格の構造(章構成)
 ISO9001及びISO9004は、1994年版の構造を大幅に変更している。ISO9001では、品質マネジメントシステムが、”経営者の責任”、”資源の運用管理”、”製品実現”及び”測定、分析及び改善”の4つの主要プロセスから構成されるとして、この4つの部分からなる構造に再構成している。

c) あらゆる業種及び規模への適用可能性の向上
 1994年版ISO9000ファミリー規格に対する、大規模な製造業向けの規格という根強い批判を強く意識して、あらゆる業種及び規模の組織にも適用できるような記述に努めている。サービス業やソフトウェアを意識した用語の選択、各プロセスに対する要求事項の一般的記述、文書化要求事項の大幅削減などを図っている。

d) ISO9001への一本化
 整合性のある一対の規格(コンシステントペア規格)として構成するに当たって、ISO9001は、1994年版のISO9001〜9003を1つに統合した。1つの規格で多様な組織をカバーしようとするために、規格の適用に当たっての柔軟性の確保が必要であり、このために”Application(適用)”という考え方を導入した。この規定はISO9001の1.2(Application)に記述されており、状況によってISO9001の一部を要求事項から除外してもよいというルールである。

e) 品質マネジメントシステムに関わる基本的概念及び定義の大幅な見直し

f) ISO14001との両立性の向上
 品質と環境とは、対象は異なるが同じマネジメントシステム規格であること、並びに品質、環境及びその他のマネジメントは1つのマネジメントシステムで運営されることを考慮した。特に、ISO14001との両立性(双方を同時に適用しようとするときに問題が生じないこと)に多大な配慮を払っている。例えば、規格の表題の対応[ISO9001(Quality management systems - Requiremetns)、ISO14001(Environmental management systems - Specification with guidance for use)]、用語の統一、規格の構造の整合(システムレベルでのPDCAサイクルモデル)などを行なっている。

g) プロセスアプローチの採用
 ISO9001及びISO9004では、品質マネジメントシステムの構築、実施及び改善において”プロセスアプローチ”[組織内において、業務のプロセス(以下、プロセスという。)を明確にし、その相互関係を把握し、運用管理することと合わせて、一連のプロセスを、システムとして運用すること]を採用している。さらに、ISO9001及びISO9004の両規格の本体部分は5.〜8.であるが、ISO9001及びISO9004の4.(Quality management system)に品質マネジメントシステムを構成する主要な4つのプロセス、”Management responsibility”、”Resource management”、”Product realization”及び”Measurement,analysis and improvement”を記述している(本体図1参照)。

h) 品質マネジメントの原則の採用
 8つの品質マネジメントの原則(Quality Management Principles)を採用している。特にISO9004は、これらの8つの品質マネジメントの原則を具現化する1つの品質マネジメントシステムモデルであると位置付けている。ISO9001についても、ISO9001の適用範囲(Scope)において、これらの8つの品質マネジメントの原則を考慮して記述されている。

i) 継続的改善の導入
 品質マネジメントシステムの運営において”継続的改善”を全面的に導入している。ISO9004については、製品、プロセス、システムのいずれについても、有効性(effectiveness)及び効率(efficiency)の両面での継続的な改善を推奨し、その結果として、組織のパフォーマンスの向上を目指している。ISO9001については、品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善を要求している。

j) 顧客志向の重視
 顧客満足、顧客関係プロセス、顧客のニーズの把握、要求事項の理解、顧客とのコミュニケーション、顧客からのフィードバックなど、品質マネジメントにおける顧客の重要性を強調している。

k) 資源の運用管理の充実
 品質マネジメントにおける資源(resource)の重要性を認識し、記述を充実する。ISO9001については、1994年版のISO9001の4.18(Training)に、わずかに触れられている人的資源の質の確保に関する要求事項を増強している。ISO9004では、資源として、人、インフラストラクチャー、作業環境、情報、供給者及びパートナーシップ、天然資源、並びに財務資源の7つの領域を取り上げている。

l) 文書化要求事項
 文書化にかかわる要求事項については、1994年版のISO9001と比較して”文書化された手順”(手順が確立され、文書化され、実施され、かつ、維持されること)の要求事項の数が減少している。

m) トップマネジメントの責任及び役割の拡大並びに明確化
 組織運営におけるトップマネジメントの役割の重要性を強調している。ISO9001については、ISO9001の5.(Management responsibility)においてトップマネジメントが実施すべき事項を明確に規定している。ISO9004については、トップマネジメントの責任及び役割にかかわる推奨事項の記述を増やしている。

2.5 ISO9000ファミリー規格審議中に特に問題になった事項

 ISO/TC176におけるISO9000ファミリー2000年改訂版の審議の過程で問題となった事項は次のとおりである。

a) 規格の構造(章構成)
 ISO9000ファミリーの初版、すなわち1987年版の改訂議論の当初から、第2次改訂(2000年改訂)では、ISO9001及びISO9004の構造(章構成)の相違を解消すべきであると考えられていた。2つの規格の構造を整合させることについて多くの議論があったが、結局は、ISO14001との両立性から4章構造にすることになった。同時に、この4章構成をISO14001に合わせてPDCAサイクルとみられるように再構成することが検討された。 最終的には現在の規格構造になったが、その検討過程では、この4章をPDCAに対応させるには無理があり、また品質マネジメントシステムにおいては多様なPDCAループがあり、品質では個別の製品を提供するプロセスのPDCAがより重要であるとの議論もあった。

b) ISO9001及びISO9004の章節のタイトルの不一致
 ISO9001とISO9004とは整合性のある一対の規格であることから、章構成及びその表題について整合をとる必要がある。原案検討の過程で、章の表題に関して微妙に食い違いが生じ、そのたびに指摘を受け続けた。最終的には、章のレベルでは完全な一致をみるに至った。また、箇条のレベルでは、それぞれの規格の性質の違いからくる不一致だけを残し、一致できるものは同じ表題となった。例えば、DIS段階での、ISO9001の”facility”とISO9004の”infrastructure”は、”unfrastructure”に統一された。

c) ISO9001の適用範囲
 ISO9000ファミリー改訂審議の初期の段階に作成した規格案では、ISO9001の目的及び適用範囲は1994年版と変わらず、品質保証のための最低限の品質マネジメントシステム規格と位置付けられていた。また、提案されていた規格の名称は、”ISO9001 Quality Management System-Requirements for Quality Assurance(品質マネジメントシステム-品質保証のための要求事項)”であった。
 しかしながら、その後の審議を経て、ISO9001は、製品の品質保証だけでなく、顧客満足及び改善についても言及することによって従来の”品質保証”から”品質マネジメント”へとその適用範囲を拡大した。改訂審議の過程で日本は一貫して適用範囲の拡大を懸念した。しかし、1994年版ISO9000ファミリーを適用しても製品品質が向上しない、品質保証できないとの思いが顧客企業、供給者企業の双方にあり、規格審議の最終段階ではほとんどの国が適用範囲拡大を指示した。

