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最終更新日:2012年04月02日(月) 16時36分 |
自然科学用語集 (総登録数:17) | 編集者:トモノリスキー |
自然科学・サイエンスに関連する専門用語集です。
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核の軽元素問題 (かくのけいげんそもんだい:light elements of outercore)
内核の化学組成は鉄ニッケル合金でほぼ説明可能であるのに対し、外核は鉄ニッケル合金より密度が10%程度小さいことから軽元素が溶け込んでいると考えられている。その候補として、Si、S、O、C、Hなどが考えられている。核が主に金属鉄で形成されており、マントルは鉄酸化物を含む珪酸塩鉱物でできているとすると、核とマントルは科学的に非平衡であることになり、地球の形成期に内部が融解して核とマントルが分離したとする考えに都合が悪い。そこで、1970年代に核の軽元素が酸素であるとする仮説が提示され、Fe-S-O系の融解実験によって、高圧化では金属鉄にかなりの酸素が溶け込みうることが示された。しかし、最近の高圧実験によって金属鉄に水素も溶け込むことが示され、外核の軽元素が何であるか再検討が行なわれるようになっている。
核の軽元素問題は地球の成層構造の形成過程に密接に関係しており、どの元素が大量に含まれているかを明らかにすることは、地球形成論の重要課題でもある。
気候システム (きこうしすてむ:climate system)
気候とは、地表の気温や湿度、降水量の地理的分布とその季節的変化、永年変化の総称である。気候は、太陽活動、大気組成、植生、氷床の分布、海洋循環、火山噴火、大陸と海洋の分布など、さまざまな要因に支配されている。気候を決める要因の集合体を気候システムと呼んでいる。気候システムを構成するサブシステムの質的、量的変化が生じると気候変動(climate change)が起こる。気候システムを構成するサブシステムには、プレート運動による大陸・海洋の分布変化のように、数百万年の時間スケールの変動から、植生の季節変化のように短い時間スケールの変動まであり、それらが複雑に絡み合っている。気候変動の研究では、対象とする現象の変動の時間スケールを考慮して、関与する要素(サブシステム)を選び出し、その変動の仕組みをモデル化して気候システムの安定性やその動的挙動を調べる。気候システムには、地球表面温度を調節するさまざまなフィードバック機構が存在しており、その動的挙動は一般に複雑である。例えば、何らかの原因で、気候が温暖化したとする。温暖化によって氷床が後退する。氷床が後退すると地球の反射能(アルベード)は低下するので、太陽エネルギーの吸収が増えて、さらに温暖化を引き起こす。このように機構システムのある要素の変動が引き金となって、気候システム内に内在する一連の変化が誘発され、当初の揺らぎを増幅するプロセスを正のフィードバックと呼ぶ。一方、温暖化によって大気中の水蒸気量が増加するが、その結果雲量が増加して太陽エネルギーを遮り、ひいては温暖化を抑える効果を持つ。このようなプロセスは、負のフィードバックの例である。気候モデルには、エネルギー収支モデル、放射対流モデル、全地球循環モデル(GCM)などがある。
[←先頭へ]顕生代の大量絶滅 (けんせいだいのたいりょうぜつめつ:mass extinctions during the Phanerozoic)