d) 要求事項の適用除外
 ISO9001は、1994年版ISO9001〜9003の3つの規格に代わるものである。適用範囲の異なる3つの規格を1つにしたため、規格の要求事項を適用組織の実態に応じてカスタマイズする必要が生じた。カスタマイズする際に、何を除外してよいかというルールをどう記述するかについて、多くの議論があった。
 議論になった主な理由は、1994年版のISO9002からの移行問題にある。ISO9002で審査登録を受けていて対象組織に設計部門がない場合には、顧客要求事項に”設計・開発”行為が含まれることはないので、ISO9001の登録がなされる。一方、ISO9002で登録を受けていて、対象組織内に設計部門があり、提供製品の設計・開発を行なっている場合、設計・開発を範囲に入れない限り登録は継続されない。 ある品質マネジメントシステムに、製品品質に対する要求事項を満たす能力があることを実証しようとするときに、設計・開発機能を持っているのにかかわらず、これを除外して”能力がある”ということはできないということである。ISO9001では、7.(Product realization)に規定された要求事項についてだけ、一定の条件下で、除外の正当性を品質マニュアルに記述したときだけ、要求事項の除外を行なうことが可能となった。

e) プロセスアプローチ及びプロセスモデル
 プロセスの考え方を品質マネジメントシステムに適用するこの2つの概念について、長い議論があったものの最後まで明確にはならなかった。
 基本思想は1994年版のときからあり、1994年版のISO9000-1には、プロセスの考え方、”プロセスモデル”、及び”プロセスネットワーク”が説明されている。品質システムを構成する活動要素はプロセスと考えることができて、これらのプロセスがネットワークを形成し、ある品質システムができるというものである。その意図は、ISO9000ファミリーの品質システムモデルをこの考え方で記述すれば、あらゆる業種及び規模の組織にも適用できる品質システムモデルを提示できるというところにあった。
 その後、8つの品質マネジメントの原則が完成し、その1つとして”プロセスアプローチ”という表現が使われて、混乱が生じ始めた。プロセスアプローチは、マネジメントをするに当たって必要な活動がプロセスであると考えることによって、効果的な運営管理ができるという原則である。
 更に議論となったのがISO9000ファミリーに記述されたプロセスモデルの説明図であった。プロセスモデルの説明には、ある単位プロセスの説明図、プロセスネットワークの説明図、及びISO9000ファミリーが採用した品質マネジメントシステムを構成するプロセスのネットワーク構造を表現する図の3つが必要であるという議論が行なわれた。議論の結果、ISO14001との両立性向上を目的として、ISO14001で採用されているPDCAモデル(システムの改善モデル)に、2000年版のISO9000ファミリーの品質マネジメントシステムモデルの説明図を合わせることにし、図の題名も、”プロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデル図”と変更するとともに、図の説明文も変更した。

f) 品質マネジメントの原則
 2000年版のISO9000ファミリーの品質マネジメントシステムモデルにおいては、品質マネジメントの原則を採用するという方針で規格原案の審議を進めてきた。すなわち、8つの品質マネジメントの原則が、ISO9001及びISO9004に記述されるシステム要素と、どのように関係しているのかを、もっと分かりやすくしなければならないとの指摘が何度もなされた。
 ISO9004では4.3(Use of quality management principles)において、8つの品質マネジメントの原則を説明し、例えば”事実に基づく意思決定”など、規格の中で品質マネジメントの原則で用いられている用語と同様の表現をするように努めている。ISO9001の0.1(General)においては、ISO9004に述べられている品質マネジメントの原則を考慮したと述べるにとどまっている。8つの品質マネジメントの原則を反映したシステムの記述になっているかもしれないが、それがどのように反映しているかは明示されなかった。

g) 文書化
 1994年版ISO9001〜9003に対する文書化に関わる要求事項の軽減は、中小企業への適用性を高める意味からも、大きな課題であり、いかにして合理的に軽減するかについて長い議論があった。中心的課題は文書化しなければならない手順であった。これを表す表現として、”documented procedure(文書化された手順)”を選択し、この要求事項は6つになった。”文書化された手順”が軽減された代わりに、”組織が必要とする文書”という要求事項が加わり、ある手順を文書化すべきかどうかの判断がISO9001を適用する組織にゆだねられることとなった。 一方で、”組織が必要とする文書”に関する判断根拠の指針が具体的でなく、かえって難しい規格になったとの議論もある。
 記録(record)は文書の一種であるとの定義から、品質記録の管理には、文書管理に関する要求事項も適用されるかどうかで混乱が生じ、DISの段階に議論が行なわれた。これはFDISにおいて明確に解消された。また、”documentation”と”document”との差異についての議論もあった。この用語は、ISO9000の”document”の定義の参考において、”文書の一式”を意味すると概念整理がなされた。JIS化において訳語としては”文書類”を当てた。

h) 改善
 ”継続的改善”及び”品質改善”という概念を強調することは、ISO9004における大きな特徴と位置付けされ、有効性及び効率の両面を対象とすることは、ISO9004規格作成に関する仕様書にも記述されていた。一方で、ISO9001における”継続的改善”の意味及び意図について改訂審議の最終段階まで議論があった。最終的にISO9001における”継続的改善”とは、”品質マネジメントシステムの有効性の改善”であることが合意された。

i) 顧客満足
 2000年改訂版規格において、”顧客満足”を全面的に導入することについては、ISO9004に関しては何の問題もなかった。ISO9001については、”顧客満足”の程度を含めてどのような規定をするかについて、例えば、現実に顧客を満足させなければならないのか、そのためのプロセスを持っていればそれでよいのか、どのように顧客満足に取り組めばよいのかなど、いろいろな議論があった。
 規格審議の最終段階において、ISO9000の”顧客満足”の定義が、”顧客要求事項を満たしている程度に関する顧客の受けとめ方”となり、”顧客満足”に関するISO9001の要求事項の意図が明確なった。すなわち、ISO9001が関心を寄せている”顧客満足”とは、顧客の期待とニーズとを十分に満たした製品を提供し、顧客の(大)満足を実現しているかどうかということではなく、顧客要求事項をどの程度満たしているかに関する顧客の側の判断である。 したがって、ISO9001での”顧客満足”に関する主要な要求事項は、製品が顧客要求事項を満たしている程度に関して顧客がどう受けとめているかについての、顧客の反応に関する情報の監視となる。
 長い議論の末ここまで明確になったが、一方で”顧客満足”が”受けとめ方”であるとの審議の最終段階での決定に伴なう概念の未成熟さも残った。すなわち、”顧客満足の向上”とは”・・・に関する顧客の受けとめ方の向上”となり、これがどういう意味かは不明確なままとなった。