カンブリア紀の始まった5.45億年前以降の時代は大型の生き物が豊富になったので顕生代と呼ばれる。顕生代には、カンブリア紀末、オルドビス紀末、デボン紀後期、ペルム紀末、三畳紀末、白亜紀末に生物の大量絶滅が起こった。やや小規模なものも含めると中生代以降は約3千万年間隔で絶滅が繰り返しているように見える。カンブリア紀末には腕足類や苔虫の多くが絶滅した。デボン紀末には単細胞のアクリターク、礁の生態系や淡水の魚などが大きな影響を被ったが陸上植物はあまり影響されなかった。ペルム紀末の絶滅は海の無脊椎動物の95%近くの種が絶滅したとされるほど大規模だった。白亜紀末にはアンモナイトや恐竜が絶滅した。ペルム紀末の大量絶滅の原因については、最近東大の磯崎行雄らが当時の無酸素状態を示唆する深海性堆積物を日本の付加体から発見し、海洋超酸素欠乏説を提案している。白亜紀末の大量絶滅については、アルバレス(Alvarez)らが1980年、白亜紀と新生代の境界層に隕石起源と考えられるイリジウムが異常に濃縮する事実に基づいて隕石衝突原因説を発表した。最近メキシコで隕石孔が発見され信憑性が一層高まった。
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最古の生命化石 (さいこのせいめいかせき:the oldest fossil)
光合成生物が炭素固定するとき、炭素の安定同位体であるC13とC12のうちでより軽いC12を含んだCO2(二酸化炭素)を選択的にカルビン回路に取り込む。このため地層から見つかるC12が濃縮した炭質物は、生命起源の有機物が分解変質したものと解釈される。C12の濃縮した炭質物で最も古いものは、グリーンランドの38.5億年以上前の地層から発見され、最古の生命活動の痕跡と考えられている。生物体最古の化石は西オーストラリア・ピルバラ地域の35億年前の地層から発見された。これは太さが10ミクロン程度、細長い糸状のバクテリア様の化石で、ストロマトライト様の構造と一緒に見つかっていることから、光の届く浅海に生息するシアノバクテリアである可能性が示唆されてきた。ところが最近、東工大の丸山茂徳らを中心とする日本の地質学者たちが現地で再調査した結果、最古のバクテリア化石を含む地層は中央海嶺の熱水噴出口周辺で形成されたもので、ストロマトライト様構造は熱水起源の沈殿物であることを見出した。また、最古の生命化石は光の届かない深海底で生息していたことが明らかにされた。従来ピルバラ地域で発見された最古のバクテリア様化石は、浅海に住むシアノバクテリアと類似しているとされてきたが、生息環境が明らかになった結果、海嶺熱水系の周辺に生息していた超好熱性バクテリアである可能性が高くなった。
[←先頭へ]真核生物化石 (しんかくせいぶつかせき:the fossil eucaryota)
生物は原核生物と真核生物に大別できる。真核生物には遺伝子を染色体にまとめて収めた核があり、さらに酸素呼吸のためのミトコンドリアや光合成を行なう葉緑体などの細胞器官が存在し、原核生物やシアノバクテリアのものと極めて似ていることが分子系統学的に示され、真核生物は複数の原核生物の細胞内共生によって生まれたことがほぼ実証された。真核生物は、有性生殖により遺伝子を異なる個体間で組み合わせて子孫を作ることができるので、原核生物に比べて進化のテンポが飛躍的に速くなったと考えられている。そして、単細胞の原生生物はもちろん動物、植物、キノコなどを含む菌類などの多様な生物へと進化した。真核生物は原核生物(10ミクロン程度の大きさの細胞しか持たない)よりも明らかに大きな細胞(直径40ないし200ミクロン)を持つ。18億年前の地層からは、比較的サイズの大きいチュアリア(Chuaria)などの化石が見つかっている。また真核生物に特有のステロイドという有機物が変化したステランという有機物質も発見されており、これらが真核生物最古の記録とみなされていた。最近になって21億年前のグリパニア・スピラリス(Grypania spiralis)の発見によって最古の真核生物の化石記録は3億年も古くなった。この化石は直径約1cmで蚊取り線香のように螺旋形をしており、アメリカ・ミシガンで発見された。最近、この最古の真核生物の出現に先立って、地球がほぼ全面的に凍結し(「全地球表面凍結仮説」)、その後急激に大気中の酸素分圧が増加したという仮説が注目されるようになり、全地球表面凍結事件と真核生物の進化の関連にも注目が集まっている。
[←先頭へ]生命と地球の共進化 (せいめいとちきゅうのきょうしんか:Coevolution of Life and Earth)
地球上の生物の歴史の中で、生命の誕生、光合成の始まり、真核生物化、多細胞動物の出現、陸上への進出、人類の出現は、大きな出来事であった。これらの出来事が起こった時期に固体地球では上部マントルと下部マントル物質の大規模な混合、スーパープルームの活動、あるいは超大陸の形成や分裂事件があったことが明らかになってきた。27億年前の急激な大陸地殻の成長や地球磁場強度の急激な増加によって浅海域が拡大し、有害な宇宙線が地球磁気圏によって遮られるようになり、浅海域に広範囲にシアノバクテリアが繁殖した。シアノバクテリアの光合成は地球大気を酸化的にし、ひいては真核生物や多細胞動物の出現を可能にした。また、オゾン層の形成や地表に露出した大陸の拡大によって植物の陸上への進出を可能にした。一方、6400万年前の天体衝突事件は恐竜を絶滅に追いやり哺乳類の時代への転回点となった。このように生物進化の歴史は生物固有の事情だけでなく、生命を育み進化させた固体地球のダイナミクスや地球を含む太陽系の運動や銀河の構造とも関わっていることが認識されるようになった。こうした研究から共進化する生命と地球の具体像が明らかにされつつある。
[←先頭へ]生命の起源 (せいめいのきげん:origins of life)
生命の起源論は19世紀以来長い論争が続いている。1900年代はじめにアレニウスは生命が宇宙から飛来したとする仮説を提示したのに対し、オバーリンは生命が原始海洋の有機物スープから誕生したという仮説を提示した。1953年、ミラー(Miller)が、原始大気類似の還元的ガスに放電を行ってアミノ酸などの有機物を作ることに成功したことで、生命の起源が科学的研究対象になった。メタンやアンモニアなどから生命のの材料物質であるアミノ酸、糖、核酸などが合成される段階を化学進化と呼んでいる。化学進化は原始大気や海洋で進行したものと考えられているが、原始地球に大量に降り注いだ彗星や隕石からも有機物がもたらされ、生命誕生の材料が供給された可能性もある。自分で自分を複製する生命は、@遺伝情報に基づき、A光あるいは科学的エネルギーを使って、B触媒反応を行なって体の構成物質を作る。生物に普遍的に存在するRNAは、遺伝情報をもち、リン酸結合を切ることによってエネルギーを発生することができ、また自分自身の特定部分を切断したり再結合したりする触媒作用を持っているので生命の自己複製に必要な3要素をすべて兼ね揃えている。そこで、まずはRNAがDNAに先立って形成されたと考えられている(RNAワールド仮説)。やがて、RNAは、外界と膜で隔てられた空間に閉じ込められ、遺伝情報の担い手の役目をDNAに、触媒作用をたんぱく質に引継ぎ、自らは遺伝情報をタンパク質合成の場に伝える役目を果たすようになった。最初の生命は、外界に豊富に存在する有機物を消費していたが、やがて枯渇すると、化学合成や光合成によって必要な有機物を自らの手で作り始めたと考えられている。
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多細胞動物の出現 (たさいぼうどうぶつのしゅつげん:emergence of metazoa)
単細胞の真核生物で葉緑体を持たないものを原生動物(protozoa)と呼び、それ以外の動物を後生動物(metazoa)と呼んでいる。原生代の末期になって後生動物が出現するようになる。多細胞動物の出現を示唆する最古の化石記録は、今から約6億年前の数ミリ程度の幅を持った這い跡や堆積物中を移動した痕跡の化石(生痕化石)である。また、痕跡を残した動物の化石は見つからないが、環形動物程度の体制を持った動物であったと考えられる。動物の体そのものをとどめている化石記録によると、多細胞動物の出現が3段階で進んだことが分かる。まず約6億年前ごろからは硬い殻を持たない動物が出現した。これらはエディアカラ化石生物群と呼ばれている。従来エディアカラ化石生物群は、腔腸動物、環形動物、節足動物などを含む最古の多細胞動物化石群と考えられてきた。