j) 設計・開発
 ”design”及び”development”は世界的に多様な意味で用いられている。この両者のどちらが広い範囲であるかについても、両様である。”design”及び”development”については多くの議論が行なわれた。論点は、1)ISO9000の定義に由来する解釈、2)プロセス設計の考え方、であった。
 ISO9000ファミリーでは、”design and development”を1つのまとまった用語として用い、”design and development”という一連のプロセスを意味する。
 なお、”development”には、特定の製品を想定する前の”Research & Development:R&D”という意味もあるが、ISO9000ファミリーにおいては、製品が特定される前の研究開発及び技術開発は含めていない。
 ISO9000の定義では、”design and development”の対象として、製品、プロセス及びシステムが考えられるとなっている。このため、1994年版のISO9002からの移行において、プロセス設計が要求されるかどうかが議論になった。ISO9001のFDISでは”製品の設計・開発”と規定され、プロセスの設計が要求されないことが明確になった。しかし、ISO9001には、ISO9001の7.1(Planning of product realization)に規定することを7.3(Design and development)に規定するプロセスに従って”管理してもよい”と記述されているので、理解しにくいかもしれない。 さらに、製品によっては製品設計とプロセス設計とが切り離せない場合もあり、この場合、プロセス設計にISO9001の7.3に規定する要求事項が適用されるかどうかが議論された。例えば、化学製品では、製品設計は工程の設計及び/または操業条件の指定を意味することがあり、この場合には、”製品設計としての”工程設計にISO9001の7.3が適用されることになる。サービスにおいても、顧客と直接の設定があるプロセスでは、サービス内容の指定という製品設計は、サービスプロセスにおける活動計画というプロセス設計にほかならない。
 設計・開発の解釈は一様に行なえるものではなく、個別のケースごとに十分検討する必要がある。その際の判断基準としては、ISO9001の7.に規定する要求事項のうちどれを除外したら効果的な品質マネジメントシステムではなくなってしまうか、という観点を持つべきである。2000年改訂において、組織の便宜的な都合で適用する範囲を定めるのではなく、顧客に対し品質を保証できるような品質マネジメントシステムでなければならないという基本的考え方があり、こうした点をくんだ解釈をすべきである。

k) 品質計画
 1994年版において”quality planning(品質計画)”、特定の製品やプロジェクトの品質目標設定及び目標達成の計画策定行為を意味していた。2000年版において、ISO9001では、システムレベルの”planning”についても規定するという考え方で原案を検討した。その結果、ISO9001の5.4.2(Quality management system planning)において”planning”として品質マネジメントシステムの計画、及び、ISO9001の7.1(Planning of product realization)において、”product realization process”として個別製品のプロセスの計画が規定されてる。
 ISO9001においては、7.1の規定が1994年版のISO9001の”quality planning”に該当する活動であり[実際、このプロセス計画の結果が、”quality plan(品質計画書)”になるとISO9001の7.1の参考に記述されている。]、ISO9001の5.4.2の規定が品質マネジメントシステムの計画プロセスを持つという新たな規定であることになる。
 なお、システムレベルの計画については、システムの変更を確実に実施することが重要であるとの議論があり、最終規格案に反映されている。
 ISO9004では、”quality planning”という用語が5.4.2(Quality planning)で使われており、ここでの意味は製品の品質計画である。また、ISO9000における”quality planning”の定義は1994年版と同じである。

l) 用語の整合性
 ISO9001及びISO9004での用語の使い方がISO9000における定義と整合していないということが、2000年改訂審議過程のほとんど全ての段階において課題と認識されていた。ISO9001及びISO9004の改訂作業を担当するISO/TC176/SC2/WG18及びISO9000を担当するISO/TC176/SC1/WG1は、用語調整グループを設置し、常に緊密な関係を保ち続け、多くの問題を解決してきた。

m) 翻訳容易性
 ISO900ファミリーの改訂審議の過程で、しばしば翻訳上の問題が提起された。改訂審議の過程で、英語を母国語としない国が、その母国語に翻訳しやすいように、十分な配慮を行なった。例えば、DISで使われた”administration”が翻訳上の問題からFIDSで削除された。

n) 製品
 1994年版ISO9000ファミリーでは、”product”には”service”を含むと定義され、各関連規格でそのような使い方をしていた。2000年改訂において、ISO14001との整合性の観点から、ISO9001及びISO9004は、”product and/or services”、”product including services”などの用語を採用して原案を作成していた。ISO9000を検討しているISO/TC176/SC1では、用語間の概念関係を体系化するという大目標もあり、そのような表現は”fruits and apples”と同じで、果実とその一種であるリンゴを”and”で結ぶことは非論理的であると譲らなかった。 このことは、ISO9000における定義とISO9001及びISO9004における用語使用との不整合の典型例でもあった。CD2からDISへの移行の審議を行なった1999年9月のサンフランシスコ会議の終了間際に、”product”にするという提案があり僅差で可決され、1994年版と同じ使い方をすることで最終的に合意された。
 ”product”が”service”を含むという選択をした結果、次はその”product”が生み出すプロセスの名称で問題が生じた。”product and/or services”と使用しているときは、”production”と”service operation”とを表現していたのだが、”product”に一本化されて、サービス提供を”production”というのはいかにもサービス分野に適合しない。結局、”service provision(サービス提供)”という用語を使うことになった。
 ISO9001でいう”product”は、”intended product(意図した製品)”に限定した意味で使うべきであるが、それが明確になったのは最終段階であった。各国の強いコメントによって、ISO9000の3.4.2の参考及びISO9001にもこのことが明確に記述された。

o) 要求事項及び不適合の定義
 ISO9000の定義の中で最も多くの議論を呼んだ用語は”requirement”であった。議論の要点は、要求事項として明示されなくても常識的なものは含めるべきであり、そのことによって不適合の意味合いが曖昧にならないにようするにはどうすればよいか、ということである。最終的には、”stated or generally implied needs or expectation(明示されている、通常暗黙のうちに了解されている、または義務として要求されているニーズ若しくは期待)”となり、”generally”の意味を参考で説明するということになった。
 ”requirement(要求事項)”の定義の影響を直接受けるのは”nonconformity(不適合)”である。1994年版では”non-fulfillment of a specified requirement(規定要求事項を満たしていないこと)”であり、要求事項の定義がどうであれ、specify(規定)された要求事項が適合または不適合の判定基準となる。ところが、2000年改訂版における不適合の定義は”non-fulfillment of a requirement(要求事項を満たしていないこと)”とされた。一語が抜けただけだが、審査などへの影響は計り知れない。不適合の意味が大きく変わってしまうからである。
 ISO9000の7.2.1”Determination of a requirements related to the product(製品に関連する要求事項の明確化)”を正しく運用し、審査などで混乱のないよう注意が必要である。

p) 有効性及び効率
 ISO9001及びISO9004の適用範囲の相違、並びに規格の性格の相違を説明する上で、”effectiveness(有効性)”と”efficiency(効率)”との2つの用語の位置付けが定まるまでに多くの議論があった。ISO9001ではシステム及びプロセスの有効性が改善の対象である。ISO9004ではシステム及びプロセスの有効性並びに効率を改善し、製品品質を始めとする広範な領域でのパフォーマンスの改善に焦点が当てられている。
 ここでいう”effectiveness”がよいとは、簡単に言えば、不適合を生じないで製品を提供することであり、”efficiency”がよいとは、その製品をより少ない資源の投入で実現することである。