最近ドイツの古生物学者ザイラッハー(Seilacher)は、エディアカラの化石の多くが、極端に扁平な体を持ち、また細長い模様が密に繰り返している構造を持つことに着目し、エディアカラの化石はエアマット上の構造を持った生き物の化石であると主張している。このような形態の生物は、動物にも植物にも見当たらないので、原生代末に栄えた絶滅生物であるとし、ヴェンドビオントと命名した。これらの生物はカンブリア紀に入ると急激に衰退してしまう。一方、5.45億年前のカンブリア紀の初めには肉眼で辛うじて見える大きさの鉱化した棘や鱗を持った動物が出現した(small shelly fanna 略してSSF)。これらは死んでからバラバラになった棘や鱗なので、持ち主の動物がどのようなものか推定することは難しい。カンブリア紀の中ごろになると、全身が有機質や鉱物質の硬いからで被われた、多様な形態を持つ多細胞動物が一斉に出現した。これらはバージェス頁岩化石動物群と呼ばれ、アノマロカリス、オパビニア、ネクトカリスなど奇妙な生き物が多く、注目されている。最近、バージェス頁岩動物群より保存のよい化石が中国で発見され、澄江(チェンジャン)動物群と呼ばれている。
[←先頭へ]地球化学サイクル (ちきゅうかがくさいくる:geochemical cycle)
地球を構成する物質は、さまざまなプロセスを介してサブシステム間を循環している。炭素循環(carbon cycle)を例にとると、海洋表面を介した大気と海水間の二酸化炭素の出入りや、光合成と呼吸による生物圏とのやり取りが、地球表層の二酸化炭素の流れを規定する主要なプロセスである。海水中へ溶け込んだ二酸化炭素の炭酸塩岩としての堆積や、有機物の堆積物中への埋没は、比率としては小さいため、地球表層における炭素の循環はほぼ定常的である。しかし、長い時間スケールでは、有機物の堆積物中への埋没、炭酸塩岩の堆積、火山活動によるマントルからの脱ガス、変成作用や造山運動による埋没有機物や炭酸塩岩の大気・海・海水へのリサイクルのフラックスが、大気中の二酸化炭素の存在量を規定する重要なプロセスとなる。これらの変動が、大気中の二酸化炭素の増減を引き起こし、ひいては気候変動の原因となる。地球システムにおける物質循環を地球化学サイクルと呼ぶ。地球化学サイクルの研究では、着目した元素あるいは物質ごとに、リザーバー(reservoir)と呼ばれる各サブシステムそれぞれにおける物質の存在量とリザーバー間の物質の流れ(フラックス flux)の変動を扱う。各サブシステム内の物質の量やフラックスが時間変化しない場合は、システムは定常状態であるが、物質循環の素過程が変化すると、サブシステム間のフラックスが変化し、時間変動が生じる。
[←先頭へ]地球システム科学 (ちきゅうしすてむかがく:earth system science)
多数の要素から構成される集合体(系)は一般的にシステムと呼ばれている。地球は、大気、海洋、地殻、マントル、核、生物圏などの多数の構成要素(サブシステム)からなる巨大なシステムである。地球システム化学は、地球を1つのシステムとして捉え、サブシステムの構造や組成の時間発展、サブシステム間の相互作用やその結果として生じるさまざまな時間変動の仕組みを理解する学問分野である。地球環境問題が顕在化し始めた1970年代に、地球全体を扱う必要性が生じ、個別学問分野の枠を超える学問分野として思想的原型が構築された。80年代後半になって地球温暖化問題などがクローズアップされる中で体系化が進められている。地球システムの物理化学的状態を規定する主な要因は、サブシステム間のエネルギーと物質のやり取りであり、気候変動と生物圏を含めた地球科学サイクルが地球システム科学の重要な研究課題となっている。
[←先頭へ]地球内部構造 (ちきゅうないぶこうぞう:structure of the Earth)