q) 規制要求事項
 ”legal(法律)”、”statutory(法令)”、”reguratory(規制)”など、何らかの強制的な要求事項を表現し得る用語の中から、法律に基づくもの及び規制を表す2つの用語を選ぶに当たり、多少の議論があった。最初は、”legal and regulatory requirements”であったが、最終的には”statutory and regulatory requirements”となった。”legal”では対象が狭いということから、”statutory”に変わった。”statutory”は政府及び地方自治体による法令並びにそれらに基づく行政指導を含んでいることに注意が必要である。また、”regulatory”には、政府及び地方自治体の規制のほかに、業界団体などの自主規制も含まれる。

r) 規格の引用
 ISO9001には、Note(参考)がある。これは要求事項ではない。この”Note”は、ISO9000ファミリーでは、規格の本文の理解を助けるための参考情報と位置付けされている。このNoteの中に、他の規格(ISO10012及び10011)が参照されていることが議論となった。特に、ISO9001という要求事項を規定する規格の中の参考に、ISO10012のような、要求事項と推奨事項とを含む規格を参照することが議論の対象となった。 これは、規格の序文に、”参考は関連する要求事項の内容を理解するための、または明確にするための手引である”という一文があるのだが、それでもISO10012が要求事項の一部であると誤解される可能性があるということである。また、ISO10011は推奨事項を記述する規格であるが、内部監査の箇所にISO10011が”手引として”引用されると、内部監査においてもISO10011の推奨事項に従わなければならない、と誤解を与える可能性があることも指摘された。
 しかしながら、京都会議でのISO/TC176/SC2総会において、評決をして、結局この2つの規格を参照するというNoteは残すことになった。

3. JIS Q 9000ファミリーの制定

3.1 JIS Q 9000ファミリーの制定の経緯

 ISO9000ファミリーは、JIS Z 9900シリーズとして制定されて以来、我が国においてもその普及には目覚しいものがある。最初にISO9000ファミリー規格が発行された後の、1990年6月に日本工業標準調査会から出された”工業標準化推進長期計画の策定に関する建議”の中で、内外情勢を踏まえたJISマーク表示制度の抜本的な見直しの必要性についての提言があり、さらに、同年11月に設置された”JISマーク制度特別委員会”において、ISO9000ファミリー規格を適用した品質管理に係る国際的な審査登録制度の動向についての対応を検討した。その結果、ISO9000ファミリー規格のJIS化を早急に進めるべきであるとの方向性が示された。 この提言を受け、1990年度に財団法人日本規格協会に”国際品質認証制度検討委員会”が設置され、ISO9000ファミリー規格を使用した各国の品質システム審査登録制度についての動向調査が行なわれるとともに、JISマーク表示制度との関連性について、比較検討が行なわれた。その結果、ISO9000ファミリー規格の完全一致のJIS化が必要であるとの提言がなされた。
 こうした動きを受けて、1991年4月に財団法人日本規格協会にISO9000ファミリーのJIS化委員会(委員長:久米均 東京大学教授)が設置され、ISO9000ファミリー規格のJIS化が検討された。この委員会における精力的な作業及び検討の結果、同年6月にJIS原案がまとまり、財団法人日本規格協会から工業技術院標準部に提出された。このJIS原案は同年6月の日本工業標準調査会基本部会の審議を経て、1991年10月1日付けで通商産業大臣によって制定された。
 その後、ISO9000ファミリー規格は1994年7月に改訂・発行された。我が国ではISO9000ファミリー規格の改訂に伴ない、1994年7月にJIS Z 9000シリーズ改正原案作成委員会(委員長:久米均 中央大学教授)を設置し、同年8月に改正原案をまとめ、財団法人日本規格協会から工業技術院標準部に提出された。この改正原案は、同年同月の日本工業標準調査会基本部会の審議を経て、1994年10月1日付けで通商産業大臣によって制定された。
 なお、JIS Z 9901:1994については、1998年に翻訳上の見直しに基づく形式的改正を行なった。
 ISO/TC176において、先にも述べたとおり、ISO9000ファミリー規格の改訂作業が進められ、2000年12月15日に改訂・発行された。
 財団法人日本規格協会に設置されたISO/TC176国内対策委員会と工業技術院は、JIS Z 9900シリーズの重要性にかんがみ、ISO9000ファミリーの2000年改訂後、遅滞なくJISを発効することとした。これを受けて、ISO/TC176国内対策委員会内にISO9000シリーズ改正委員会(委員長:久米均 中央大学教授)を設置し、そのもとにISO9000JIS化検討WG(主査:棟近雅彦 早稲田大学教授)、ISO9001JIS化検討WG(主査:飯塚悦功 東京大学大学院教授)及びISO9004JIS化検討WG(主査:中村翰太郎 財団法人エンジニアリング振興協会)を2000年8月に設置し、JIS原案の検討及び作成が開始された。
 JIS原案は財団法人日本規格協会から工業技術院標準部に2000年9月に提出され、同月に開催された日本工業標準調査会認証・認定部会の審議を経て、2000年12月20日付けで通商産業大臣によって制定された。
 なお、1999年にIAF-ISO/CASCO-ISO/TC176から出されたISO9001に関する移行処置に基づいて、JIS Z 9901、JIS Z 9902及びJIS Z 9903は、2000年版のISO9001の発行から3年間並存させることとなった。

3.2 JIS化のための翻訳において特に問題になった事項

 JIS化に際しては、原文の意図を誤解なく正しく伝えることを基本原則とした。そのため、規格の翻訳で通常採用される、1つの用語に常に同一の対応訳語を当てるという原則はあえて採用しなかった。文意によって訳語を使い分けたり、説明的補足を加えたり、または原文の一部を意図的に訳さなかった部分もある。結局のところ、組織が実施することになるのは何か、ということを自問しつつ原文の翻訳を行なった。原文にない語が挿入されていたり、原文にあっても対応訳語がない場合には、ISO9000ファミリー改正委員会の意図的な所作である。また、例えば、ISO9001及びISO9004のように、2つの国際規格で同じ用語が使用されていても、JIS Q 9001とJIS Q 9004とでは異なる訳語を当てていることもある。 これは、JIS Q 9004はJIS Q 9001の指針ではなく、JIS Q 9001とは異なる適用範囲及び意図があることから、細部まで厳密に訳語を統一する必要がなかったので、文意に応じた読みやすさを優先したためである。
 次に、JIS Q 9000、JIS Q 9001及びJIS Q 9004のうちの、2つ以上の規格において、翻訳上、共通の問題となった用語をアルファベット順にあげる。

a) ”commitment:コミットメント
 ”commitment”は”コミットメント”と訳した。トップマネジメントが品質マネジメントシステムの計画、実施及び改善に深く関与すること、並びにその状態を意味している。しかし、誓約、約束、公約、確約、義務、責務、責任、関与、かかわり合い、参加、傾倒、深入りなど、いずれの用語においても原文のニュアンスを伝えきれないので、JIS Z 9900シリーズと同様に”コミットメント”とした。