固体地球が、核(core)、マントル(mantle)、地殻(crust)からなることは、地震波を用いた地球内部構造の研究が始まった20世紀初めに明らかにされ、その後精密化が進んだ。地球内部を構成する物質の研究は1960年代以降盛んになり、地震学的情報から得られる物性パラメータ(地震波速度や密度など)と地球構成物質の高温高圧実験による物性測定データの比較によって、推定が行なわれている。80年代になって、地球自由振動の研究により、内核(inner core)の半径と密度が精密に見積もられるようになり、それぞれ1216km、12g/cm3であると見積もられた。核は鉄ニッケル合金でできており、外核(outer core)は地震波のS波伝播しないことから金属鉄が溶融状態にあると考えられている。マントル最深部の厚さ200kmの領域は地震波速度の不均質性が大きく、D"層(ディー・ダブル・プライム層)と呼ばれている。マントルは、660kmの地震波速度の不連続面を堺に、上部マントルと下部マントルに分けられている。深さ400kmから660kmにかけては、地震波が急増していることから、マントル遷移層と呼ばれている。上部マントルはカンラン岩質であり、400kmと660kmの地震波速度の不連続は、カンラン石(オリピン)などのマントル構成鉱物の結晶構造の変化(相転移)に対応している。地球内部の温度は、中心で5000〜6000K(ケルビン)、マントル−核境界で3500〜4500K、上部マントルで約1500Kと推定されている。
[←先頭へ]地球内部ダイナミクス (ちきゅうないぶだいなみくす:dynamics of the Earth's interior)
マントルトモグラフィーで明らかにされたマントルの3次元構造は、マントルの対流運動の現れであると考えられる。そこで、マントルの3次元構造とマントル対流モデルを組み合わせて、地球内部の運動状態を明らかにしようという、地球内部ダイナミクスの研究分野が1980年代以降大きく発展した。地球表層はプレート運動に支配されており、そこで起こる大規模地質構造の形成は、1960年代にプレートテクトニクスによって体系化されたが、地球深部ではプレート運動に対応するような構造は認められず、大規模な上昇流や下降流で特徴づけられる深部マントルの運動様式は、プルームテクトニクス(plume tectonics)と呼ばれている。特に、マントル最下部のD"層は、大規模上昇流の発生場、沈み込んだプレートの蓄積場、マントルと核の物質や熱のやり取りの起こる場として注目されるようになっており、大規模な不均質性や地震波速度の異方性(伝播方向によって波の伝わる速度が異なる)の存在が示唆されている。また、大規模な低速度領域が存在することから、構成物質は部分溶融状態にあることが最近の研究で明らかにされた。一方、内核にも異方性が存在しており、極方向に対する地震波速度は赤道面内を伝わる波の速度より10%大きい。このような異方性は内核を構成する六方最密充填構造を持つ金属鉄の結晶方位が一定方向にそろって配列していることによって生じたものであると考えられている。外核の円筒状に配列した対流運動によって、赤道方向から選択的に熱が輸送されることにより、内核の成長が赤道面で選択的に起こり、それを緩和するように流動が生じており、構成物質の選択配向が形成されるという考えがある。また、内核はそれを取り巻く部分よりも早く回転していることが、異方性の方位の永年変化から示唆されている。
[←先頭へ]地球のレオロジー (ちきゅうのれおろじー:rheology of the Earth)
固体の強度、塑性や流動に関する学問分野をレオロジーと呼んでいる。地球は流動特性から見ても成層構造である。地球表層の流動しにくい層はリソスフェア(lithosphere)と呼ばれている。リソスフェアの厚さは海洋と大陸で異なっており、海洋地域では約100km、大陸地域で150〜200kmである。リソスフェアはプレート(plate)とも呼ばれており、中央海嶺で生まれた海洋リソスフェアは、粘性率が低くて流動しやすいアセノスフェア(asthenosphere)の上を水平移動し、沈み込み帯でマントルに潜り込む。海洋地域ではアセノスフェアは地震波速度の遅い低速度層に対応している。スカンディナビア半島など最終氷期に暑い氷床で覆われた地域では、氷床による重荷が消滅してから徐々に隆起しつつあり、その隆起速度の解析から上部マントルの粘性率は10の21乗パスカル・秒と推定されている。大陸下では低速度層は不明瞭である。太古代、原生代初期に形成されたクラトン(craton)と呼ばれる古い大陸地殻の下では特にリソスフェアが厚く温度が低くて地震波速度が大きいことからテクトスフェア(tectosphere)と呼ばれることがある。下部マントルは上部マントルに比べて粘性率が100倍から1000倍大きいと考えられている。外核は液体状であり、粘性率は水と同程度と考えられており、地球を構成する他の層に比べて著しく小さい。