b) ”communication”、”communicate”:伝達、周知、コミュニケーション
 ”communication”及び動詞の”communicate”は、文脈に応じていくつかの訳し別けをした。伝えればよいときは”伝達”、伝わり理解され実施され得る状況にする意味のときには”周知”、また、双方向の伝達が主意のときには”コミュニケーション”とした。

c) ”competence”:力量
 ”competence”には”力量”という訳を当てた。単に”適格性”では、要求事項を実施する能力を持っているかが不明確であり、要求事項を確実に実施できる能力があるということを明確にするためである。

d) ”consistent pair”:整合性のある一対の規格
 ISO9001とISO9004との一対の規格を、このように表現している。”consistent”をどう訳すかが問題となった。この意味は、ISO9001とISO9004とが、構造的に対応していて、内容的に矛盾がなく、両規格とも単独で使えるということである。”一貫した”、”相互に矛盾しない”、”整合した”、”調和のとれた”などの候補が挙がったが、最終的に”整合性のある一対の規格”とした。

e) ”customer satisfaction”:顧客満足
 我が国で顧客満足と言えば、相当高いレベルで満足した状態を示すことが多いが、JIS Q 9000ファミリーでの意味はそうではない。”satisfy”とは、”satisfy”するかどうかの限界を超えることである。”satisfactory(満足な)”は、優・良・可・不可の”可”程度に相当する。顧客要求を辛うじて達成した状態でも”satisfaction”である。もちろん、それよりも高いレベルの顧客満足であっても構わないが、顧客要求事項を辛うじて達成したと顧客が受けとめれば、それが”customer satisfaction”である。 この用語における重要な概念は、非常に満足している状態を意味するのではなく、どの程度満たしているかに関する顧客の受けとめ方にある。こうした意味合いを表すために、”顧客要求達成認識”(顧客要求事項を達成したかどうかに関する顧客の認識)という訳語も検討した。しかし、”CS=顧客満足”という言い方が定着しているので、訳語は顧客満足とした(2.5のi)を参照)。

f) ”design and development”:設計・開発
 ”design”と”development”という2つの行為を合わせたものではなく、”design and development”という一連のプロセスを意味していることを踏まえて、訳語としては、”設計・開発”とした。原語と同じく、”設計”と”開発”ではなく、”設計・開発”と総称される一連の活動である。

g) ”determine”:明確にする、決定する、定める
 ”determine”は、対象の性質を明らかにして何かを定めるという意味であるが、対象の理解が主意であるときは”明確にする”、また、決定が主意であるときは”決定する”または”定める”と訳した。

h) ”device”:機器、機器・道具
 JIS Z 9901では、”measurement equipment(測定装置)”と記述していた。JIS Q 9001では、”measuring and monitoring device”の”device”を、”機器”と訳した。しかし、ISO9004では、”device”を単独で使うこともあり、そのときの意味は、”特定の機能のために設計されたまたはある目的に適合させたもの(A thing designed for a particular function or adapted for a purpose)”である。実際、ISO/TC176/SC2/WG18におけるISO9004検討タスクグループでは、”equipment”に対して”device”はもっと広い範囲のものを指しており、例えば、チェックリストなども含めてもよい、という議論があった。 このことから”device”に”機器”という用語を当てるだけでは、範囲を限定しすぎるので、JIS Q 9004に限っては、範囲を少し広げて”機器・道具”とした。

i) ”effectiveness”:有効性、”efficiency”:効率
 あるシステムや方法論が”有効である”と表現する場合には、効率も含めてよい結果が生じることを意味することが多い。しかし、JIS Q 9000ファミリーにおける対比的なこの2つの用語は、結果が達成されたかどうかと、その過程がどうであったかを区別したいために用いているのであるため、”有効”とは結果が達成されていることを意味しているに過ぎない。同じような結果を達成し得たときに、そのために消費された資源(人、もの、金など)がより少ない場合を、効率的であると表現している。”effectiveness”の訳語として”有効性”とし、また、”efficiency”の訳語は”効率”とした。 また、ISO9000ファミリーには、形容詞として”effective and efficient”、副詞として”effectively and efficiently”が頻出するが、それぞれ”効果的で効率的な”及び”効果的で効率良く”の訳語を当てた。

j) ”ensure”:〜を確実にする、確実に〜する
 ”ensure to 〜”及び”ensure that 〜”は、toやthat以下のことが確実に実現できるような状況にする、場を作る、仕組みを作ることなどを意味するが、”〜を確実にする”、または”確実に〜する”と訳した。

k) ”establish”:確立する、作成する、設定する
 ”establish”は、文意によって”作成する”、”設定する”、”確立する”などの訳語を当てた。

l) ”identify”、”identification”:識別(する)、特定(する)、明確化(する)
 ”identify”は、ある対象がまさに考慮の対象であると特定するという意味であるが、文脈に応じて、”識別する”、”特定する”、”明確にする”または”明確化する”と訳した。

m) ”interrelation”、”interaction”:相互関係、相互作用
 JIS Q 9001では、これらを”相互関係”とし、JIS Q 9004ではそれぞれ”相互関係”及び”相互作用”と訳した。JIS Q 9001で、これらの用語の訳語を同じにした理由は、ISO9001の改訂審議において、”interrelation”と”interaction”とには意味の上で差がなく、”interaction”は、”interrelation”の意味で用いられていることを確認したことによる。したがって、JIS Q 9001では規格作成者の意図をくんで両方とも”相互関係”とした。一方、JIS Q 9004ではこれらの単語は明確に異なった意味で用いることを意図しているので訳し別けた。

n) ”management”:マネジメント、運営管理、運用管理
 ”management”は、”マネジメント”、”運営管理”及び”運用管理”の3つを文意によって使い分けた。
 ”management system(マネジメントシステム)”、”quality management(品質マネジメント)”、”quality management system(品質マネジメントシステム)”及び”quality control(品質管理)”は、JIS Z 9900シリーズから訳語を変更した。これまでは、”quality management”、”quality control”を、いずれも品質管理と訳し、それと区別するために、”quality control”に”品質管理手法、品質管理(狭義)”という訳語を当てていた。今回の改正では、マネジメントというカタカナ表記が一般化してきていることを考慮し、”management”と”control”とを、明確に区別するために、”management”には”マネジメント”を、”control”には”管理”という訳語を当てた。 文脈によっては、マネジメントは”運営管理する”という動詞で訳した方が適切な場合があるので、”運営管理”という訳語を追加した。また、資源のマネジメントについては”運用管理”という訳語を当てた。
 ”management”は運営管理活動だけでなく、運営管理をする人、すなわち管理者を指す場合がある。JIS Q 9000の3.2.6(マネジメント、運営管理、運用管理)の参考では、”人”に対して用いる場合には、”management”を単独で用いてはならず、何らかの修飾語を付けて用いるようにと記述している。”トップマネジメント”がその例である。しかしながら、”management responsibility”、”management representative”、”management review”などがISO9001及びISO9004で使われており、これらはいずれも人を指す。これらの語は、それぞれ”経営者の責任”、”管理責任者”、”マネジメントレビュー”と訳した。 ISO9004では、人の意味で単独に”management”が多数用いられている。その際には、JIS Q 9004では、文脈に応じて”経営者”または”管理者”という訳語を当てた。