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氷期−間氷期サイクル (ひょうき−かんぴょうきさいくる:glacial-interglacial cycle)
人類の出現した新生代第四紀は、氷河期と間氷期の繰り返しで特徴付けられる。約2万年前に最盛期に達した最終氷期(ビュルムーウイスコンシン氷期)は、その後収縮へと転じ、約1万年前に終わる。約1万年前から現在までの完新世は温暖な気候が持続している。氷期と間氷期は過去70万年間に7回繰り返しており、最終氷期より前の氷河期は、新しいものから順に、リス、ミンデル、ギュンツ、ドナウ、ビーバーと名づけられている。最終氷期とリス氷期の間にある約13万年の間氷期はエーム間氷期と呼ばれている。
氷期−間氷期サイクルの研究は、1970年代から海洋底の堆積物コアの研究が活発に行なわれることで、大きく進歩した。海洋底堆積物中の有孔虫化石の酸素同位体比は、氷床の発達程度を表す指標となっている。また、その炭素同位体比の研究から、海洋深層水循環(熱塩循環ともいう)が変動したことが示唆されている。さらに、グリーンランドや南極氷床から採集されたコアの研究から、氷期−間氷期サイクルと同期して温室効果気体である二酸化炭素やメタンも変動したことが明らかにされている。氷河期と間氷期の繰り返しは、大局的には地球軌道要素の周期的な変化に伴なう日射量の変動(ミランコビッチ・サイクル)に支配されているが、地球の受け取るエネルギーの変化量はわずかであり、気候システム内部に気候変動の増幅機能があると考えられている。大気中の二酸化炭素濃度の変動を伴なう大規模な気候変動の原因としては、海洋循環が大きな役割を果たしているものと考えられている。最近になって、氷河期に大陸氷床がカタストロフィックに海洋に流れ出し、急激な気候の温暖化を招いたことが明らかになってきた。この時流れ出した氷床中に取り込まれていたレキや砂が海洋底に降り積もっており、その発見者にちなんでハインリッヒ・イベントと呼ばれている。一方、グリーンランド氷床氷のコアの詳細な分析によって、最終氷期中に多数の温暖期と寒冷期が繰り返したことが明らかになり、このような数千年スケールの気候変動のサイクルはダンスガード・オッシュガー・サイクルと呼ばれている。ハインリッヒ・イベントはダンスガード・オッシュガー・サイクルと対応している場合がある。
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マントルトモグラフィー (まんとるともぐらふぃー:mantle tomography)
地球内部構造の地震学的研究は、1980年代より成層構造の研究から水平方向の不均質性の研究へとシフトしていった。医療で用いられるX線CTスキャンの方法と同様の手法により、多数の地震波の到来時刻(走時)を満足する3次元地球モデルが構築されるようになった。このような研究をマントルトモグラフィーと呼んでいる。マントルトモグラフィーの研究によって、地球内部は水平方向に不均質であり、地震波速度が大きい領域と小さい領域の分布が明瞭に示されることになった。地震波速度の大小は、大局的にはそこでの温度の高低を意味していると考えられている。プレートの沈み込み帯では、速度の大きい領域は、沈み込んだプレート(スラプ)に対応している。また、深部マントルの速度が大きい領域は、マントル下降流、速度が小さい領域はマントルの上昇流に対応していると解釈されている。太平洋やアフリカ大陸の周辺には、多数のホットスポット(hot spot)が形成されているが、それらは深部マントルに由来するマントルの上昇流によって生み出されたものである。ハワイやアイスランドなどの活発なホットスポットでは、プルームの上昇(「気球内部ダイナミクス」)を示唆する低速度領域が深度400kmまで確認されている。一方、中央海嶺に対応する帯状の低速度領域は、比較的浅い。地球内部構造の詳細な研究は、できるだけ密に観測点を配置することで空間分解能をあげることが重要であり、わが国ではアジア太平洋地域に地震観測網を展開した海半球計画などが行われている。
[←先頭へ]水惑星 (みずわくせい:aquaplanet)
太陽系の惑星である地球の特徴を最も端的に表現した言葉の1つで、とりわけ水が地球に住む生命の誕生と存続に重要な意味を持つことを強調している。水は地球形成の材料となった隕石や彗星からもたらされた。形成初期の地球は溶融状態を経て冷却し、遅くとも39億年前には液体の水が存在するようになった。このころ水中で生まれて進化してきた生命は、生きてゆくために液体状態の水を必要とした。また、オゾン層がなかった原始地球では、水は生命に危険な紫外線を遮るバリアとしても役立った。ようやく古生代のシルル紀からデボン紀にかけて植物や動物が上陸したが、現在も多くの生き物の生活の場は水中である。陸上の生き物でも、例えば両生類は、繁殖にあたって水中に産卵するものが大部分を占めるなど、水への依存度は大きく、生命の必須の構成要素である。一方、最近の丸山の研究によると、プレートの沈み込みに伴なってマントルへ戻っていった水がマントルの運動を引き起こす主要な原因となっている可能性が出てきた。また、歴史的にみると約10億年前から海水がマントルへ逆流をし始めたらしい。この考えによると、数億年先には海水のほとんどがマントルへ逆流し、地球表層環境は現在の火星のようになってしまうだろう。水が地球環境の維持に果たした役割、生命の発生、進化に与えた影響などを組織的に探る超領域研究が浜田隆士の提唱で水惑星プロジェクトとして1998年から進められている。
[←先頭へ]ミランコビッチ・サイクル (みらんこびっち・さいくる:Milankovitch cycle)
地球は、わずかに円からずれた楕円軌道をとって太陽の周りを回っている。軌道の円からのずれの大きさを表す離心率は、木星や土星の引力を受けて数万年の時間スケールで変動している。また、地球の自転軸は太陽系の赤道面に対して約23度傾いており、四季の変化を生み出しているが、その角度も木星や土星の引力によってわずかに変化している。このような地球の軌道や自転運動を表すパラメータが変動することで地球が受け取る日射量とその地理的分布が変化し、ひいては氷河期と温暖期が繰り返すという学説を氷河期の天文学説と呼ぶ。
ユーゴスラビアの地球物理学者M.ミランコビッチは1910年代から30年代にかけて、地球の軌道要素の変動とそれによる北緯65度の夏季の日射量の変動を計算し、氷河期の天文学説の定量的評価を行なった。日射量の変動には、地軸の歳差運動と離心率の変動によって起こる気候歳差の2.3万年、1.9万年周期、地軸の傾き角の変動の4.1万年周期、軌道離心率の変化の約10万年、43万年周期などがあり、それらを総称してミランコビッチ・サイクルと呼んでいる。ミランコビッチ・サイクルと気候変動の関係は、年代の不一致から一時期見捨てられたが、70年代に年代決定精度が向上し、深海底堆積物の酸素同位体の変動曲線にミランコビッチ・サイクルに対応する周期性が発見されて復活した。日射変動の10万年周期の振動はわずかであるが、過去の氷期−間氷期サイクルは、10万年周期が卓越しており、その食い違いは10万年周期の謎と呼ばれている。ミランコビッチは、高緯度地域の夏季の日射量の変動が極氷床の消長に影響し、氷河期と間氷期が繰り返すと考えたが、実際には氷河期の到来は汎世界的に同一時期に起こっていることもあり、気候システムの中に微弱な日射量の変動を増幅する作用が存在するものと考えられる。
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