o) ”performance”:実施状況、成果を含む実施状況、パフォーマンス、出来栄え
 JIS Q 9004は、パフォーマンスの向上の指針であるために、多くの場面で”performance”は、種々の意味をこめた使い方がされており、”パフォーマンス”とカタカナ表記にした。また、製品については”出来栄え”とした。JIS Q 9001では、”実施状況”または”成果を含む実施状況”と訳した。

p) ”qualification”:適格性確認、承認
 ”qualification”は、規定要求事項が満たされていることを実証するプロセスを経て、基準に適合している状態を意味し、人、製品、プロセスまたはシステムのいずれについても用いる。 JIS Z 9901の参考(品質管理と品質保証の規格−用語)の2.13では、”qualification”を”適格性確認”、”資格認定”という2つの訳語を当てていたが、JIS Q 9000ファミリーでは、人については”適格性確認”、ものについては”承認”という訳語を当てた。

q) ”release”:リリース、”delivery”:引渡し
 ”release”は、次の段階へ進めてよいことの確認に基づき先に進めることを意味し、顧客を含む次の工程へ進めることを意味する。一方で、”delivery”は顧客への引渡しを意味する。”release”の訳には、”リリース”を当て、文意に応じて”リリース(次工程への引渡し)”、”リリース(次工程への引渡しまたは出荷)”または”リリース(出荷許可)”と訳した。”delivery”は”引渡し”と訳した。

r) ”review”:レビュー、見直し、確認、内容確認
 JIS Q 9000の3.8.7(レビュー)に基づく行為については、”レビュー”と訳した。”レビュー”、”デザインレビュー”、”マネジメントレビュー”などである。その他の場合には、原則として”内容確認”とした。”review”は、動詞としても使われるが、その場合には”レビューする”または”確認する”とした。

s) ”shall”:〜すること、”should”:〜するとよい、〜すべきである
 ISO9000には、要求事項であることを示すために助動詞”shall”が、ISO9004では、推奨事項であることを表すために助動詞”should”が使われている。これをどう訳すかが問題となった。1994年版でも問題になり、そのときは”shall”は”〜すること”、”should”は”〜する”とした。 JIS Z 8301(規格票の様式)では、”shall”は”〜しなければならない”及び/または”〜する”、”should”は”〜するとよい””〜することが望ましい”などと訳すことが推奨されている。
 JIS Q 9001については、JIS Z 8301に従って、”〜する”とすることを検討したが、これでは事実を陳述した平叙文との区別がつかないため、1994年版と同様に”〜すること”とした。
 JIS Q 9004については、この規格を指針として採用することを決定した組織にとっては、規格に記述されている指針は要求事項に準じるものになるはずであるとの考えから、比較的強い表現である”〜すべきである”を原則とする方向で検討していた。最終的には、JIS Q 9001とのバランスを考慮して、”〜するとよい”を採用することになった。ただし、一部には”〜すべきである”も使用している。

t) ”statutory and regulatory requirements”:法令・規制要求事項
 ISO9000にある”requirement”の定義中の”obligatory”の実体である[JIS Q 9000の3.1.2(要求事項)参照]”statutory”は、政府及び地方自治体による法令、並びにそれらに基づく行政指導を含む。また、”regulatory”には、政府及び地方自治体の規制の他に、業界団体などの自主規制も含まれる。 このように、多様な要求事項があるが、これらを全て”法令・規制要求事項”という訳語に含ませることにした。”法令・規制要求事項”の”法令”には、”行政指導”を含まないが、他に適切な”statutory”に対応する訳語がないのでこれを当てた。この規格で使用する場合は”statutory”と同様に”行政指導”を含むものとして扱っている。

u) ”training”:訓練、教育・訓練、”education”:教育
 ”training”は”訓練”、”education”は”教育”と訳した。ISO9000ファミリーには多くの場合、”training”と”education”とが並列で用いられているが、”training”が単独で用いられている場合には、”教育・訓練”とした。

4. JIS Q 9001の内容

 ISO9001の翻訳の過程でISO9000ファミリー改正委員会において、要求事項の内容そのものの観点で議論となった事項及び不明点、並びにそれ以前のISO/TC176/SC2/WG18における議論の中で、特に議論となった事項を中心に、JIS Q 9001の理解の向上に役立つと思われるものを解説する。

a) 一般(本体の0.1)
<適用範囲>
 ”この規格の表題は変更され、もはや品質保証という言葉を含んではいない。このことは、・・・、製品の品質保証に加えて、顧客満足の向上をも目指そうとしていることを反映している。”とあるように、JIS Q 9001はその適用範囲を大きく変えた。JIS Z 9901における”品質保証のための品質システム要求事項”から”品質保証及び顧客満足のための、継続的改善を含む品質マネジメントシステム要求事項”へと大幅に変わった。 JIS Q 9001の適用に当たっては、まず始めに本体の1.1(適用範囲)の規定が意味するところを正しく理解する必要がある。さらに、”顧客満足”及び”継続的改善”が何を意味するかを、正確に理解する必要がある。
<品質マネジメントシステムの設計及び実現>
 ”・・・品質マネジメントシステムの構造の均一化または文書の画一化が、この規格の意図ではない。”とあるので、JIS Z 9901からの章構造の大幅な変更があるからといって、この理由だけで品質マニュアルの構造を変える必要はない。

b) プロセスアプローチ(本体の0.2)
<本体の図1>
 図1”プロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデル”が何を表しているかについて、多くの議論があった。単に規格の構造を示しているだけであって、品質マネジメントシステムにおけるプロセスアプローチの説明になっていないとの批判は最後まで消えなかった。

c) 一般(本体の1.1)
<本体の1.1のb)>
 本体の1.1のa)は、JIS Z 9901と同じく、品質保証の能力のことを示している。このb)が、JIS Q 9001において拡大された適用範囲である。b)がどの程度の要求事項であるかは、JIS Q 9001における”顧客満足”及び”継続的改善”の意味いかんによる。”顧客満足”とは顧客要求事項を満たしている程度に関する顧客の受け止め方であり、顧客がどう評価しているかが重要であって、満足のレベルが高いことは必ずしも意味しない。 また、JIS Q 9001でいう”継続的改善”は、品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善であり、製品の改善も、効率の改善も含まれない。
<本体の1.1の参考>
 この参考に、”この規格では、”製品”という用語は、顧客向けに意図された製品または顧客が要求した製品に限られて使われる。”とあることから、JIS Q 9001は、環境汚染など、顧客に提供することを意図していない製品の品質のための品質マネジメントシステムに関する要求事項ではない。

d) 適用(本体の1.2)
<要求事項の除外>
 JIS Q 9001の要求事項の一部を除外することができるのは、本体の7.に規定する要求事項のうち、
− 提供する製品の性質から論理的にあり得ない、またはないことが経済的及び技術的に合理的な要求事項
− 顧客要求事項及び規制要求事項に関係しない品質マネジメントシステム要求事項
であることが分かる。また、除外は、要求事項のどのようなレベル及び細かさで行なっても構わない。
 適用に当たって問題が起こり得るのは、JIS Z 9902からJIS Q 9001への移行における”設計・開発”機能の除外の是非、及びアウトソーシングしている機能の取扱である。

e) 定義(本体の3.)
<組織の定義>
 JIS Q 9001の適用者を、”組織”という。JIS Z 9900シリーズでは、”供給者”といっていたものを、JIS Q 9001では”組織”ということに変更している。また、JIS Z 9900シリーズでは、JIS Z 9901に基づく品質システムを適用する組織を”供給者”といっていたが、JIS Q 9001では、JIS Q 9001を適用する組織に対して製品を提供する組織のことを”供給者”ということに変わっていることに注意したい。
<製品の定義>
 ”製品”には”サービス”が含まれる。これはJIS Z 9901と同じである。JIS Q 14001(環境マネジメントシステム−仕様及び利用の手引)では”製品及び/またはサービス”という。

f) 一般要求事項(本体の4.1)
<本体の4.1のa)>
 品質マネジメントシステムの構築に当たり、まずこの項に規定する。品質マネジメントシステムに必要なプロセスの特定が必要である。このプロセスの大きさをどの程度にするかについては、”管理できること”が要件となる。例えば、”設計・開発プロセス”という程度の大きさが最大で、常識的にはこれより一段小さくして、”概要設計・開発プロセス”、”設計・開発レビュー”及び”設計・開発変更プロセス”という程度の大きさが適当であろう。
<本体の4.1のb)>
 a)で特定できたプロセスについて、次にb)に規定するように、”これらの特定した必要なプロセスの順序、及び相互関係を明確にする”ことが必要になる。プロセスの順序は問題ないとして、相互関係を明確にするような図または表の工夫が必要である。
<アウトソーシング>
 規格審議の最終段階で問題となって追加された要求事項である。本体の1.2との関連で、品質保証の観点で重要なプロセスが抜けていたり管理下にない場合、それでは品質保証できないことになり、規格の趣旨からこの事態は避ける必要がある。そこで、方法は問うてはいないが、アウトソーシングするに当たって、何らかの管轄権を持つべきことを規定している。

g) 一般(本体の4.2.1)
<本体の4.2.1のa)〜e)>
 これらの事項が規定されたことによって、JIS Z 9901に比べ品質マネジメントシステムで作成すべき文書類が明確になった。一方で、d)に適合するためには、文書というものが必要となる理由を組織が考察しなければならないことになる。
<本体の4.2.1の参考1.>
この規格で要求されている”文書化された手順”は、次の6つの手順である。
4.2.3 文書管理手順
4.2.4 記録の管理手順
8.2.2 内部監査手順
8.3 不適合製品の管理手順
8.5.2 是正処置手順
8.5.3 予防処置手順

h) 品質マニュアル(本体の4.2.2)
<本体の4.2.2のa)>
 a)は、本体の1.1及び1.2と関係する事項である。
<本体の4.2.2のb)>
 b)で規定されている”文書化された手順”は、4.2.1c)で要求される6つの”文書化された手順”である。文書になっている手順は他にもある得るが、それらの手順に対する要求事項ではない。
 b)で、”・・・またはそれらを参照できる情報”と規定されているので、含んでいなくてもよくて、どこにあるか分かればよいことになる。実際上は、引用、参照などを行なう。
<本体の4.2.2のc)>
 本体の4.1のb)を反映したものである。

i) 文書管理(本体の4.2.3)
<記録の管理>
 記録は文書の一種ではあるが、本体の4.2.3の規定ではなく、本体の4.2.4で規定する要求事項に従って管理する。

j) 記録の管理(本体の4.2.4)
<記録>
 ここでいう”記録”とは、一般的な意味での記録ではなく、この規格が要求する品質マネジメントシステムの運用において必要となる記録であり、いわゆる”品質記録”のことである。

k) 経営者のコミットメント(本体の5.1)
<本体の5.1の本文及びa)〜e)>
 品質マネジメントシステムにおける、トップマネジメントの役割が、一層明確になった。

l) 品質目標(本体の5.4.1)
<品質目標>
 ”品質目標は、その達成度が判定可能で・・・”の原文は”The quality objectives shall be measurable and ・・・”である。”measurable”を”判定可能”と訳しているのは、目標が定量的である必要はないことを明確にするためである。達成できたかどうかが明確に判定できるようになっていればよい。

m) 品質マネジメントシステムの計画(本体の5.4.2)
<本体の5.4.2のb)>
 この要求事項が、いわゆるシステムレベルでの(品質)計画である。特に、システムの変更に際して注意が必要である。

n) 管理責任者(本体の5.5.2)
<管理責任者の任命>
 原文には”a member of management who ・・・”とあり、管理責任者として任命されるのは1名であるように読めるが、ここでの意味は管理層の一員ということであり、1人であるとは限らない。
 この管理責任者には、トップマネジメント自身もなることができる。どの階層までを指名してよいかは、本体の5.5.2のa)〜c)を実施できる権限を持つかどうかで判断できる。
<本体の5.5.2のc)>
 この項で規定する”顧客要求事項に関する認識を高める”の原文は、”c)ensuring the promotion of awareness of customer requirements throughout the organization.”である。”awareness”の第一義は、”知っていること”である。

o) 一般(本体の5.6.1)
<品質マネジメントシステムのレビュー>
 品質マネジメントシステムのレビューは、”あらかじめ定められた間隔”と規定されている。”あらかじめ定められた間隔”とは、定期的でなくてよい。

p) マネジメントレビューからのアウトプット(本体の5.6.3)
<本体の5.6.3のb)>
 製品の改善を含まないJIS Q 9001において、この項で製品の改善を要求しているように読めるが、ここでの”顧客要求事項への適合に必要な製品の改善”とは、システムの改善よりも(工程能力向上のための設計変更など)製品そのものを改善することが必要な場合があるということであり、そうした改善がマネジメントレビューのアウトプットになる得るという意味である。

q) 資源の提供(本体の6.1)
<本体の6.1本文>
 本体の6.1のa)及びb)、すなわち品質マネジメントシステムの実施、維持、継続的改善、並びに顧客満足向上に必要な人員及びインフラストラクチャーを明確にして、提供されるようにしておかなければならないことに注意する。

r) 一般(本体の6.2.1)
<本体の6.2.1本文>
 力量の判断根拠が列挙されていることに注意する。

s) 力量、認識及び教育・訓練(本体の6.2.2)
<本体の6.2.2のd)>
 本体の6.2.2のd)でいう、組織の要員の”認識”について”確実にする”具体的な方法に関して、この解説では例示しないが、様々な方法がある得る。

t) インフラストラクチャー(本体の6.3)
<本体の6.3の参考>
 本体の6.3の参考に記述されているように、”インフラストラクチャー”とは”組織の運営のために必要な一連の施設、設備及びサービスに関するシステム”を指す[JIS Q 9000の3.3.3(インフラストラクチャー)参照]。この規格では、いわゆる通常のインフラストラクチャーよりも狭い意味で用いられている。

u) 製品実現の計画(本体の7.1)
<本体の7.1の参考1>
 本体の7.1の参考1から、ここでいう製品実現の計画が、1994年版での品質計画に該当することが分かる。
<本体の7.1の参考2>
 本体の7.1の参考2から、プロセス設計は、もともとは、JIS Q 9001の対象ではないことが分かる。

v) 設計・開発(本体の7.3)
<”設計・開発”の対象>
 JIS Q 9001での”設計・開発”の対象となる業務は、製品の設計・開発である。しかしながら、製品の設計・開発が、工程の設計となる場合があることに注意する必要がある[(2.5j)参照]。

w) 設計・開発のレビュー(本体の7.3.4)
<本体の7.3.4のa)及びb)>
 本体の7.3.4の第1段落でいう”設計・開発のレビュー”とは、設計審査、またはデザインレビューのことである。

x) 設計・開発の変更管理(本体の7.3.7)
<変更の承認に必要なレビュー>
 ”変更に対して、レビュー、検証及び妥当性確認を適宜行ない、変更を実施する前に承認すること。”の要点は、変更を実施する前に承認が必要で、その承認のためのレビュー、検証及び妥当性確認の3つの確認方法を適宜行なうということである。
 ”変更のレビュー”とは、本体の参考にあるように、上記の”適宜行なわれたレビュー、検証及び妥当性確認”のことである。

y) 購買情報(本体の7.4.2)
<本体の7.4.2のb)>
 ”要員の適格性確認”とは、適格性要件が明確であって、適切なプロセスで評価されることがポイントであるため、いわゆる公的な資格に限定されるわけではない。

z) 製造及びサービス提供の管理(本体の7.5.1)
<”組織は、管理された状態で製造及びサービス提供を計画し・・・”>
 ”管理された状態”とは、製造及びサービスの提供が管理されていることを意味する。

aa) 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認(本体の7.5.2)
<本体の7.5.2のプロセスの対象>
 いわゆる”特殊工程”の管理に関する要求事項である。

ab) 顧客の所有物(本体の7.5.4)
<本体の7.5.4の参考>
 本体の7.5.4の参考からも伺い知れるように、ここでいう”顧客の所有物”は広く考えるべきである。それは、加工外注での支給素材から、開発環境提供、テスト機器貸与及び技術・知識までも含まれる。知的所有権を挙げているのは、盗み見られた知識または情報は、物理的には何ら損傷を受けていないが、”損傷”といえるという意味である。

ac) 製品の保存(本体の7.5.5)
<本体の7.5.5本文>
 本体の7.5.5の第1段落でいう”保存”の意味は、JIS Z 9901とは異なる。JIS Z 9901では、”保存”とは、顧客に製品を引き渡せる状態にありながら、製品が組織(JIS Z 9901でいう供給者)の管理下にあるときの管理を意味していた。JIS Q 9001では、製品として実現できていて、これを顧客に引き渡すために必要となる、いわゆる”ものの取り扱い”全般における管理を意味している。
<本体の7.5.5の参考>
 ”内部処理”は”internal processing”の訳である。本体の7.5.5の参考に示したとおり、製品実現のプロセスにおける活動をいう。

ad) 監視機器及び測定機器の管理(本体の7.6)
<監視>
 ”監視”は”monitoring”の訳である。”監視”には、監視によって把握できた実情に応じてなされる処置は含まれない。
<コンピュータソフトウェアの取扱い>
 ”監視及び測定にコンピュータソフトウェアを使う場合には、・・・”という要求事項は、計測機器にソフトウェアが使われており、それが得られる計測値の信頼度に影響を与えるという実態を考慮してのものである。

ae) 顧客満足(本体の8.2.1)
<顧客満足>
 ”顧客満足”の意味については、この解説の2.5のi)及び3.2のe)を参照のこと。

af) 製品の監視及び測定(本体の8.2.4)
<本体の8.2.4本文>
 ”当該の権限を持つものが承認したとき、及び該当する場合に顧客が承認したとき”とは、”当該の権限を持つ者が承認をし、かつ顧客が承認するという規定になっている場合に顧客が承認したとき”という意味である。

ag) 不適合製品の管理(本体の8.3)
<本体の8.3のb)>
 ”当該の権限を持つ者、及び該当する場合には顧客が・・・承認する”とは、”当該の権限を持つ者が承認をし、かつ、顧客が承認するという規定になっている場合に、顧客が承認する”という意味である。
<本体の8.3の参考>
 本体の8.3の参考に示したとおり、”c)本来の意図された使用または適用ができないような処置をとる”には、廃棄も含まれる。

ah) 継続的改善(本体の8.5.1)
<本体の8.5.1本文>
 ”品質マネジメントシステムの有効性の継続的改善”においては、JIS Q 9000の定義[JIS Q 9000の3.2.13(継続的改善)参照]によれば、その組織の品質マネジメントシステムの有効性に関する要求事項の必要性が示唆されている。品質マネジメントシステムの有効性に関する要求事項とは、品質マネジメントシステムにおいて実施するもの、規定した活動、及びそれらの活動の結果に対する目標(例えば、品質目標)からなる。
 ”継続的”は”continual”の訳である。連続していなくても断続的に続いていればよい。また、ある1つのテーマ及び事項について、その(改善の)経緯が分かるようにする、換言すれば改善のトレーサビリティまでは要求されていない。”継続的改善”の意図及び趣旨は、改善と呼べるような活動をやめなければよいということである。
 さらに、この解説の2.5のh)も参照のこと。

ai) 是正処置(本体の8.5.2)
<本体の8.5.2のf)>
 参考に記したように、f)における”是正処置において実施した活動”とは、a)〜e)の一連の活動である。

aj) 予防処置(本体の8.5.3)
<本体の8.5.3のe)>
 参考に記したように、e)における”予防処置において実施した活動”とは、a)〜d)の一連の活動である。

5. 移行

 JIS Q 9001の制定によって、JIS Z 9901/9902/9903のいずれかの規格によって審査登録を受けている組織は、新たにJIS Q 9001で更新審査を受ける必要がある。また、これまでにJIS Z 9901/9902/9903のいずれかで審査登録を受けることを計画し、準備していた組織についても、その変更を強いられることとなる。
 これらの移行問題(JIS Z 9901/9902/9903で審査登録を準備していた組織を含む。)については、1999年にIAF-ISO/CASCO-ISO/TC176から出されたISO9001に関する移行処置に関する共同コミュニケに基づいて次のような処置がとられることとなった。

− 2000年度版のISO9001発行以降3年間はJIS Z 9901/9902/9903を存続させる。

 各組織は、2000年度版のISO9001発行後3年間はJIS Q 9001またはJIS Z 9901/9902/9903のいずれかで更新審査もしくは登録審査を行なってもよいこととなっている。ただし、JIS Q 9001制定から3年経過した後には、JIS Z 9901/9902/9903での登録審査または更新審査はできない。JIS Q 9001制定から3年間でJIS Z 9901/9902/9903からJIS Q 9001への移行を完了させることとなっている。

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